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議員に対話の場は、つくれるのだろうか?
まずは、この本題に入る前に議会という場は、決められたルールに則って、行政の事業に対して、喧々諤々議論をし、様々な論点を出し合い、そして、各会派や議員個人が賛否を出していきます。議会で決められた期日までに、賛否が出るのですが、そこに至るまでの過程で様々な論点が出されますから、業務を執行する行政も賛否に至るまでの議論を十分に踏まえながら、区政を進めます。
上記に書いたことが成立しているのは、議会や行政のルールがあって、そこで秩序立てられているからです。
そんな議論(結論を出すための話し合い)が活動の主軸にある議員が、住民の賛否が分かれて、対立しそうな感じのテーマを踏まえて、お互いの背景を理解し合うための話し合いである、「対話の場」をつくれるのか?といった、取り組みに関するお話です。
「対話」と「議論」という言葉が結構出てくるので、以下定義です。
「対話」とは
対話は、お互いの背景を理解し合うための話し合い。「なぜ、この人はAもしくはBと主張しているのだろう?」とそれぞれの背景に興味を持ち、話すことで、結果的に両者が理解し合い、納得する結論にたどり着くことができます。
「議論」とは
議論は、結論を出すことの話し合い。AかBか、自分の意見を主張し、相手を説得するための材料を集め、結論を導くための話し合いが繰り広げられます。
女子美術大学 共創デザイン学科 特命教授で、NHK総合テレビ 週刊ニュース深読みでグラフィックレコーダーとしても活躍されていた山田夏子氏の著書『対話とアイデアを生む グラフィックファシリテーションの教科書』より抜粋
1:対話の場を作ろうと思ったきっかけ
前段で議会の議論について書きましたが、それが日常的な場所で(特にSNS上)議論が巻き起きると、特に賛否が分かれやすいテーマでは対立構造を生み出し、分断が起きる状況がありました。まさにそんな状況が起きていると感じていたのが、玉川上水旧水路緑道の再整備の中で企画されている「農園」の企画でした。「農園」といっても、菜園という言葉が適当な大きさのものです。(再整備全体のコンセプトが「FARM」であり、コミュニティや場を育むという意味もあり、その象徴的な企画の一つが「農園」でした)
現在、区が「農園」の実証研究として、仮設ファームを初台と西原に設置しており、仮設ファームの申込者は毎回30倍を超える人気でした。私の周りにも、体験してみたいという方、実際に仮設ファームのキャストとして熱心に取り組んでくださっている方々が複数いました。
玉川上水旧水路緑道の再整備について、こちらから
仮設ファームに関しては、こちらから
一方、そういった取り組みに害獣などの懸念を持つ住民の方々から声が上がり、令和6年5月24日に「大山・幡ヶ谷・西原緑道へのファーム設置中止を求める陳情」が出されました。特に西原エリアに行くと沿道のいくつかのお家に「農園反対!」といった横断幕が出ていたりします。陳情を出された方の中にも、私が懇意にしている方がいて、どういった思いで出されたのかをお聞きしてきました。
その後、第3回定例会(9月議会)で「玉川上水旧水路幡ヶ谷緑道の農園に関し意見交換の場を求める請願」が出たのでした。これは5月に、農園を反対していた方々が、農園に関して反対する方々と賛成する方々が集い、対話の場を設けるということを求めた、陳情に続く請願でした。
この請願を受けて、私が所属するシブヤを笑顔にする会も、何度も区と協議しました。しかしながら、区が主催してこの請願で求められている形式、(賛成・反対の属性を決めて、住民を集め、「対話の会」を企画すること)を実現するのは困難ということが分かりました。議会で請願を通すということは、区に事業としてやることを拘束することになりますから、会派としてどういった結論を出すのか?ということは、大変慎重になります。
そこでは、請願の願意のコアは「住民同士の分断をこれ以上生みたくない」ということだろうと解釈しましたので、請願者の方に「反対で採決は出すけれども、何らかの形で必ず対話の場を作ることを約束する。」と伝えて、反対討論に臨みました。
