裵 英洙先生、藤井雅巳と考える”これからの病院のあり方”対談レポート
イントロダクション
まちだ丘の上病院(まちおか)では、これまで多数のゲストをお招きして、YouTubeで地域医療や終末期医療を考える対談を行ってきました。
今回は、ハイズ株式会社 代表の裵 英洙先生をゲストにお迎えし、 これからの病院のあり方について 、当院の代表藤井と対談を行いました。
まちおかとは
まちだ丘の上病院のミッションは、 地域を支える存在であること。
このミッションのもと、療養型病院として入院、外来診療(内科・整形外科・リハビリテーション科)、重症心身障害児(者)施設を提供しています。
2020年秋には、地域の健康とつながりをテーマにしたカフェと訪問看護ステーションが併設するコミュニティスペース「ヨリドコ小野路宿」をオープン。
2022年からは以前より地域のニーズが高かった「訪問診療」を小さく開始しました。今後は訪問診療を拡大していくことで「地域を支える」ミッションによりいっそう近づくことができると考えています。
裵先生の紹介
裵先生は元々外科医として病院に勤められていました。医師10年目の時、勤務先の病院の業績が悪かったため、副院長に原因を尋ねてところ、副院長から「原因がわからない」 と返答があったそうです。――当時を振り返り、裵先生は、「その様に答えた副院長自身も辛そうに見えた」と言います。
次第に、病院のマネジメントに問題意識を持つようになり、自分でマネジメントを勉強し、病院経営に関わることが、患者さんと職員のハッピーに繋がるのではないか、と考えたそうです。そこで、医療機関経営コンサルティングサービスを展開する、ハイズ株式会社を立ち上げられました。
この病院の”ウリ”とは何ですか?
今回のイベントのテーマは「これからの病院の在り方」。裵先生はその中でも、「ヒト」に焦点を当て、これからの病院に必要な採用、育成、組織運営の考え方について、お話しいただきました。
※ここからは、経営企画室職員である筆者が、この講義の中でポイントだと思われる部分を抜粋して、書いていきます。
裵先生は、まずは病院の採用について問題提起をされました。
「一般企業は人材採用において、ペルソナ(自社が求める人物像)を設定するのが一般的です。ですが、病院ではペルソナをきちんと設定していないところも多いです」
ペルソナを設定するためには、「自分たちの病院の価値をどのような人に広めたいか」 、「どんな人と一緒に働きたいか」 、「既存職員はどんな新規職員が来ると嬉しいか?」 という問いを考える必要性があります。
結果的に、その問いを深めることは、自分達の“病院のウリ”を考えることに繋がると裵先生は言います。
病院のウリを聞いた際よく「たくさんの症例の患者さんを診ることが出来ます」や「救急車の受け入れ台数が他院よりも多いです」というウリをよく聞きます。
しかし、この様なウリは他の病院でも似たようなものであり、埋もれてしまいやすい。 ウリをきちんと発信していくためには、①イメージしやすい、➁腹落ちしやすい、③分かりやすいの3つのキーワードが大切だと裵先生は言います。
良いチーム、良いリーダー、良い人材とは?
続いて、組織運営、人材育成に話がうつります。
裵先生は、チーム・組織運営を考える際に、 「一人当たりの生産性」 と「人員」 という2つの観点から分析されると言います。
裵先生は続けます。
組織には、職員の能力の差があるのは当然ですが、能力のあげ方についても、2種類の方法があります。
1つ目は、能力が組織の平均値よりも低い人を、平均値に近づけていく、「技術のボトムアップ」です。 2つ目は、能力が組織の平均値よりも高い人を、さらに上のレベルの能力にあげていく「技術のトップアップ」 です。
良いチームは組織の能力の平均値が高く、ひとりひとりの格差 が小さいと裵先生は言います。
「従来は、労務管理 という考え方が主流になっていましたが、現在では、人的資源管理 という考え方が主流になりつつあります」このような変化の中ではリーダーは3つの役割を、使い分けていくことが重要です。
最後に、裵先生は講義をこのように締めました。
職員の多様性をどう捉えるか?
