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毎日の変わらない朝食が愛おしい映画|『わたしの叔父さん』
2021年に見逃していた作品『わたしの叔父さん』をU-NEXTで鑑賞しました。
デンマークの農村を舞台に、体の不自由な叔父と一緒に家畜の世話をして生きてきた女性に訪れる人生の転機を、時にユーモアを交えながら美しい映像で描いたヒューマンドラマ。
2019年の第32回東京国際映画祭コンペティション部門で、最高賞にあたる東京グランプリを受賞しています。
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クリスは幼い頃に家族を亡くし、今は叔父さんと二人で伝統的な農場を切り盛りしながら暮らしています。叔父は脳梗塞の後遺症で体が不自由となり、着替えなどはクリスに手伝ってもらう状況で、農場の仕事は主にクリスがこなしています。
二人は多くを話すこともなく日々の仕事と毎日を淡々とこなしていく。一見すると穏やかな生活に見えますが、同じような毎日でも全く同じ日はありません。
クリスには獣医になるという夢があった。
ある時、教会で出会った青年マイクからデートに誘われた。
小さくでも確かに、悩みや老い、将来のことに関する変化は現れます。将来の夢と恋に悩むクリスに気付いた叔父は、姪の幸せを静かに後押ししますが……。
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監督・脚本・撮影・編集を手掛けたフラレ・ピーダセンさんは、小津安二郎を師と仰いでいるそう。まさに固定カメラで少し離れたところから二人の生活を捉えようとする雰囲気は、小津作品のようでもあります。
そしてなんと叔父さんを演じるのは、クリス役のイェデ・スナゴーの実の叔父さんだそうです。舞台となる農場も叔父さんの農場で、フィクションですがドキュメンタリーのように見えるのは、演者さんたちから滲み出る雰囲気がそうさせているのかもですね。
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▼▼『わたしの叔父さん』に出てくるごはん▼▼
朝食
叔父さんとクリスの朝食シーンが何度も登場します。彼らは毎日毎日、飽きもせず同じものを食べます。叔父さんはマフィンを軽く焼いてヌテラを塗って食べ、クリスはシリアルのようなものを食べる。
この毎朝同じものを食べるというシーンを何度も見せることで、後から効い
てくるとても可愛いシーンがあるんです。
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クリスが黙って外出した次の日。
叔父さんへの罪悪感なのか穴埋めとしてなのか、ベーカーリーで購入したいつもと違うパン(たぶんいつもより高級で美味しいパン)が食卓に並びます。「なぜいつものパンじゃない?」と不思議そうな叔父さんの表情、それをこっそり確認するクリスの表情。可愛かったなぁ。
後半ある場所で叔父さんは過ごすことになり、いつもと違うパンが出てくるが一口かじるだけで食べようとしない。そんな様子を見て、クリスが取った行動がこれまた可愛い。
毎日毎日、飽きもせず同じものを一緒に食べるということが、二人にとっては大事で、今まで歩んできた大切な時間を感じさせる。
水門シチュー
青年マイクとのデートで訪れるお店では、水門近くのレストランでした。(たぶんこの辺りで唯一の少し高いレストランなんじゃないかな)
このデートにクリスは叔父さんも連れてきてしまい、何ともいない表情のマイクが面白い。このシーンのユーモアよかったなぁ。
このレストランで叔父さんが食べるのが水門シチュー。クリスとマイクは魚料理を食べていました。
クリスの作り置き
クリスが初めて2日ほど牧場を離れることになり、一人お留守番をする叔父さんのために、ジャガイモにケールを混ぜたもの、ミートボールとキャベツなど温めるだけで食べれる複数の作り置きを用意します。
コペンハーゲンの回転寿司
クリスが牧場を離れてコペンハーゲンに行くシーンでは、回転寿司が登場。レーンに扉がついていて、よく見る日本の回転寿司とは少し異なるけれど、ちゃんと生魚で握った寿司がお皿に乗って回転していました。
たぶん初めて寿司を食べるクリスは、最初こそ戸惑っていましたが、自ら寿司を手に取り楽しそうな表情も見せ、旅のわくわく感を感じました。
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本作のラストシーンは、すごく印象に残ります。
叔父さんがいることでクリスは外の世界に出れないように見えるけれど、クリスがそれを望んでいるのは分かりません。
でもいつか終わりがくることはみんなが知っています。同じような日々でも少しずつ変化があって、わたしは本作のラストは、すごく温かくてユニークで希望を感じました。
▼監督キャストのインタビュー
デンマークでは、ローアングルのショットを「オヅ・ショット」と呼ぶらしいです。おもしろい!
▼追記
日本でもやっと表面化してきたヤングケアラー問題ですが、福祉が充実しているイメージの北欧でも、同じような問題はあるんだなぁと知りました。そして北欧ではこうした若者への支援も積極的に行われているようです。日本でも支援に力を入れてほしいなと思います。
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