事業継承問題に悩む“ものづくりのまち”大阪府八尾市が、解決策としてコミュニティ通貨を導入した理由
製造業を主とする約3000社もの中小企業が集まる“ものづくり”のまち、大阪府八尾市。全国トップシェアの出荷額を占める歯ブラシをはじめ、金属製品や洗剤など生活に欠かせない製品を生み出し、発展してきました。
そんな八尾市では、現在高齢化による事業継承問題に直面しています。後継者不足により、長年培ってきた大切な技術の継承が危ぶまれているのです。
その課題解決の一手として導入された、まちのコイン「やおやお」。産業振興の発展にコミュニティ通貨がどんな役割を担っているのでしょうか?
今回は、運営団体の役割を担う八尾市役所 産業政策課の中谷さんと、大阪信用金庫の八尾支店長を務める青砥さん、副支店長の西田さんにインタビューを実施。八尾市がまちのコインとともに目指すまちの未来を語っていただきました。
<プロフィール>
オープンファクトリーの一環として導入された「やおやお」
中村:八尾市でまちのコインが本格導入されたのは今年からでしたが、そのまえに2021年10月から2022年3月まで実証実験をおこなっていましたよね。当時の導入背景から伺ってもいいですか。
中谷:最初はオープンファクトリーを目的にしたイベント「FactorISM(ファクトリズム)」企画の一環として導入が始まりました。
このイベントはものづくりの現場を一般開放することで、エンターテイメントのように体験、体感して楽しんでもらうために企画されているものです。中小企業・行政・大学・金融機関が連携して立ち上げたコミュニティ「みせるばやお」が中心となって毎年開催しています。
八尾市は国内有数の“ものづくりのまち”として発展してきましたが、現在は高齢化による事業継承という課題を抱えています。その課題解決策のひとつとして「FactorISM(ファクトリズム)」やまちのコインの導入がスタートしました。
また22年度にはカヤックと八尾市、大阪信用金庫の3者による 「産業振興に関する連携協定」が締結され、そこからさらに実証実験としてまちのコインの運用を始め、この23年4月から本格導入となりました。
中村:大阪信用金庫さんが運営団体の一員となったのは、そのタイミングからですよね。
青砥:そうですね。信用金庫としても“地域密着型金融”としての役割がありますので、今回の連携協定を通してまちのコインの運営に参加することは地域活性化のためにも意義のあることだと考えていました。
中村:大阪信用金庫さんはスポット加盟店としても登録されていますが、導入後の変化はありましたか?
西田:「入りやすくなった」と言われるようになりました。チェックインをするために、近くまできたついでに足を運んでくれた方が後日口座開設に再度来店されることもあるんですよ。
そもそも信用金庫ってお取引の用事がないとなかなか行きづらい印象がありませんか?初めてのお店だと特に。
だからこそ、お客さんが入りやすくなるようにいろいろと工夫しているんです。たとえば、八尾支店の窓のディスプレイもそうですね。
中村:窓一面にまちのコインのポスターがびっしり!(笑)。すごいですね。
青砥:ちょうど支店の目の前にバス停があるんですよ。だから目に入りやすくなるように工夫しました(笑)。もちろんロビーの中にもたくさん飾っています。
スポット加盟店や事業者の懸念点は、親身に払拭
中村:まちのコインの導入時は、まずスポットの開拓に着手しますよね。何か意識されていたことはありますか?
