イベントレポート「女性がイノベーションを生む町で、女性活躍の鍵を探ろう!@東伊豆町2024」
師走なかばにしては暖かく穏やかな2024年12月13日(金)、東伊豆町のよりみち135(旧・稲取幼稚園)で、トークセッションイベント「女性がイノベーションを生む町で、女性活躍の鍵を探ろう!@東伊豆町」が開催されました。
“ワーケーション”を入口とした東伊豆町の関係人口創出事業「まちまるごとオフィス東伊豆」の活動の一貫で、東伊豆町で活躍する女性たちをパネリストに迎え、それぞれの思いや活動の原動力を伺い、女性活躍のヒントを探ろうという企画です。
今回レポートを担当させていただくのは、2023年9月に東伊豆町のワーケションイベントに参加し、東伊豆町ファンを自認しているフリーランスエディターの越山昌美です。東伊豆町で活躍する女性たちお話を伺いたくて、当日は東京から踊り子号で伊豆稲取駅に入りました。
金曜日の夕方、それぞれの仕事を終えて町内外から続々と参加者が集まってきました。東伊豆町に一泊してワーケーション体験をした方や、早朝に稲取に入られた方、なかには午前中は自宅でリモートワークをして、午後半休をとって東京から駆け付けたという方もいて、働き方が多様になっていることを実感しました。今回は、地元の方もたくさんご参加され、多くの交流が生まれました。
第1部トークセッション
開会宣言!
イベントの司会進行は、地元・東伊豆町稲取出身で東京在住の竹内萌絵さん(下左)と、東伊豆町でのモニターワーケションに参加したことがきっかけで、LDNに参画した神奈川県在住の星安宏美さん(下中)。
ファシリテーターは稲取出身で、現在は東京と東伊豆町で二拠点居住する鈴木市川美和さん(以下、美和さん)。みなさん、東伊豆町愛にあふれる方々です。
よりみち135(旧・稲取幼稚園)の「さくら組」の教室を使った会場には40名以上の方々が集まり、これから始まるトークへの期待が満ちるなか、東伊豆町・岩井茂樹町長の開会宣言でイベントはスタートしました。
損得ではなく、本当に良いと思ったものと“だけ”コラボする
熱川バナナワニ園・園長 神山浩子さん
トークセッションのトップバッターは、熱川バナナワニ園・園長の神山浩子さん。東伊豆町奈良本生まれの神山さんは、東京理科大学薬学部を卒業後、製薬会社に就職。実は就職活動の際に、幼い頃から走り回って遊んでいた熱川バナナワニ園の仕事を継ぎたいと切り出したのに「女の子が継がなくても良い」とお祖母さまから言われたエピソードには、少なからず衝撃を受けました。
国内大手から外資系製薬会社への転職も果たし、のびのびとした環境でいっそう仕事も充実してきた頃、園長だったお父様が急逝。その時にはお祖母さまの考えが変わっていたこともあり、悩んだあげく会社を辞めて東伊豆町に戻り、2016年に副園長に、2023年からは園長に就任されました。
とは言っても動物や植物のプロではない神山さん。「熱川バナナワニ園の歴史を大事にしつつ、新しいものを融合させようと試行錯誤した結果、お客さまに動植物に興味を持ってもらうための接点をたくさんつくり、お客さまが自分の『好き』を発見できる場所にしたいと考え、さまざまなジャンルとのコラボ企画を開始」(トークスライドより)。
人気の公式キャラクター「熱川ばにお」は、「ワニの怖いイメージを払拭したくて」作られたという誕生秘話を初めて知り、いっそう親しみを感じました。
2023年春には、神山さんが子どもの頃から親しんだワニが主人公の絵本が原作の米国映画が、日本で配給されることを知り、配給会社に自らコラボを持ち掛け実現。
続く2024年春に開催された小学館の漫画「へんなものみっけ!」とのコラボイベントは、作品に登場するトロピカル動植物園のモデルが熱川バナナワニ園だという縁があり、神山さんが作品への熱い思いを小学館にぶつけたところ、突破口が開かれたそう。
「損得よりも、本当に自分が良いと思ったものとだけとコラボしたい」という神山さんの信念は、「しょせん無理だろう」と思われがちな大手企業とのコラボを、次々と実現させていったのです。
地元の老舗和菓子店『花月製菓』とコラボした『大福ワニ』は、発案からたった3日で販売にこぎつけたという超スピード企画。2024年にはX(旧ツイッター)で15万イイね!を獲得したという、大ヒット商品です。
