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「逃げん」代表制


大東市の出来事

morinekiとは

morinekiプロジェクトとは
大東市は、大東市公民連携基本計画において、能動的なまちづくりによりまちへの矜持を再構築するために、「自分でつくったまちに住む」を開発理念とし、大東に住み、働き、楽しむ、ココロとカラダが健康になれるまちを目指しています。
この計画のリードプロジェクトである「北条まちづくりプロジェクト」は 、次世代につながる住宅地域の再生をはかるために、エリアに点在する公的資産を活用して一体的、段階的にエリア開発を進めるものです。
「morinekiプロジェクト」はそのスタートアップ 事業として、市営飯盛園第二住宅の跡地に、全国で初めてPPP手法を用いて、借上げ公営住宅・民間賃貸住宅の住宅棟、生活利便施設等の整備を行うものです。

(株)コーミン_morineki
morineki_ 概要

第2期事業の否決

第Ⅱ期構想_その1
第Ⅱ期構想_その2

大東市のmorinekiの2期事業の実施方針が議会で否決された。

SNSやnote等でこのことについて早速、多様な意見・見解が出されている。
地方自治は二限代表制で成立しているので、このルールに従って執行部が同事業の実施方針を提案し、それをルールに則った手続き・議論を踏まえて議会が否決したに過ぎないので、法的な問題は全く問題はない。

正確な議論の経緯や思惑は今後、議会の議事録、マスコミによる報道、議員のSNS投稿等で明らかになってくると思うが、morinekiが建築学会賞など様々な受賞ラッシュとなっていた最中に起きた出来事であるから、正直驚きである。

関係者の投稿によると「第1期の検証ができていない」「市が出資しなければいけない事業は公民連携ではない」ことがmorineki第2期プロジェクトの議会における否決の主な要因であるらしい。一方でマスコミ報道によると、直前に就任した新市長に対して副市長案件の否認も含めて「議会がかました、先制パンチを浴びせた」ようなニュアンスも書かれている。

行政(二限代表制)の難しさ

民間企業は売上・利益といった「経営的」な共通の定量的な判断軸(フルコストベース)を持つことができるのに対し、行政では執行部・議会ともに「それぞれの感覚」で判断することができてしまう。しかも、単年度会計・現金主義で首長・議会ともに任期は4年の有限的な有権者による負託(と有限責任)であることから、構造的に将来ではなく「今」を切り取って判断しやすい形になってしまう。
それだけではなく、日本各地で頻発する「あの市長は気に食わないから反対だ」「新しいことをやろうとすると議会で反対されるかもしれないからやめておこう」「難しいことは分からんから提案するな」といった理論も「そのまちの小さな内輪社会(≒田舎のムラ社会)」では通じてしまう。全国各地で発生する執行部・議会間に発生する混乱や停滞といったオママゴトレベルのくだらない争いは、こうしたことに起因する。
今回のmorinekiも含めて論点は色々あるが、一言で言えば未来に向けてどうするのか経営判断しなければいけない人たちが「二限代表制(で期待されていること・やるべきこと)から逃げている」ことが問題だと思う。

今回の「否決」を分解してみる

morinekiは現在の状況はもちろんだが事業開始前の市営住宅があった時代(beforeの状態)にも現地を訪れたことがある。そのときの率直な感想は「本当にここから手をつけるのかな、もう少し難易度の低めのところでやり方とか探りながら、関係者にも変えられる可能性を見せていったほうが良いのかな?」というものだった。
自分がもし入江さんと同じポジション(大東市職員で市営住宅の担当)にいたら、とても手をつける覚悟・決断・行動はできなかっただろう(同様に事業者として社運をかけてやる判断もできなかったと思う)。

1)第1期の検証

様々な意味で困難な与条件が山積していた難しいエリアにおいて、関係者がリスクを負いながらそれぞれの持つリソースを惜しみなく出し合い、掛け算をしていくことで今日のような超素敵な場に変えていった、そして日々進化しているのがmorinekiの第1期プロジェクトである。
このエリアから発せられるエネルギーは圧倒的であるし、訪れた人たちも自然に感じ取れるはずである。だからこそ、これだけ多くの人を魅了しているのだろう。