中谷:スポット開拓にあたっては、当初から今も「直接会いに行く」ことを大切にしています。電話だけでは他の地域通貨との違いをしっかりご説明できないので。
産業政策課に問い合わせが入ったときにも「とりあえず行かせてもらいます」とお伝えして、ご挨拶に伺います。
最初のころは大阪信用金庫さんが取引されているお客様との打ち合わせに同行させていただくことも多かったですね。市役所としてリーチができていなかった事業者の方にも、大阪信用金庫さんのネットワークでつないでいただき、とても助けられました。
青砥:スポット開拓は大変ですからね。市役所でさまざまなイベントを開催しているのでユーザーは順々に増えていくだろうとは思っていたのですが、スポットはそうはいかないだろうと。
その点、地域金融機関としてこれまで積み上げてきたお取引先からの信頼とネットワークが活かされるのではないかと思い、中谷さんにはうちの営業とお取引先を回っていただきました。
ただ八尾市で町工場を経営されている事業者さんには、まちのコインをどう活用すれば良いのかわからない方も多いんです。だからこそ以前からお付き合いがあって事業を理解している私たちから提案して、一緒に考えることを大切にしていました。
西田:最近では、お取引先企業の製品をガチャガチャの景品として提供する企画が始まっています。
これまで「やおやおに協力はしたいけど、スポットとして体験を提供するのは難しい。でも何かできないか」という相談を事業者さんから受けていて。
そこで生まれたのがこの企画です。物品提供なら参加するハードルも下がりますし、八尾市のものづくりをPRすることにもつながるのではないかと期待しています。
中谷:事業者さんだけではなく、飲食店さんなどから「スポットになることでお店の営業に何かしらの影響が出てしまうのではないか」と心配されるケースもあります。
その場合は、まずお店の外にチェックインのQRコードだけ貼っていただくようにしています。お店の外に求人募集のポスターを貼られているお店も多いので、その横にQRコードを貼ることでチェックインをした方の目に留まりやすいのでは?と提案することもありますね。
同じ課のメンバーも運営に携わっていて、それぞれ自分の担当スポットと密に連携をとっています。まちのコインを使って各スポットが抱えている課題をどう解決するか、二人三脚で考えています。
中村:まちのコインが市民の方にも広がってきたなと感じたのはいつごろからでしょうか?
中谷:春に実施した「さくらとさんぽ」ウォークラリーイベントでしょうか。
イベント前からユーザーを巻き込むために「地元民ならではの桜名所を教えてください」という体験を作って、その投稿案からルートを作ったんですよ。自分が投稿した場所が採用されたから、と実際に巡ってくれた方もいました。
イベントの際には道路のラインテープや粘着テープの製造・販売をおこなっている「菊水テープ」さんに、まちのコインのQRコードを印刷したシートを作っていただきまして。公園の地面に貼って、イベントが終わった後も残るようにしています。
「やおやお」で、さらなる産業振興の発展を目指す
中村:まちのコインを導入したことで、変わったことはありますか?
中谷:まずは市民の方と直接コミュニケーションを取る機会が増えましたね。やはり産業政策課としては事業者さんとのやりとりが多かったので。
じつは最近、市役所の窓口に来て涙を流された方がいたんです。その方は一人暮らしで「今までは外にほとんど出歩かなかったのに、まちのコインがきっかけでまちを知ることができた。人とのつながりもできて嬉しかった」と。
商店街のイベントをきっかけにチェックインでまちを巡るようになってから、同じようにチェックインして回っている人から声をかけてもらって、違うスポットをめぐったり連絡先を交換してお家にお邪魔したりするくらい仲良くなったそうで。
その話を聞いて「まちにいいことをやっているんだな」とすごく嬉しくなりました。
青砥:大阪信用金庫としては、まちのコインを使ってお店全体で楽しめることが増えましたね。
もともと地域に貢献したいと考えている職員が多いので、みんなでまちのコインの体験づくりのアイデアを出し合いながらさまざまな企画を行っています。
中村:ありがとうございます。最後に、今後八尾市でまちのコインをどのように活用していきたいですか?
青砥:スポット同士の交流もさらに広げて深めていきたいですね。産業振興の発展・事業継承に向けて、事業者同士で助け合ったり相談したりできる環境を八尾市全体で作っていけたらと思います。
中谷:八尾市の魅力を一人でも多くの方に知っていただくために、まずは「まちのコイン」で市民の方にもっと八尾市を好きになっていただくきっかけを作っていきたいですね。
私一人が周りに発信するよりも、八尾市に住む26万人がそれぞれの言葉で発信したほうが力があるはずですから。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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