「いまでは大福を作っていると、ワニにしか見えなくなってきた」という花月製菓代表・内山欣洋さんのコメントも、ファシリテーターの美和さんから紹介されました。
この大福ワニは、つい最近大手玩具メーカーTAITOとコラボしてミニフィギュアとなり、2024年12月28日から順次全国のタイトーステーションで販売中。本当に驚きの快進撃です。 トークセッション後の懇親会で、神山さんが差し入れてくださった熱川バナナワニ園オリジナルクラフトビールは、伊豆のクラフトビール醸造所「反射炉ビヤ」とコラボしたもの。2021年からコラボビールを仕込むプロジェクトが始まり、毎年違うテイストのものを発売することにこだわっているとのこと。最新作のフルーティーでまろやかな味わいに、神山さんの妥協しない精神が感じられました。
リケジョ(理系女子)らしい、理路整然とした語り口の内に並々ならぬ情熱を秘めた神山さん。損得勘定ではなく、徹底的に自分の感覚で「良い」と思ったことにこだわり、突き進んでいく。一年中温かい熱川バナナワニ園で育まれたバイタリティは、これからも厚いと言われてきた壁をいくつも突破していくことでしょう。
たくさんのパワーが集まることで何十倍もの力になる
稲取キンメマラソン実行委員長・NPO法人Mingle Izu代表理事
西塚良恵さん
次の登壇者は、稲取生まれの稲取育ちという西塚良恵さん。稲取銀水荘に就職し、旅館内でネイルサロンを立ち上げるために人材育成でネイリストに。その後、21歳で渡豪。帰国後23歳で伊豆高原にてネイルサロンとホテル内セラピストの派遣事業を開業し、現在まで続けているという経歴を聞いただけでも、西塚さんのパワフルさを感じます。
が、それだけではありません。子育てがひと段落した30代後半で、NPO法人Mingle Izuを設立。この団体が母体となって、その翌々年伊豆稲取キンメマラソンを主催するにいたるのです。メンバーは東伊豆出身だったり、東伊豆町にお嫁にきた方だったりと、年齢も様々。
2024年には第7回となり、町のスポーツイベントとして定着し、多くの参加者を迎えている伊豆稲取キンメマラソンですが、決して順風満帆のスタートではなかったといいます。
「第1回の時は、開催後ものすごい数のクレームが町役場に入ったんです。せっかく町を盛り上げようと企画して、ようやく実現にこぎつけたのに、なんでこんなに苦情が出るんだろうと驚きました。でも、そのことは仲間たちには言わず、自分ひとりで一軒一軒謝って回りました。みんなにはつらい思いをしてほしくなかったから。私、打たれ強いんです」
明るい笑顔でさらっと言ってのけた西塚さん。真のリーダーシップとは、こういう姿勢に宿るのだと思いました。
仕事や家事で忙しい女性メンバーで運営していくうえで「会議はいっさいせず、LINEのやり取りだけですべてを進めていく」というのにもびっくり。女性が圧倒的に多い美容業界で働き続けてきた西塚さんならではの時間の使い方への配慮なのです。
「人が一人でできることなどたかがしれていて、たくさんのパワーが集まることで何十倍もの力になる。チャレンジした道のりの中で、多くの人に出会い、必然のように導かれて人や物事がつながりだす瞬間がある。鳥肌がたつほどに道が開かれる」(トークスライドより)
仲間と手を携えて一歩ずつ着実に進んできた人のパワーが、ずっしりと伝わってきました。
女性は「あったらいいな、を形にするのに優れている」という西山さんの言葉は忘れられません。
人はエモーション(感情・情緒)で動く
いなとり荘 集客・マーケティング部長 山中 綾さん
3人目の登壇者は「いなとり荘」の集客・マーケティング部長の山中 綾さん。山中さんは大学卒業後、株式会社いなとり荘に入社。いなとり荘の姉妹館「季一遊(ときいちゆう)」で、仲居さんとしてキャリアをスタートしましたが、腰痛で退社し、実家の静岡県藤枝市に戻ったそう。病状が落ち着いてから焼津グランドホテルに転職したものの、どうしても季一遊に戻りたくて退社。当時のいなとり荘の社長に頼み込んで、季一遊に復帰。しかしまたしても腰痛で立てなくなり、再び実家に戻ることに。
ここまででもすごいのに、続きがまだありました。山中さんはいなとり荘への思いを断ちがたく、アピールし続け、2006年「座ってできる仕事ならば」ということで、予約係として採用され、再復帰を果たしたのです!