上記の記事にも周辺地価が1.25倍になるなどの客観的なデータ(しかも強烈な成果)が記されているし、前述のようにmorinekiの第1期プロジェクトは多方面から評価され、様々な賞を受賞している。こうした賞を取ることだけが評価基準ではないが、各賞の選定においてはそれぞれの基準における厳正な審査がなされ、そのなかでmorinekiが優れているとされたはずである。
定量的に検証したいのであれば、このエリアの地価・従業員数・共同住宅の入居率・来訪者数等で簡単に検証ができるはずだし、実際に様々な形で数字も出されている。定性的に検証したければmorinekiに住んでいる方々、ビジネスを展開するプレーヤー、訪れる人々の声を聞いたり、その表情を見ていけば自ずと正しい状況が把握できるはずだ。
もっと簡単に検証しようとすれば、before⇔afterの写真を横に並べるだけでもmorinekiがエリアにどのような価値をもたらしたかは一目瞭然である。

当然、「第1期の検証ができない」と主張された議員の方々は、こうしたデータ・状況は自分の目と耳だけでなく五感をフル活用して全て把握したうえで、自身に投票してくれた有権者の声も十分に確認して反対したのだと信じたい。同時に反対するのであればこれだけの顕在化した「凄み」があるのに、なぜ執行部が検証できていないとするのか、「どのようなデータが必要なのか・それぞれの数字がどの値であれば良いのか等の基準」や論拠も具体的に提示すべきであろう。
まさか感覚論・感情論でこのような重い判断をしてはいないはずである。

2)行政が出資するのは悪?

morinekiは先行するオガール・プロジェクトに直接関わることで経験知として学び、大東市にその真髄をフィードバックしながら行政・民間が適切にリスク・リターンを享受する方法論としてPPPエージェント方式を採用している。
通常の公共事業は、税金に任せて行政・民間とも大したリスクを取らず仕様発注でビジョン・コンテンツも整理しないままハコモノを整備・墓標化し、穴埋めで税金を注ぎ続ける。まちとして巨額の継続的な赤字であるだけでなく、まちのなかに墓標が鎮座することで周辺エリアの価値も下落させ続けるブラックホールになってしまう。

議会は今回、morinekiに対してここまで厳しく当たるのであれば、過去から今日まで整備した全てのザ・ハコモノについても同様に検証しているのか、予算・決算などで適正に見てきているのか。
これだけの決断を下せるのであれば、ごく一部の支援者の要望で、自らのわずかな票のために、多額の貴重な税金を投入した何の役にも立たないハコモノ整備を執行部に要求(強要)したりなど過去に一度たりともしたことはないと信じたい。つまり、大東市内にはこのようなザ・ハコモノはひとつも存在していないはずだ。

PPP/PFIは対等・信頼の関係が原則なので当然だが、それぞれが「持てるリソースをプロジェクトのために投下してリスク・リターンをとる」ことになる。
一人・単独の主体ではできないことをお互いがリソース・得意な分野を持ち寄り掛け算をしていくことでクリエイティブなプロジェクトに昇華していく、それこそがPPP/PFIの醍醐味であり可能性である。
PPP/PFIにおいて行政が出せるリソースはマンパワー・資金・ノウハウと法制度の執行・規制緩和や誘導などの政策が中心になるが、マンパワー・資金・ノウハウといったリソースはプロジェクト全体で必要となる量から見たら限られたものにしかならない。それすら提供しようともせず、民間にあらゆるリソースとリスク分担を強要し、なおかつリターンだけ得ようとするのはお門違いも甚だしい。

こういう思考回路・行動原理は、北海道日本ハムファイターズに逃げられた札幌市及び株式会社と同じ構図である。
この世界で(憧れるのをやめましょうと言っても)誰もが憧れるmorinekiを構築してきた大東市が札幌市・(株)札幌ドームと同じ思考回路・行動原理で同じような道を転がり落ちたりしているはずがない。

3)なんでそもそも議決が必要なの?

https://www.city.daito.lg.jp/uploaded/attachment/12354.pdf

大東市議会の議決すべき事件を定める条例_別表

大東市は公民連携条例を有していることでも非常に有名であるが、「実施方針を議会に諮る」ことはこの条例で規定されたものではない。
調べてみると、いわゆる議決事件に関する条例において「公民連携事業の実施に関する方針」も各種基本計画等と同様に議決事件に位置付けられている。なんと、この独自の議決事件は延べ27にも及ぶが、(それぞれの「自治体の生き方」なので、良い悪いではないが)二元代表制で考えれば「執行権に踏み込みすぎ」な部分がないだろうか。