ここからは、ゲストの裵先生と当院の代表藤井の対談になります。
藤井:
―― 世の中では多様性が謡われていますし、私自身必要性も感じています。一方で、組織となると、多様性が広すぎると組織がまとまらないこともあると思います。裵先生は組織の多様性についてどの様にお考えですか
裵先生:
多様性には、「職能の多様性」と「意識の多様性」があると思います。職能の多様性はあってもいいと思いますが、意識についてはバラつきがないほうが良いと私は思います。職員の意識がばらつくと、組織の目指す方向性も分からなくなり、先ほど申し上げた組織のウリも分かりづらくなってしまいますよね。
藤井:
―― 確かにそうですね。意識の多様性の部分においてはライフステージの変化にも影響するのではないかと感じています。仕事とワークライフバランスについてはどの様にお考えですか
裵先生:
そこはまさに働き方改革で大切にすべきポイントです。その上で、私は4つの確保が大事だと感じています。①やりがいの確保、➁給与の確保、③私的時間の確保、④健康の確保。この4つは、その人によってやライフステージによって濃淡があります。この4つのうちで今何が必要なのか。4つの確保のバランスを意識することが大切だと思います。また、多様性はそもそも余裕がないところには生まれません、多様性を許容するためには、十分に人が揃っていることが必要であるとも思います。
療養病院はどのような"料理"を提供するところなのか?
藤井:
―― まちおかは既存の療養病院のイメージを飛び越えたいと思っています。しかし、一般的に療養病院はゆっくり働くところというイメージを持たれている人も多いのも実情と思います。そのような環境の中で、療養病院のウリをどう発信していけばよいと思いますか
裵先生:
病院のウリの話をする際に、私はよく病院を飲食店に例えて説明します。例えるなら、急性期は「俺のフレンチ」。回転率の高さが求められるビジネスモデルです。単位時間当たりの価値が求められます。一方で、療養型病院は、「懐石料理を出す料亭の様なイメージ」 。患者さんの人生や生活に寄り添う。いい意味でスローな時間が流れている空間。だからこそ気付きが生まれ、丁寧な対応ができる。そこに療養病院としての価値があると思っています。決して楽な働き方ではなく、患者さんに真に寄り添う働き方が今後の療養型病院には求められていると思う
どちらがいいかではなくて、患者さんが何を求めているか。これからの病院に求められるのはカルチャー(組織文化)です。他者と比較するのではなく、マイワールド(らしさ)を作っていくことが患者さん、職員の幸福に繋がると思います。
これからの病院のあり方
ここからは、参加者の方から頂いたコメントに回答しつつ、話を進めていきます。
コメント①
藤井:
現場職員に経営情報共有をしながら、後ろから支えていくことでしょうか。医事課職員は経営数字の全体像を知っているし、数字について繊細な人が多い。だからこそ、現場スタッフとコミュニケーションを取って、現場職員に信号を送って、現場職員に気付きを与えるような役割になってくれると嬉しいなと思います。
裵先生:
私は3つあると思います。一つは論理的思考力。感情レベルではなく、全体像を把握して、自分が思っていることを理路整然に伝えれることが大事です。2つ目はタフさ。病院には個性的な医師も多いと思います。その中でもへこたれずに、言うべきことを言うスタンスが必要と思います。最後は愛嬌です。どんな人でも愛嬌のある人に頼まれたら断れませんから。愛嬌がある人がいると、周りも幸せになりますよね。
コメント①
藤井:
病院は、普通は行きたくない場所です。だから、皆さん病院には体調が悪くなってから入院されます。今後は病院は地域の方々のより身近な存在になっていくことが必要と思います。なんとなく気づいたら、病院(医療)がそこにあった。より手前(予防)の仕掛けづくりが必要です。医療と生活の壁を壊していくことが今後は求められてくると感じています。
裵先生:
今回は「ヒト」がテーマでしたので、ヒト関連で考えると今後はキャリアの多面化 が起きてくる様に思います。人生100年時代と言われるように、働く期間も長くなります。そうなりますと、人生で3~4つキャリアを経験するのが普通になります。だからこそ、組織としても、一つのキャリアのみを応援するだけでなく、キャリアの多面化を支えていく。そういうプラットフォームと組織の器の大きさが求められてくるように思います。
おわりに
いかがでしたでしょうか。病院経営コンサルタント×外科医という今までに無かったキャリアを経験してきた、裵 英洙先生のわかりやすい「組織論」、「リーダーシップ論」、「マネジメント論」に触れることが出来たのではないでしょうか。
まちだ丘の上病院では、医師を募集中です。当院では、「臨床×地域×マネジメント」 、「臨床×地域×研究」 、「臨床×地域×経営」 など多面的なキャリア を経験していただけるようなプログラムを提供していきます。
医師以外の職種の方も大募集中です。詳しくは以下のリンクをご覧ください。