「失せモノ登場」
失せモノのことなど
忘れてしまえ
どうせ出てこぬ 目の前から消えたモノだ
いつも使っていた名刺入れがなくなった
名刺という仕事に欠かせないモノを入れる
これ 本来なら大事な道具
出して入れて 入れて出して
ぼくの分身たる名刺 相手の分身たる名刺
それらが出たり入ったり
消えたのは 何千円かはしたシロモノ
何年かは使ったシロモノ
落としたか 家の中でか 職場の中でか
どこかに紛れてしまったか
とにかく消えた 出てこない
とはいえ
再雇用 嘱託の年契約で糊口をしのぐ身にすれば
名刺にさほどの価値もなく
名刺入れが消えたところで
代わりに スマホケースのポケットに突っ込んでおけばOK
それで何カ月かしのいできた
でも ないよりはあったほうがいい
何千円も払う気にもなれず
100円ショップで探したものの
さすがにビニールの粗末なモノしかない
そこまで 名刺も 自分も 落ちてはいまい
ちゃんとしたところで
ちゃんとしたモノを買おうか…
と
思っていた矢先
名刺入れが出てきた
滅多に着ないブラックスーツを着たら
その上着のポケットに入っていた
おおー そこにいたのか オマエ!
失せモノ戻る――
まだまだ働く場はあり
前を向いて 歩いて行けってサ