「本当の知恵を教えてもらったり、想像していた以上の何かを持ち帰れる気がする」 okatteメンバー 杉本正代さん【INTERVIEW #06(後編)】
2015年4月にオープンしたokatteにしおぎは、もうすぐ10周年。まち暮らし不動産が10年を勝手に振り返る企画として、関わってくださった方へのインタビューを連載しています。第6回(6人目)okatteメンバー杉本正代さんの後半です!
2020年に「なりゆきで」「後に引けなくなっちゃって」メンバーになってしまった杉本さん。なんとなく参加してみたokatteのおせちづくりにハマり現在に至る。今年はご本人にとって印象的な出来事があったそう。okatteで裁縫部を始めたんですって。
<前編の記事はこちら>
聞き手・文:川越恵子(N9.5)
※イニシャルで登場する人の注釈はokatteメンバー向けです
人生ではじめてのこと
― 最近面白かったことは?
最近はね、竹之内さんとMさん(※OKANEYをデザインしたokatteメンバー)と3人で、okatte洋品店っていう裁縫部を始めたんです。ズボンを1本縫うだけなんですが、3人で教え合いながら励まし合いながら作っています。この裁縫部(※)も、始まった経緯が面白くて。
ー 裁縫部?ご自身のものを縫ってらっしゃるんですか?
はい。でも上手じゃないので、最初はお出かけ用のズボンのつもりだったけど、だんだんホームウェアだねパジャマだねってトーンダウンしています(笑)。1人だったら作らないけれど、3人だとハードルが下がって、のんびり作っています。そして、裁縫部なのに絶対みんな食べ物を持ってくるんです。先日は偶然、私がパイを焼いて持って行ったら、たまたま二人がリンゴとさつま芋を持ってきたんです。
ー それは素敵な組み合わせですね。
作業をしている間に、okatteのオーブンでりんごとさつま芋が焼きあがって、途中でバニラアイスも買ってきた。ズボンを作りに行ったのに、おなかいっぱいになって帰ってきました(笑)。だから、お裁縫を習いに行ってるのとは全然違いますね。
ー 昔のお勝手は、そんなふうに一人でやると大変な農作業をみんなで分け合ったり、合い間にお茶を飲んだりする場所だったのかなと思います。
本来あるべき機能を持った場所だという感じがします。お台所を中心にしているのがいいですよね。人が集まると飲んだり食べたりしますし。
話は変わりますが、今日お話ししたいと思っていたことがあって。
ー はい。うれしいです。
今年の夏、郡上八幡ツアーに行ったの!ツアーといっても正式なものではないのですが。
ー 郡上八幡!詳しく教えてください。
西荻窪と郡上八幡の2拠点生活をしてらっしゃる方と、竹之内さんがお知り合いになったんですって。郡上八幡で古民家を再生した一棟貸しのお宿を経営してると。それで、竹之内さんが「一緒に行かない?」って誘ってくださったんです。何人か集まっていたようですが、私は他の方たちとは初対面ですし、一緒にご飯も食べたことがない。そんな方々と旅行なんて!と思ったんですが、竹之内さんのお誘いだし、郡上八幡は一度行ってみたい場所だったので「行く」と答えてしまったんです。うっかり。でも正直、大丈夫かなと心配でした。結局、いろいろ予定も変わって5人中4人がokatteメンバーになったんですけど。
ー 初対面の方もいらっしゃる。
そうなんです。LINEグループを作って、誰がレンタカーを借りるとか、一人いくらとか、岐阜に現地集合しようと連絡したり、郡上八幡は日本三大盆踊りだから浴衣を持っていく人がいたり、お宿で借りる人がいたり。宿に着いたその日に、半分初対面の人と、わいわい言いながら浴衣を着せ合いっこしたんです。そして郡上踊りに繰り出しました。
ー すごいですね!
そうなんです。郡上踊りはとっても素敵でした。私たちは夕方まで踊る人、踊りについていけない人、お酒を飲む人などに分かれて楽しみました(笑)。
次の日には、石徹白(イトシロ)洋品店という場所に連れて行っていただきました。洋品店といっても民俗学の学者さんご夫婦で、昔の野良着をパターン化して、土地の藍や草木で染めたお洋服を販売されている。昔の人は布がとても大事なものだから、端切れを一切出さないよう、直線裁ちで野良着を作っていたことを知り、それが廃れてしまうのは惜しいので、僕たちが継ぎますって移住されたそうなんです。そこでokatteメンバーのMさんが「野良着の作り方の本を買うから、okatteでズボンを作ろうよ」とおっしゃって。
ー それがさきほどの裁縫部なんですね。
そう。私だけだったら作らないんですけど、okatteに集まって3人でやれば大丈夫かなと思っちゃって。1か月に1回くらい集まって、今日は布を切るとこまでとか、今日はジグザグ縫いまでねと、少しずつ作っています。Mさんはとてもお上手なんですが、私と竹之内さんはあまり得意ではないので、Mさんに超基本から教えてもらっています。旅行でご一緒したokatteメンバーのTさん(※メンバー定例会のメモをファイリングしてくれてる!設計のお仕事をしてるメンバー)は、私たちがokatteに集まって作っているとメロンとか差し入れしてくれます(笑)。あともう2、3回くらい集まったら完成しそう。3人で履いてお出かけしたい。
ー 素敵ですね。
こんなことになるって、私も思っていなかった。今回の旅行の発起人になった方は、郡上八幡の宿を借りるためにいろんな方を旅行に誘ったんですって。でもみんな「いいね」とは言うけれど実行には至らなくて。だから「okatteの人ってすごいですね。なんかみんな集まっちゃうのね!」っておっしゃっていました。okatteメンバーが誘ってくれるなら大丈夫だろうという信頼みたいなものがあるなと思います。okatteメンバーだって元々知らない人なのにね。それにしても、会ったことない人と旅行するなんて、これまでの人生で初めての経験でした。うまくいかなくて喧嘩して帰ってきたりするのかなと思っていたら、ここ何年かで一番と言っていいほど、幸せで楽しい経験でした。
ー 人生初!
