「山の神」
山の神 吠える
怒っているのか
怒っているようではある
何を言っているのか
聞いているふりだけなので
頭の中に入らない
吠えている
かと思ったら
山の神 哭いている
ティッシュを目に当てている
何があった?
山の神 掠れ声でいう
「ホント オリンピックやってよかったよぉ」
あ…感動したって!?
ふむふむ
じっとテレビを見てた山の神
「立て 立ちなさいよ 立てって言ってるだろうが!」
突如 噴石が飛んできた
直撃されたらひとたまりもない
立てって なんのことだ?
「選挙に立つんだよ!」
えっ?! どこの?
「区議でも市議でも どこでもいいから立候補しろよ ホントにっ」
え、なんでそんなことを?
「何年もマスコミで働いてきて 政治部も経済部もいたんだろが」
ああ…はい それは事実だけど 三流記者だけど
「だ~か~ら~ 今の自分の立ち位置に不満があんだろ あんた」
え まぁ… うん でも まぁ 今更議員なんてねぇ…
「知ってる自民党の議員に頼み込めばいいじゃん ぼくがこの町を変えますとか言って 立ちゃあいいんだよ! あたしだって『主人をよろしく』って頭下げて回るよ」
えっ そんなことほとんど考えてないんですけど
山の神は 酔った濁った眼でこちらを見る
まだ噴火は止まない
「だ~か~ら~ 今からだってやれんだろーよ」
…って そんな甘いもんじゃないって 10年前なら まだ考えないでもないけど
もう ぼく終わってるし…
「……」
あ 山の神は 静かになった 寝息を立て始めた
お山は 鎮火したようだ
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