フラッグケーキとは?
7月4日はアメリカの独立記念日(Independence Day/インディペンデンス・デー)です。Fourth of JulyとかJuly Fourthと呼ばれる祝日で、あらゆるところにアメリカ国旗のデコレーションが登場します。アメリカ国旗の三色ですが、英語では「Red,white and blue」と言い、赤、白、青の順番で決まっています。日本語だと、同じく「赤白青」のような「赤青白」のような、つまりどちらでも構わない気がしてしまいますが、英語の「Red,white and blue」の順番は結構重要なよう。つい順番を言い間違えてしまい、言い直されることもありますからね。
何はともあれ、以前「アメリカの「メモリアルデー」は〇〇〇」でも書いたように、アメリカでは祝日はとっても貴重。特にFourth of Julyは夏真っ盛りということもあってか、クリスマス、サンクスギビングに続いて、祝日感満載です。でも一体、何をするのかというと?
まずはバーベキューです。夏のアメリカといったらバーべキュー。
そして、Fourth of Julyの恒例イベントのひとつが、ホットドッグ早食い選手権。日本のTVチャンピオンの大食い選手権で一躍有名だった小林尊さんが、過去に何回も優勝したコンテストですね。今ではあたりまえになっている、ホットドッグをコップの水につけながら食べるスタイルは、小林さんが生み出した必殺技。日本人としては誇らしいところですが「ホットドッグこそアメリカ」と信じているアメリカ人にとっては、どこから来たともしれない小柄な日本人に「してやられた」という気持ちも強かったのか、当時はそれなりに反感もあったようです。早食い選手権の開催地はニューヨークですが、テレビ中継もありますので「くだらない」とか「またこれか」とかブツブツ言いながらも、ついつい見入ってしまいがち(笑)。
夜は花火です。ここ数年はコロナで多くの花火が中止になりましたが、今年あたりからどこも再開するようですね。カリフォルニアでは法律で禁止されているお家花火も、この日ばかりはOKなので、Fourth of Julyが近づくと、街のあらゆるところに、特設の花火屋さんが登場します。実際のお客さんをあまり見たことがないので、果たして意味があるのだろうか?とも思ってしまいますが、Fourth of Julyの夜は、近所も花火の音でかなりにぎやかになりますので、特設の花火屋さんの需要はやっぱりあるのでしょう。
その他にも、アメリカの星条旗があらゆるところに飾られて、国を挙げてのお祝いモード。私が働くベーカリーの商品も、続々とFourth of July仕様に様変わりしていきます。アイシングでデコレーションされるシュガークッキーはもちろん、カップケーキのアイシングも赤白青。
そして、この期間限定で「フラッグケーキ」も棚に並びます。フラッグケーキって何のことか分かりますか?お子様ランチのようにアメリカの星条旗が突き刺さったケーキが想像されそうですが、実際には、クリーム、ラズベリー、ストロベリー、ブルーベリーやブラックベリーでアメリカ国旗が描かれたケーキのこと。
例えば、こんな感じ。
フラッグケーキ
ケーキの形は長方形のシートケーキに限らず、丸型のケーキにも星条旗のデコレーションがされます。今の時期は、私が一緒に働らいているケーキデコレーターも、このフラッグケーキを作っていることがあります。私たちのお店では、白いシャンティリクリームをベースに、通常はいちご、ブラックベリー、ラズベリー、ブルーベリーがシンプルにデコレーションされる丸形の「Berry Chantilly Cake」のトップのデコレーションがフラッグ仕様になります。私が「フラッグケーキ」というものを知る前に、デコレーションの過程を目にしたときは、妙な角度から見ていたということもあり、しばらくは「スペシャルオーダーのケーキかな?随分豪勢ねぇ」なんて思っていたものです。言われてみれば、確かに星条旗だ。