大東市新庁舎整備基本計画(案)の概要_1
大東市新庁舎整備基本計画(案)の概要_2

そういえば過去に自分も専門委員として関わった庁舎の建て替えに関する基本計画(案)でも同様に(条例がなければ執行権の範囲で進めることができたが、)否決されたことがある。こちらも大東市が複数の建設候補地を示したうえで民間事業者から事業手法・事業費等を含めて提案を求める非常に面白いものではあったのだが、当時も議会の理解を得ることはできなかった。

上記のように何を議決事件として独自に定めるのかは「それぞれのまちの生き方」なので、住民でもない第三者が良い悪いを論じるものではないが、元公務員としての経験や感覚でいえば議会に「あらゆる分野の中心になる計画」や「プロジェクトの実施可否」などの首根っこを常に掴まれた状態で、議会がYesと言わなければ何もできない状態にあるように感じる。
非合理的な社会である行政では、(是々非々ではなく表面的に)議会のYesをもらうためにバーターで何かを差し出さなければいけない場面が自ずと増えるだろうし、首長をはじめ幹部職も市民やまちではなく議会の顔色を見ながら動くようになってしまわないだろうか。
こうした膨大な数の独自議決事件は、そのまちがクリエイティブに思い切ったことを覚悟・決断・行動していくために(執行部と議会の関係が正常であれば上手く機能するかもしれないが、)諸刃の剣にもなってしまうリスクを内包している。

4)議会は結果責任を取れるか?

3)のように本来は執行権でできるはずのことを議会として否決したのであれば、1)の第1期の検証(否決するのであればmorinekiがうまく行っていないこと)も議会がデータを示して行うことが筋である。
同時に、第2期プロジェクトを議会の権能として否決したことで顕在化したリスクや損失(将来的な機会損失も含めて)を議会は意思決定権者として負うべきであるし、各種訴訟に対しても対応が求められる。

何よりも議会が否定した未来に代わる「リアルな対案」「それ以上の未来を提示」することが、多くの関係者の夢・想い・努力・生活を打ち砕いてまで否決した責任であろう。議会は今回、そのまちの未来を政策決定する唯一のプロとしてそこまで覚悟したうえで決断・行動したと胸を張って言えるだろうか。今回の結果責任を取ることができるのだろうか。
きっとこのような論点は十分に精査したうえでの判断であるのだろうから、ぜひ、morinekiの現場でプロジェクト関係者・入居者・訪れる人々に対して直接、そうした考え方を合理的に、堂々と披露していただきたい。

5)誰の判断なのか

大東市では前述のように27もの独自の議決事件を持っており、(他のまちと比較して)議会の判断がまちを大きく左右する仕組みとなっている。

このような視点で考えてくると、過去に色んな経緯があったのかもしれないし、現在も各種報道で出されているように副市長案件をはじめ政治的な部分で執行部と議会にわだかまりや政治的な駆け引きがあるのかもしれない。ただし、どのような感情を抱いていようとも過去に何があったとしても、行政・民間ともに大東市の未来のためにプロとして覚悟・決断・行動をしてほしい。
もし自分が大東市の執行部の人間だったら、今回の件を契機として決してネガティブな意味ではなく、今後まちとしてよりクリエイティブ・迅速に多様なプロジェクトを創出していくためにどのような関係性が好ましいのか、執行部・議会が膝を突き合わせて公開の場で徹底的に議論し、議決事件条例の見直しについて議会へ提案していくだろう。

学ぶべきこと

どこのまちでもあるある

大東市の案件はセンセーショナルすぎるもので、この先も大きな話題となってくるだろうが、上記の論点等を冷静に見ていけば「どこのまちでも起こりうる」問題である。
逆にいえば、こうした問題が発生したのは大東市がそれだけクリエイティブなプロジェクトを創出したことの裏返しでもあると言える(何もやっていない・議会に迎合だけしている・市民を向いていないまちにはこうした火種すら存在しないので、物理的に炎上することもないが、衰退の一途を辿っていくだけだ)。