討論には私自身も、議員になる前の2017年から、この緑道再整備のワークショップに何度も参加し、たくさんの方々と対話を重ねてきたこと、もっと素敵な緑道になるね、コミュニティを育む場所にしていきたいねという思いを共有し、一緒にやってきたこと。コミュニティを育む活動になる菜園に関しても、活動を積極的に応援してきました。
そして私自身も請願者の方と同じで、もうこれ以上分断を生むような方向をつくりたくないという思いが強くありました。区が出来ないのなら、まずは私たち会派でプロトタイプを作って、提案しようという誓いの文章も入れました。
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2:どうやって対話の場を作っていったか?(トライアル編)
11月に第4回定例会があるので、それまでに区に「対話の場」を提案するには、具体的にどんな要素をもって場を設定すると分断を生まない「対話の場」が成立するのか?を見極めるトライアルが必要でした。
そこで、請願の主体になっていた知人やこの地域で活動をしている方に相談し、トライアルの場を企画しました。(企画に関わったのは、再整備エリアで活動しているシブヤを笑顔にする会の3名:田中たくみ議員と橋本ゆき議員、そして神薗でした。)
企画に際してはシブヤ笑顔は、請願に反対していたため、「こいつら信用できるのか?」といったご懸念が、当然請願者の方々にはありました。何度もご相談を重ねて、まずはこの会の目的を以下のようにしました。
11月8日に非公開/トライアルの場の目的
1:玉川上水旧水路緑道の再整備にあたり、以下3点についてトライアルの対話をすることで、各エリアの地域住民が分断を生まない形で合意形成する場のイメージを持つ場とします。
①区が計画しているファームに対して、様々な立場からご意見を出していただきます。
②①のご意見を踏まえて、どういった対話の場を設定すると、各地域で合意形成に至れるのか、アイディアを出していただきます。
③対話の場以外にも意見を集約する方法があるか、アイディアを出していただきます。
2:1の対話内容を踏まえ、シブヤを笑顔にする会として渋谷区へ政策提言を行います。
また、対話の場を成立させるために、住民でも議員でもない、この案件に対して中立的な立場になれるファシリテーターの方に入っていただき、そのファシリテーターの進行の下で対話の場のトライアルを進めようとなりました。
ファシリテーターでお願いしたのは、紛争などの地域でファシリテーションを行う技術を持っていらっしゃるNVCファシリテーターの方でした。
NVCとは:Nonviolent Communication(非暴力的コミュニケーション)という、アメリカの臨床心理学者であるマーシャル・B・ローゼンバーグ氏が1970年代に体系化したコミュニケーション手法。家族や友人、職場、組織、国際関係など、さまざまな場面で活用されています。また、紛争や戦争で疲弊した地域やコミュニティで、平和な世界を作り出すための方法としても利用されています
仮設ファームに関わったことのある知人にも声をかけ、主旨を説明し、参加してもらい、対話の場を作りました。本当に対話の場は成立するのか?という不安を抱きながらトライアルするわけですから、当然非公開ですし、その後に議会で会派として政策提言するので、そのことを理解いただいての企画でした。
その結果、顔の見える関係性を作ることの重要性や中立的なファシリテーターがいることの安心感等の結果を得られることが出来、これであれば実現できそうという実感を踏まえ、11月22日の第4回定例会での代表質問に入れて、区に中立的なファシリテーターを設置して、地域が活用する場に関しては地域ごとに対話の場で決めていくということを提案しました。
が、しかし・・・これまでと同様の方法(区とそれぞれの住民が対峙する形の)で対話を進めていくという答弁でした。
(こちらはまだ議事録上がっていないので、議会中継で・・・07:33頃から神薗質問/36:45頃から区長答弁)