みなさんがちゃんと大人で、お互いに優しくて。そして、いろんな情報を出し合えるところが、すばらしかったです。例えば、お宿のリノベーションの技術的なことなど、専門的な話を分かりやすく教えていただいたり、民族学からスタートしたプロジェクトのお話を聞くことができたり。そこに行って見て終わりじゃなく、いろいろな成り立ちを学ぶことができた中身の濃い旅でした。なんかすごいなと思いました。
こんな近所に、こんな場所があること
ー 他のコミュニティとokatte、違いはどんなところ?
okatteの人たちはみんな、スペシャリストだったり、プロだったり、お仕事じゃなくてもいろんな知識を持っている人が多いなと思います。だから、okatteに行って、話をして単純にスッキリしたとか共感したとかいうより、毎回新しいことを覚えたり、自分が進歩して帰ってこられる感じがします。おせち一つでもどんどんレベルアップしていますし、例えば旅行で訪れた石徹白洋品店さんからお話を聞いて、帰ってきてすぐ宮本常一っていう人の本を読み始めたり。そんなふうに、okatteからは、自分が想像していたこと以上の何かをもらって帰ってくることが多いなと思います。しかも、外から先生を呼んできたわけではなく、みなさんが持っている知識やネットワークでそれが成り立っていて、しかもマウントをとることなく静かに教え合う感じ。こんな近所にこんな場所があるなんて、すごいなと思います。
ー なるほど。静かに教え合うのですね。
それは、大家さんとかしのぶさん(弊社齊藤)のお人柄なのか、運営方法とかコンセプトワークのやり方なのか分からないですけれど、明らかに他とは違うと思うんです。具体的な内容は覚えていないのですが、okatteのメンバー説明会のときに、しのぶさんが、「ご自身が参加したいと思ったら参加すればいいし、今はいいやと思ったら、今は参加しなくてOK」っておっしゃっていたのがとても印象的でした。例えば、カルチャースクールの場合は、入ってほしいので、「来なくてもいいです」とは言わないですよね。
ー たしかに、「本人が決める」ことは大事にされているかも。
そうですね。それと、私は「誰とでも親しくなる自信がある人」とか、「初対面でもわりと近い距離でコミュニケーションをとろうとされる」のが苦手なんですが、okatteにはそういう方がいないような気がします。よくあるコミュニティだと、しのぶさんや乙川さんの立場の方がそういうタイプになったりすることも多いのだけれど、お二人ともそういう人じゃないんです。距離感を無理に詰めて来ない。
ー 杉本さんにとっては、そんなokatteの雰囲気が安心だったんですね。
そうなんです。メンバーになったときも、緩やかに受け入れてくださる雰囲気がよかったです。超大歓迎だと、もし行かなかったら怒られそうで怖いなと思ってしまうので。
ー なるほど。歓迎の中にはかえって強制力を感じるのですね。
お友だちをいっぱい作らなきゃいけない、みたいなプレッシャーもないんです。私はメンバーになって4、5年になるのですが、全然会ったことがない方もいるし、お名前も分かってないけれど、分からないまましゃべってる人がいて、それでも大丈夫って思わせてくれる場所なんです。そういう雰囲気がラク。そんなふうに思わせてくれるところはあまりないと思います。仕事の関係でNPOのお手伝いをしていて、いろいろなタイプのコミュニティを見てきたんですが、それもあってコミュニティは苦手だなって思っていたのかも。それなりに社会人としての社交性はあるけれど人見知りなので。そう思っていたときに、たまたまokatteのメンバーになったので、こういう場所もあるんだな、とてもいいところだなと思いました。
ー 色々なコミュニティを見てきた中でも、okatteは安心できる場所だったのですね。
【杉本さんのベスポジ】
ー 最後に杉本さんにとってのokatteのベスポジを教えてください。ベストポジション、ここに座るのが好きだなとか、ここから見るこの景色が好きだなとか。
私は土間の大黒柱によりかかって一息ついている時間が好きです。窓から植物が見えて、ストーブも見えて、「みんな楽しそうだなあ」とメンバーの方々を眺めながらお茶を飲んだりして。自分が作業をしているときは、「誰かちゃんと写真撮ってるかしら」とか、いろいろ気になってそれどころではなくなってしまうので。
ー もうひとつ。「10年たってもいまいちわからんokatteの○○」っていうのも伺っているのですが、何かありますか?
わからないことだらけなんです。(笑)ストーブのつけ方もわからないし、電気もどこだかわからないので、スイッチ全部押してから、あとで消したりしています(笑)。でも、だからといって、何かしらサインをたくさん付けるのもかっこ悪いですし、聞き合えばいいと思うので、それがokatteらしいかなと思います。
最後に、okatteメンバーのみなさま。お会いしてもお裁縫の進捗は聞かないでくださいね!できたら報告いたしますので。よろしくお願いいたします。