非合理的な行政という社会において「まちにとって価値のあるプロジェクト」を創出していくためには、リスクとリターンが必ず発生するだけでなく、多くの人々に大きなメリットを与える一方で、誰かにはデメリットを生じさせてしまうことも現実的には出てくる。全員合意などあり得ないし、ときにはバーターも含む大人の駆け引きも必要になる。エグいところもタフに乗り越えなければならない。

改めて二元代表制をそれぞれのまちで再定義

そうしたことも考慮しつつ、執行部と議会がどのような関係・ルールを築いていくのか(柔軟に変更していくのか)を日常的に徹底的な議論のなかで考えていく必要があるだろう。それこそが議会の場である。事前に書かれた質問と答弁を棒読みして予定調和で時間を過ごすオママゴト・学芸会が議会ではない。そんなことで済むのであればわざわざ時間と膨大な税金をかけて議会を開くのではなく、ネットで公開すれば十分であるし(簡単に必要な部分を検索できる)ログも確実に残る。

長岡市役所(アオーレ長岡)の議場

大半の自治体の庁舎では「神聖な場」として大層立派な議場が整備されている。本当に神聖な場であれば、「まちの未来」を真剣に考え、それぞれの知見や有権者の声を咀嚼したプロとしての熱い議論が繰り広げられるべきである(ホントは立派な議場じゃなくて普通の会議室でもオンラインでもどこでも「物理的な場」はよくて、内容が濃ければ良い)。

「逃げん」二元代表制

こうした議論をしていくうえでは情報の非対称性を生じさせないように、執行部・議会が「共に正しく学ぶ」場も必要になってくる。それぞれの分野の第一人者を招聘した研修、まちの関係者によるリアルな意見を聞く場(≠形式的なタウンミーティング)、全国各地の視察(≠公費を使った観光・旅行)等、ときには自腹を切ってでもやっていくだろう(実際に奈良県のあるまちの議員からは「うちのまちは政務活動費が支給されず、執行部にも研修予算がないので、自分が費用を全額負担するから議員研修をやってほしい」という熱い声をいただき実施したこともある)。

今回の大東市の件を契機として、全ての自治体は二限代表制の意味・仕組み・価値を改めて自分たちなりに解釈・再定義・共通認識を醸成することが必要だろう。そのためには、大東市を訪れて「何が起きたのか」を直接把握していくことも一助になってくる。
その議員を信じて貴重な一票を投じてくれた支持者のためだけでなく、必死に働いて得た金額の一部を適正に納税してくれている市民のためにも、議員・議会は安易な方向に流れてはいけないし、自らのつまらない利益・利権のために動いてはいけない。ましてや「かましてやろう!」とか「あいつ面白くないから」といった幼稚なレベルで権限を行使するなどもってのほかだ。これは議会だけでなく執行部も同様である。
関係者の「誰か」のマインドが逃げたり腐ったりするからカオスになる。

やるべきことはテクニカルなことではない。関係者がプロとして逃げることなく正々堂々とまちに向き合い、それぞれの権限と責任を行使してリスクとリターンを享受する本物の「逃げん」代表制が求められている。

おまけ

あ、サムネイルはわかる人だけわかればいいけどこれ↓

そのときは「これがいい!」と思って勢いやその場のノリでやったけど、後から冷静にみるとハチャメチャだったりする。今回の案件も思い当たる人がいるのでは?

お知らせ

2024年度PPP入門講座

2024年4月22日からスタートした全6回(60分×3コマ×6回)の入門講座。色々とトラブルでご迷惑もおかけしましたが、無事に2024年6月28日に終了しました。ご参加いただいた約460名の皆さま、共催いただいた日本管財株式会社様、協賛いただいた伊藤忠商事株式会社様、九州電力株式会社様、後援いただいた特定非営利活動法人日本PFI・PPP協会様にはこの場を借りて改めて感謝申し上げます。

今後、来年度に予定する次期入門講座までの間、アーカイブ配信をしています。お申し込みいただいた方にはYouTubeのアドレスをご案内しますので、今からでもお申し込み可能です。

実践!PPP/PFIを成功させる本

2023年11月17日に2冊目の単著「実践!PPP/PFIを成功させる本」が出版されました。「実践に特化した内容・コラム形式・読み切れるボリューム」の書籍となっています。ぜひご購入ください。

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