(後日談ですが、この対話の場の後に388FARM MARCHEというイベントがあったのですが、この場に来ていた全員が偶然にもそこに集っており、再度顔を合わせて談笑するといった様子に、地域に根付き、暮らす住民同士だからこそのエピソードだし、まさにこれだよなー目指すべ世界は。と、うれしく感じたことも添えさせてください。)
3:対話の場をオープンにしてみたら、どうだったか?(西原エリア編)
トライアルの場を経て、11月22日の代表質問で提案してもなお、区に対応してもらうことが難しいのか・・・という、落胆の想いを引きずりつつ。
西原エリアに住む請願代表の方々や地域で活動する方に相談したところ、年内にオープンな場でやってみたいというお声がけをいただきました。西原エリアに関しては、地域で活用できるスペースをどう設置していくのか?を、地域で合意形成する時期が年内に迫っていたため、一旦は12月22日に企画してやってみようという話になりました。
この相談をしたのが、12月3日でしたから1か月切っている中での企画・・・相当ハードスケジュールでした。(こういったイベントをやるときには、1ヶ月前告知で最低でも2-3ヶ月かけて準備します。)
しかし、やってみるしかない!ということで、本来ならば町会などに主催いただくカタチが一番中立的だし、よいだろうと思っていましたが、そもそもそういった合意形成をする時間もないということで、請願の主体者の方々や地域で活動する方々のご協力のもと、議員有志の会(事務局:シブヤを笑顔にする会の田中匠身、橋本、神薗)が主催という立て付けでやることになりました。
用意できた会議室も30名定員だったこと、ファシリテーターからも30名が対話の成立しうる規模としては最大であるということも教えてもらっていたので、西原町会エリアに住む方々、仮設ファームのキャストとして活動した経験のある方などに声をかけることにしました。
請願者の方々から、シブヤ笑顔だけでなく、地域に関係しているこの再整備に賛成・反対それぞれの立場をとる複数の議員に声をかけてほしいとご要望もいただきました。部屋に入れる人数に限りがあるということやかなりタイトなスケジュールでの企画だったので、どういったお声がけが妥当かなども相談を重ねていたこともあり、直前になってしまいましたが、議員への出席を要請しました。
これまで西原エリアの活動に参加している議員かつ会派から1名を出していただくということで、当日は5名の議員の方がオブザーバーとして参加。(シブヤ笑顔は事務局として、3名参加していました)それぞれ、お考えやお立場やご予定などもあるので、お断りされた方ももちろんいらっしゃいました。
当日は定員30名満席で、有意義な対話の場になりました。この会の目的は、以下とおき、紙面でも配布し、冒頭に司会の田中たくみ議員より説明をし、ご理解いただいた上で参加いただきました。
本日の対話の場の目的に関して
1:玉川上水旧水路緑道の再整備にあたり、皆さんがお住いのエリアである幡ヶ谷緑道・西原緑道について、「対話」することで様々なご意見や想いがあることを出していただきます。
2:1の対話内容を踏まえ、オブザーバーで参加するそれぞれの議員が持ち帰り、渋谷区へ政策提言を行います。
また、参加者の皆様の心理的な安全性を担保することが重要なのも対話の場の特徴ということで、以下のお願いもしました。
お願いしたいこと
1:心理的安全性を保つために
①他者の発言に対する批判や否定はお控えください。
②この場で出た個人が特定できる具体的な発言や参加された個人名等に関しての共有はお控えください。
2:政策を提案するにあたり、情報の取り扱いには十分注意を図ることを前提に、議員が渋谷区の関連所管へ、詳細な情報を共有することがある旨をご了承下さい。
特にSNS等では、分断が生まれやすい傾向があるので、ご注意いただくようにも口頭でお願いをしました。(ということもあり、本ブログでも内容に関しては触れていないことをお伝えさせてください。)
一方で、ここでお話しした内容がしっかりと政策にいかされなければ意味がないので、参加した各議員がそれぞれで区へ情報共有したり、政策提言することはご理解いただきました。(個人が特定できる具体的な発言や個人名の共有は控えることを前提に)
