■最強・最大NHKの「体質」
マスコミってナニ?(20)
ニュースの存在を考える 「マスコミへの道」改
◇40年近くたってもNHKは同じ
長引き、泥沼から抜け出しそうもないロシアによるウクライナ侵攻。
欧米の主なマスコミがウクライナの最前線に近いところで取材をする中、わが日本のマスコミはウクライナの西部、ポーランド国境近くでの現場ルポなどが中心で、ウクライナの首都キーウにとどまって一定量の報道をしているのはNHKくらいだ。
さすが天下のNHK。記者、スタッフの安全を確保し、現地との取材のパイプを作りながら映像と原稿を送り続けられるのはアッパレ、と思う。
僕は中学生のころに見た「NHK特派員報告」(火曜夜7時半の30分番組)という報道番組を見て、報道記者、別けても海外特派員になりたい、と思った。それはNHKに入ることだ、と。大学4年時、当時はNHK志望者は「学内選考をへて推薦」をもらう必要があった。マスコミ向けの勉強をろくにしてなかったのだが、なぜかそれには通ってNHKを受けたが、試験はそこそこ難しく、当然のように不合格。他のマスコミもまったく歯が立たず、まったく違う業界(銀行)に就職した。そこの仕事がいやでいやでたまらず、1年で辞め、マスコミを受け直し、縁があった今の会社に結局定年まで勤めた…。
大NHKはずっとあこがれだったし、やはりその取材力はどこも太刀打ちできない…というのが昔も、今も抱く感情である。
NHKの場合は、全体からいえば、報道、取材分野に割く人的、物的量はそれほどでもないだろう。報道以外の音楽やドラマ、一般番組の制作にも膨大な人員を投じている。
芸能担当だったころにもそうしたドラマ制作関連の取材をしていたが、「放送記者会」という記者クラブがあり、それは渋谷のNHK放送センター内に置かれていた(今は知らない)。
そんな中、大NHKと一人で戦った人の恨みが凝縮された本に出合った。
NHK犯歴簿(2002年11月刊)。著者の山口玲子という人は、現在88歳の伝記作家である。
日本の近代女優第一号と言われる川上貞奴を軸に展開する1985年放送の大河ドラマ「春の波涛」が、山口の著作を基に企画・構成されながら、実際は内容が異なる杉本苑子の「マダム貞奴」その他を原作としてクレジットし、著作権を侵害されたと訴えた「春の波濤」事件について詳述した本である。
そのドラマは知っていたが、当時見ておらず、そんな訴えがあったというのを初めて知った。
この裁判に当初、原告(山口)弁護人としてついたのが、現代詩の世界では有名な中村稔で、その彼も途中で弁護人を下りた、ということも書かれていた。
裁判そのものは、山口本が「史実の列挙であり、それをドラマの企画に生かしたことは著作権の侵害にはあたらない」という判決が最高裁まで争われた結果である。
この山口本しか読んでいないのだが、おそらく彼女が著作の中で指摘するとおり、NHKはパクったにも関わらず、それを関係者同士で口裏を合わせる巧妙な法廷闘争で逃げた…ということだろう。
現代詩界でも著名な中村稔弁護士も、法律的にはNHKには勝てない、と思い、途中で下りた、のだろう。
本の中では、一時はNHKが和解を示したものの、山口がそれに応じなかったために、結果的には道理が曲げられてしまった…と書かれていた。
事件そのものは40年近く前、最高裁判決が出てからでも24年もたっているのだが、大NHKに限らず、巨大組織に個人が挑むのは土台無理ということを改めて感じさせられた本であった。
NHKの番組はよく見るし、愛着もあるが、組織、企業体としてはけしからん、と思うことが多々ある。それを感じさせた一冊だった。
◇※写真は同書の書影
2021年2月19日の「■われわれはマス「ゴミ」ではない!」から60本にわたって書き綴った、マスコミ界歴35年の筆者が、改めてマスコミ(新聞、出版、放送)界と社会、世界について書き綴る。マスコミ志望者必読。