![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142949909/rectangle_large_type_2_1ab8c38facdd334127d35e3b7b6564a0.png?width=1200)
近所に出没したサル、なにわ男子大橋くん
これまでアイドルや芸能人のこれといったファンになったことのない私は、30歳を過ぎてから、スタートエンタテイメントのなにわ男子にハマった。中でも、大橋くんが好きだ。
人生初のファンクラブに入り、ライブ抽選の申し込みもしてみた。ビギナーズラックなのか、「新規会員はライブに当たりやすい」そんな情報を耳にしたので、期待は高まるばかり。
結果は、2年連続抽選落ち。なぜだ、、なぜなんだ。
悲しみに浸っていた渦中、スマホに、小学校からの連絡が来た。
サルの目撃情報がありましたのでお知らせします。◯◯町付近。今後見つけた方は近寄らず、◯◯市役所までご連絡ください。電話番号は・・・
びっくりして、思わずその場で、すぐ近くにいた小1の息子に話しかけてしまった。
「ね、息子〜。サルが出たんだって。これ、家の近くだわ」
「ええ〜、こわーい」
サルの出没というお知らせは、保健だよりや給食献立表よりはパンチがきいているが、ライブ全落ちの私の現実には敵わない。
失意から立ち直れないまま、夕食を作り始める。横では、事あるごとに息子がぶつぶつ言っている。「サルこわいー」「明日学校行くときにいたらどうすんのー?」「襲われちゃうよー、サル、こわいー」
ここまで怖がらせてしまうとは思わず、このままでは明日学校に行かないとか言い出しそうだ。
「大丈夫。サルはすばしっこいからさ、同じところに何日もいないよ」
「こっちからサルにちょっかいかけなければ攻撃しないだろうから」
「サルだってさ、人間がいっぱいいるところより、動物園とか森に早く帰りたいんだよ、そっちに向かってるよ」
母は、ライブに外れたショックを引きずりながら、思いつく限りのサル情報を息子に提供する。
「うー、でもぉ・・・」
結局、夕食中も、一緒にお風呂に入ってる間も、歯を磨いてベッドに入っても、息子はずっとサルの心配をしていた。
「ねー、ママ明日、学校行くときにサルが来ちゃったら…」
「息子よ」
「?」
「サルには、きっと会わないよ。」
気づいたら、これまでの思いつきのサル情報とは違う熱量で話し始めた自分がいた。
「会おうと思ったって、会えないと思う。会う確率は、、かなり低い。だってママ、すごく会いたい人がいるんだけど、もうずっと会えてないから。こんなに会いたいって思ってるのに、会えないのよ。息子は、サルに会いたくないんだよね?ママは会いたいのに、会えないの。だから会いたくないと思ってるなら…会わんて。寝よ」
母の謎理論に、絶対に息子は理解も納得もしてないと思う。でも、熱量だけ伝わったのかもしれない。しばしの沈黙のあと、息子は静かに寝息を立て始めた。
日本全国、大橋くんに想いを馳せている人は何万人もいても、近所に出没したサルを思い浮かべながらそこに大橋くんを重ねてるのは、きっと私だけだと思う。こんなファンもいると、大橋くんにいつか届けばとても嬉しい。
数日後、なんと友達がライブを当ててくれて、初参戦できることになった。息子は、無事にサルに会わず学校に行けた。
会いたい、会いたくない。
思って願えば、きちんと届くのかもしれない。