ちなみに、シブヤを笑顔にする会としては、この会が終了後、12月23日夕方に13ページにわたるレポートを書いて(赤ちゃんを抱っこしながら、橋本ゆき議員が一言一句漏らさない勢いで、議事録をまとめてくれました)、関係する所管の課長へ伝えています。
そして、あらためてになりますが、議員は事業に対して賛成・反対の立場をとっているので中立的な立場というのは難しいので、ここでも中立的なファシリテーターとしてNVCファシリテーターの方に来ていただきました。
地域の皆さんがそれぞれの立場で感じていること、考えていること、活動していることを知り、理解していける対話の場をつくること、その大元には地域で分断がこれ以上起きないようにしたい。という願いがありました。
だからこそ、心理的な安全性を大切にした場にしようと心掛け、特にSNS等の分断が起きやすい場で、推論で様々な意見が飛び交うことを懸念して、その取り扱いについては皆さんにご注意いただくようにお願いしたのでした。
ご参加いただいた方々から、対話を通じた場を地域で持てることの意味や価値が大変あったというお声もいただき、事務局を担当させていただいた3人で、年末ホッと胸をなでおろし、年越ししたことを今でも思い出します。
4:今後、目指していきたいこと
みんなに愛されている玉川上水旧水路緑道だからこそ、よりよい再整備にしていきたいという想いで始まったこの事業。2017年から、たくさんの住民の方々にかかわっていただいて、他の企画(渋谷区の)と比べても、圧倒的に住民の方々とのワークショップの場や意見交換の場、出張座談会、町会への説明会なども入れると相当な数を職員の方々も場として作り、進めてきました。様々な課題やご意見、もちろん期待の声もいただいておりますが、全部取り上げると長くなってしまうので、このブログでは、「対話」と「農園」について取り上げました。
実際対話の場をつくって感じたことは、地域ごとにこういった場を作り、それぞれの立場の方のご意見を理解し、それを踏まえた上で、現状「農園」とされている地域が活用するスペースの方向性を話し合い、スペースの仕様や管理内容、利用方法などの地域ルールを決めていく過程こそが、まさに玉川上水旧水路緑道再整備のコンセプトである「FARM」で体現しようとしている、「コミュニティを育む」ということにつながるのだと実感していますし、住民参加型のまちづくりの集大成になると感じています。
私はこれまでも、区が全部やればよいというスタンスで活動をしていないこともあり、区がやらないなら自分たちでつくったらどうか?というスタンスで、常に活動しています。そのきっかけを作るのが、議員であってもいいと思うし、誰か課題意識を持った人がやればいいと思っています。特にこの対話の場をつくるということは、誰でも出来る取り組みだと感じています。
中立的なファシリテーターをどういう方に頼むのか?という点の課題はありますが、実は渋谷区では、対話のまちづくりコーディネーターを育成する取り組みも行っています。(今回は難易度高め案件ということで、知り合いのNVCファシリテーターの方に依頼しました)
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対話の場をつくることを、積極的に応援していきたいと思いますし、ご用命いただければ、私自身が企画・運営に入ってサポートすることもできます。
SNSを主戦場に、誰かを批判したり、事実と違う内容を憶測で載せ、分断を生むような発信や、それをもとにした議論が巻き起こりやすいテーマこそ、ちゃんと顔を見て、お互いを尊重して、対話をするようなそういった場が必要だとあらためて感じています。
そして、先日の令和7年第1回定例会の本会議でこの「対話の場」が、他会派の方の質問に出て、にわかにネット上でも話題になりました。
せっかくだから、1ヶ月以上続く議会の期間に、12月22日に参加いただいた議員の皆さんに声をかけて、対話の場を設置してみようという宣言を残して、このブログを終えたいと思います。(本ブログですが、議員同士の対話の場を受けて投稿をしたいと思っていました。2/27に無事終わりまして、やっぱり対話っていいなーと感じたことを書き記しておきます。)
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