不死鳥のような山中さんは、予約係として2024年までに約6万8000人ものお客様と電話で話し、その熱心な対応で集客を拡大しています。
そして2020年からは集客マーケティングも担当し始め、Instagramのフォロワーを4万人まで伸ばし、Xやメールマガジン、写真撮影、動画撮影、チラシ作成、商品開発まで外部委託せず、自らが手掛けているとのこと。
そのコピーライティングや撮影技術は玄人裸足の素晴らしさ。いなとり荘のホームページやSNSをぜひのぞいてみてください。
●海一望 絶景宿 いなとり荘 公式サイト
●いなとり荘の魅力全開! YouTube
「それまで業者に頼んでいた写真や動画は、海側から撮影したものが多かったんです。それを逆転させて、館内にいるお客さまの視点に立って、室内や露天風呂を撮ったり、建物側から海を撮影してみたりしました。そうすると海に浮かんでいるような心地よい画像が撮れたりして、見る方の感情に訴えかけることができるようになりました」
情緒を感じさせる画像を自力で撮影できるようになるまで、山中さんは懸命に勉強し、努力を惜しまなかったであろうことは、容易に想像できます。
「人はエモーション(感情・情緒)で動くんです。お客さまの感情を動かすもの、情緒を感じさせるものを常に発信していけるように心がけています」という山中さん。Instagramのフォロワーには20~30代の若い女性も多く、確実にその層の顧客獲得につながっているようです。
また、いったん相手の立場に立ってみることも心がけているそう。たとえば、お客さまやスタッフが腹を立てているとき、クレームするときなどは、なぜそのような行動をとっているのかに思いを馳せ、その行動の奥にある「感情」を捕まえるようにしているそう。
「共感能力は女性のほうが優れている。AIにはできない情緒に訴えることをなしとげるには、女性の力が大事」というファシリテーター・美和さんのまとめに、大きくうなずきました。
女性はブレない。直観力、行動力がある
東伊豆町 岩井茂樹町長
3人のトークを受けて、唯一の男性パネリストとして登壇した東伊豆町岩井茂樹町長は次のように語りました。
「男性の私としては、女性はブレないということを改めて強く感じました。男性は『こうすれば良いのに…』ということがあっても、いろいろとしがらみがあって、ついブレてしまうことが多い。直観力、行動力があるのが女性です。やりたいことをちゃんと行動に移しているのには驚かされます。男性は客観的に見ることができるという良い点もありますが。女性の力を今まで以上に町政に活かしていきたい。」
岩井町長の発言に対し、ファシリテーターの美和さんは
「女性は未活用資源。力を発揮したら新たな価値が生まれるのではないか」と提言しました。
東伊豆町をモデルに様々な地域に波及させたい!
女性は共感で動き、共感がイノベーションを生んでいる
会場のゲストコメンテイターや参加者から、温かいコメントの嵐!
スペシャルコメンテーターとして、会場にいらしたプロティアンキャリア協会代表理事の有山徹さんからは「女性がこの町の資源だとよくわかりました。通常は東京の大企業向けの研修を行うことが多いんですが、肩書主義がまだまだ残っています。地方はそういうものに縛られていない。登壇された女性の共通項は、この地域を愛しているということ。感情を大事にして地域の資源を活かす。東伊豆町をモデルとしていろんな地域に波及させたい」という温かいコメントをいただきました。 有山さんは、本イベント参加者全員に、最新のご著書でベストセラーになっている「なぜ働く? 誰と働く? いつまで働く? 限られた人生で後悔ない仕事をするための20の心得」(アスコム)をプレゼントしてくださいました。
また、もうひとりのゲストコメンテイター、行政協働研究所代表で総務省地域創造アドバイザーを務める佐藤幸俊さん(上)は
「女性ならではの苦労もあるでしょうが、女性は共感で動き、共感がイノベーションを生んでいるんですね。このイベント自体が共感の場になっていることを感じました。みんな最高のプロデューサーです」とコメントしてくださいました。
会場参加者のなかから、何人かの感想が発表され、時間いっぱいいっぱいまで盛り上がったトークセッションは、幕を閉じました。
第2部交流会
続々生まれた、新たな繋がり
町の恵みを味わいながら熱いトークは続く
トークセッションに続いて、会場を隣の部屋に移し、登壇者、ゲストコメンテイター、参加者有志による交流会が開催されました。
地元で人気のお総菜屋さん「なぎ」に特注したというおつまみボックス(上左)は、彩りとお味が大好評! 季節がら感染防止に配慮した懇親スタイルでひとりにひと箱ずつ配られ、好みの飲み物を手に、乾杯でスタートしました。柑橘類(上右)やミセスこらってぃさんからのドライフルーツ、熱川バナナワ二園の最新クラフトビールなどの差し入れも充実し、トークと伊豆の味覚を併せて堪能できる贅沢なひとときを過ごすことができました。
魅力的な人々の磁力が、東伊豆町に人々を引き寄せる
この日、一次会、二次会を通して参加し、一番驚いたのが人口1万2000人弱の東伊豆町に、こんなにパワーあふれる女性がいて、しかも今日のイベントで登壇者の3人の女性たちが初対面だったことです。
3人の方々は、みなさんそれぞれの素晴らしいネットワークをお持ちです。それらが掛け合わされていったら、東伊豆町に、もっともっとわくわくすることが起こるに違いない、と確信しました。
このイベントは、きっとそんな新たな動きを生み出すきっかけになることでしょう。
美しい海と山に囲まれ、それらの恵みを享受できるだけが、東伊豆町の魅力ではありません。町に住む人々の営み、それらに惹かれてやってくる人々(関係人口)のかかわり。町を作っていくのはやはり人なのです。
魅力的な人々にあふれた東伊豆町は、人々を引き付ける磁力をもった町だと改めて感じた一日でした。
文・越山昌美 写真・平野晋子(一部を除く)
イベント主催・東伊豆町
企画運営・NPO法人ローカルデザインネットワーク