第7章 いまあるものを見つめ直す〜発掘と発想〜
まちづくりの基本かつ第一歩は「まちを知ること」。まちを知る手法はさまざまですが、実際にまちに出て、ナマの情報を集める・体感することはとても重要です。見慣れたものでもじっくり見たり、視点を変えると新たな発見もあったりします。そうした発見や再確認がまちとの関係を深め、新たな創造にもつながります。
第7章では、まちをあらためて〝発見〟し、まちづくりのココロを育むまちあるきと、新しいアイディアの生み出し方をお話しします。
第2章全3話(No.7〜9)のみ¥100、ほか、第1章全6話(No.1〜6)、第3章全6話(No.10〜15)、第4章全6話(No.16〜21)、第5章全6話(No.22〜27)、第6章全8話(No.28〜35)は¥200でお読みいただけます。
36.まちあるきを侮るな!まちづくりの視点と感性を育む最良のプログラム
体験ひとつひとつを組み合わせて理解すると、
まちと自分に一体感が生まれる?
コロナ禍の中でも比較的「まち歩き」は実施しやすいものですが、それでも中止せざるを得ないときもあり、実施するには人数に条件を設けたりという工夫が必要でした。ところが、これが功を奏してまち歩きのひとつの側面がよくわかったことがありました。
新潟県立大学の非常勤講師でもある筆者は、学生に集団でのフィールドワークはできないのでひとりで歩いてきて欲しいとお願いしました。集団で歩くと、自分以外の人の視点も同時に共有することができるという大きなメリットがあったり、その地を熟知したガイドの方に案内してもらってまちの表情の背景にある歴史などを教えてもらえるメリットもありますが、致し方ありませんでした。
ひとりで歩いてきた学生たちのレポートや口頭での発言を聞いていると、指定したフィールドとの関係をそれぞれにしっかりつくっていると感じました。その地の特有の景観だったり、おもしろい看板だったり、公園にぼうぼうと生えている草だったり、その視点は一人ひとり違いますが、そのエリア全体の個性をしっかりと捉えてスタートしているように見えました。まちを理解するときに、ガイドなしで歩き、自分だけの視点でしっかり見てくることに何か効果があったに違いありません。
学生が、それぞれの異なる体験をひとつひとつ組み合わせて、そのフィールドの全体像をとらえるプロセスが重要で、ガイドから情報が与えられる体験では、そのプロセスを奪っているのではないかと思い始めました。同時に、自らが現場で得る一次情報(※)に対して、ガイドから提供されるきちんと整理された情報というのは、もしかすると1.5次情報なのではないかとも思うのです。
そうしたことから、一時情報の断片みたいなものを組み合わせるプロセスを用意することの意味を考え始めています。
※一次情報に関しては第37話で詳しく述べています。
地方都市は、歩かないまちになっている 《まち歩きの前提条件》
「徒歩範囲にあるコンビニにへ行くにも車を使っている。」うなずくあなたは地方都市にお住まいではないでしょうか。内閣府が調査した「歩いて暮らせるまちづくりに関する世論調査」(2009年7月)によると、徒歩圏内を文字通り歩いているのは東京の大都市に暮らす人々で、地方へ行けば行くほど歩かなくなっています。
車社会がもたらす影響は健康にも及び、筑波大学と見附市がタッグを組みウエルネスタウン構想を描いた資料には、東京・大阪・愛知の自家用車輸送割合と糖尿病患者数の相関関係のデータから、歩かないことは生活習慣病を増加させるということがエビデンスとして提示されています。
ここで注目したいのは多くの地方都市は「人が歩かないまち」になってしまっているという事実です。これはまちづくりを進める上で、由々しき事態です。
まちには、建築物や路地などがつくりあげる空間としての魅力や、そのまちのもてなしの心や職人の技などの文化があり、水辺をうまく活用し生活に取り入れるなどの暮らしぶり、そして大地の歴史を刻む地形、お地蔵さまや寺社仏閣などの霊性スポット、個性あるお店、老舗などさまざまな地域資源が混在しています。いくつものレイヤーが重なり合ったまちの情報を自分の目で見ていないのが現状と言っていいでしょう。
SDGsが大切だからこうしましょうと言っても足もとの水の行方を知らないでは、残念な結果になりかねません。そして重要なのは、体感的に自分ごととしてまちを捉える機会を失っているという事実です。
まち歩きは意識改革を目標にせずとも、
ほっとけない気持ちを速攻で育んでくれる
しかし我々のようなまちづくりをコーディネートしていく者には、誰もが好きになる「まち歩き」というキラーコンテンツがあります。歩く前に億劫になる人はいますが、歩いたあとに「歩かなければ良かった」という人にはまだ会ったことがありませんし、「ブラタモリ」などの人気番組の効果もあって「まち歩き」はしっかり市民権を得てきました。
このまち歩きをいかに使うかで、その後のまちづくりプランの内容が変わったり、自分ごととして動きはじめる発火力に影響を与えます。
最新の事例をご紹介します。ある地域で消火栓と消火栓ボックスをチェックしながら歩く「防災まち歩き」を実施したのですが、これが住民組織のやる気のスイッチを押すきっかけとなりました。やがて多くの若者も参加するようになり、防災チェックと地域資源を再発見するこの企画には予算もつきました。
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