着色されたアイシングのカップケーキなどは、とにかく色がどぎつくて「これ、食べるの?」とも言いたくなりますが、それと比べるとフルーツを使ったナチュラルなフラッグケーキは好感度高め。
ちなみに、こちらが、買い物先で見かけたFourth of July仕様のクッキーです。
最後に、シュガークッキーといえばの私のベーカリー体験談をひとつ。
前に働いていたベーカリーに、自称「クッキーアーティスト」を名乗る同僚がいました。彼女はパイなども担当していましたが、メインの仕事はクッキーのデコレーション。確かに技術は高いし、丁寧でクッキーの出来栄えは素敵。でも、とにかく時間がかかるのです。
自他共に認めるOCD(Obsessive compulsive disorder/強迫性障害)ということらしい。なぜかアメリカでは、このOCDを、才能の一つ、または自らの強みとして、アピールする人が多い印象を受けます。料理番組を見ていて思うに、どうやらOCDであること=天才肌、専門性が高い、プロフェッショナル、または完璧主義者⇒職人として優れている、という具合のようです。よって、OCDという言葉自体がとても気軽に多用されます。単純な時間配分のミス故に作業が終了しなかったのにもかかわらず「私のOCD性が、今回ばかりはあだになった」のように、正当な言い訳かのように、プライドをもって語られるのです。なんかヘン。
趣味ならば好きなようにやればいいですが、誰かに雇われ、何かを作ることでお金を(時間給で)もらっているのであれば「適当さ」が重要だと思います。ここでいう「適当さ」とは「いいかげん」という意味ではなく、適切な早さと質という意味。そのバランスこそが難しいところで、備えている技術に応じてもそのバランスは変わってくるでしょう。例えば、技術が足りないために時間がかかってしまう場合、出来栄えの妥協点を見定め、一定の時間内で一定のものを作る努力から始めるべきです。そして、技術が伴うようになれば同じ時間で、より質のよいものを、より多く作り出す努力をすべきではないでしょうか。そうやって、腕を上げ、よりよいバランスを生み出し、生産性をあげていくことで、いただくお金が増えるものだというのが私の信条です。
さて、クッキーアーティストの彼女の話に戻りましょう。
あれはハロウィン前のことでした。私の斜め前のワークベンチでいつも通り、超真剣な面持ちでクッキーデコレーションをしていた彼女。作っていたのは、白と黒のゴースト。白のアイシングをした一部分に黒のパウダーをふりかけることで、ボワッとした風合いを出そうとしていました。その時、私は見てしまったのです。パウダーの加減が思うようにいかないようで苦戦していた彼女が、クッキーに「フッ」と息を吹きかけてパウダーを飛ばすのを!思わず、二度見ですよ。そして、その「フッ」がどんどんとエスカレートして、しまいには「フッフッフ、フ~!!!」みたいになり… そのベーカリーで働いてまだ日も浅かった私には、あいにく物申す勇気はなく、内心で「誰か気づいて~!」とまわりをきょろきょろするばかり。そしてついに、彼女の後方で作業していたリードデコレーターが、その様子に気づいたのです。もちろん、彼女も二度見です。そして私とも目が合い、私は必死に「そう、そう、そうなの」と必死な目くばせ。
リードデコレーターの彼女がぴしゃりと言いはなったのが「〇〇(名前), don't do that, It's gross.」つまり「〇〇(名前)、それやめて。気持ち悪いわ」と。お叱りをうけた彼女は、長時間かけて作ったクッキーをバサッとゴミ箱に捨て、道具をバンバンバン!と派手な音とともにに片付け、ドアをバタン!と閉め、去っていきました。まぁ、いわゆる逆切れですね。本人もしてはいけないことなのは当然分かっていたはず。でも、せずにはいられなかった、そして、一度やったら止められなかった、というところなのでしょう。
そうそう。
私はあれ以降、彼女のクッキーはどんなにシンプルなものでも、楽しむのは目のみとすることにしました(笑)。