okatteにしおぎに住む、槻岡佑三子さんに聞く【DIYで暮らしをアップデートする楽しさ】
槻岡佑三子さん(スタジオソイ一級建築士事務所代表)は、まち暮らし不動産がコーディネート・運営支援をするシェアハウス「okatteにしおぎ」に住んで7年目。
コロナ禍をきっかけに暮らしを見つめ直し、居室を改装しました。
自ら手を動かし、心地良い暮らしの場を整えた槻岡さんに、どのようにDIYの改装を実現したのかお聞きしました。
「賃貸だからリフォームできない」と最初から諦めるのではなく、まずは想像してみる。相談してみる。やってみる。
そこから、自分の暮らしを自分で楽しくすることが、はじまるのかもしれません。
家で仕事をするようになり、改装を決意
ーー槻岡さんは、部屋を居室兼事務所にしていますね。改装しようと思ったきっかけを教えてください。
槻岡 もともとシェアハウスとは別に事務所を設けていたんです。でもコロナ禍で外出が難しくなり、建設業界も不安定になりそうで。なるべくコストを抑えたくて、事務所を引き払って荷物を全部「okatteにしおぎ」の個室に運び入れたら、大変なことになった(笑)。それでリフォームを決意しました。
それから、暮らしアップを考えるトークイベントを仲間と開催したのも大きなきっかけです。設計の仕事を通して暮らしアップを提案しているのに、自分は書類に埋もれて生活している。自分の暮らしにも居心地の良いスペースをつくりたいと改めて思いました。
ーーご自身の暮らしを見直し、改装を決めたのですね。それから初めに何をしたのでしょうか。
槻岡 最初に、まち暮らし不動産の篠原さんと齊藤さんに、「こんな風にリフォームしたいんだけど、どうですか?」と聞きましたね。そうしたら、「計画案と申請書を事前に提出してください」「施工要領に則ったやり方をしてください」という回答がありました。当たり前だけど、ちゃんとした会社なんだなって(笑)。
大家さんとのやり取りは、まち暮らし不動産にお任せしました。それで計画書を送って承諾をもらい、リフォームに着手したんです。
ワンルームに、くつろぐ場所と仕事の場所を
ーーこの部屋を改装したのは、今回が初めてですか。
槻岡 元々設置されてた事務所仕様の蛍光灯が明るすぎたので、入居して1年ほど経った時、ライティングダクトに取り替えました。その時は電気工事屋さんに来てもらいました。その次にブラインドを替えて。規模は違いますが、今回のリフォームは実は第3弾なんです。
ーーこれまでも少しずつ部屋を整えていたんですね。賃貸住宅でも、設備を替えられる場合があると知らない方も多い。まずは相談してみることが大事ですね。今回大きくリフォームするにあたって、大切にしたことは何ですか。
槻岡 ゆっくりくつろぐ場所と仕事をする場所をちゃんと分けること、ですかね。田舎育ちなので窓辺でごろごろしたいと思って、小上がりをつくって畳を置き、カーテンで仕切りました。カーテンを閉めている時は、隣にある作業机が見えなくなります。今は、幅80cm程度の小上がりに布団を敷いて寝ています。寝る以外にも、ここでご飯を食べたり、朝起きてお香を炊きながらYouTubeでお坊さんの講話を聞いたり。昔の茶の間みたいに、状況によっていろいろな使い方をしています。
あとは収納スペースをつくること。元々収納がなかったので、カーテンレールを取り付けて、いろいろなものを置ける場所をつくりました。カーテンを閉めていれば、オンライン会議の際に映ってもすっきりした背景になります。
ーー小上がりの奥にある、灰色がかったグリーンの壁が印象的ですね。
槻岡 特注色の左官材「天然スタイル土壁」を塗ってます。ブルーグレーと迷ったんですが、自分の好きな色にしようと、苔のようなイメージでこの色にしました。壁の手前にある照明器具も、リフォームしたいと思ったきっかけの一つです。この照明器具が似合う空間でくつろぎたいと。今は、夜に仕事を終えてちゃぶ台出して、10Wの落ち着いた電球の元でお酒を飲むのがとても楽しいんです。壁につけた真鍮のL型棚は、色が経年変化してどんどん馴染んでいくのが楽しみです。
ーーここが、気持ちを整える場所になってるのですね。
槻岡 そういう暮らしを目指してます。毎日じゃなくても。
部屋が変わると仕事の仕方も変わる
ーー以前、まち暮らし不動産の事務所に丸ノコを借りに来ましたね(笑)。槻岡さんがDIYしたところ、工務店が施工したところを教えてください。
槻岡 照明の付け替えと天井の塗装、カーテンレールの取り付けは工務店に任せ、左官壁の塗装や棚の取り付けは自分でやりました。丸ノコは棚板を切って長さを調節するのに使ったんです。お借りできて助かりました。
いちばん大変だったのはやっぱり左官。それまで自分で塗ったことはないけれど、簡単そうに見えてて、そんなに大変だと思わなかったんです。
下処理に時間がかかりました。マスカー貼ってシーラーを2回塗って下処理が終わり。そのあとマスカーを剥がしてまた貼り直して、左官材を練って塗って。左官は友だちに手伝ってもらって、壁一面を塗りました。
左官材を撹拌する機械や道具は、工務店の方にお借りしました。また、okatteの駐車場をちょっとお借りして、左官を練ったり棚板を切ったりする作業ができてありがたかったです。
ーーDIYをするときに、個室でできない作業ができる広いスペースがあるのは大事ですよね。施工はどのくらいの期間かかったのでしょうか。
槻岡 去年10月の初めに大きい工事を済ませました。1日目に天井を塗装してもらい、2日目に壁の下処理、3日目に左官を塗って。そのあとも自分で棚板をつけたりして、昨年12月に完了。
今年4月には、okatteメンバー向けに、窓から部屋を眺める内覧会を開いたんですよ。窓から見るというのがおもしろくて、okatteオープンデーの際に、個室から窓を通して中庭の方にお茶を出すのも良いな、と想像してます。
ーーそれは楽しそうです! 部屋を改装してから半年ほど経ちますが、居心地が良いなと感じるのはどんな時ですか。
槻岡 やっぱり朝と夜に小上がりでゆっくり過ごす時間ですね。そうしたくつろぐ時間を持てるように仕事の仕方も変わりました。昼間に生産性を上げて仕事をすることが大事。
ーー空間が変わることで生活の仕方も変わるのですね。
槻岡 もっと早くやればよかった(笑)。仕事のクライアントにも「リフォームをやった方が良いですよ」と、自信を持って言えます。
賃貸だからDIYできないと思い込まず、まずは相談を
ーー槻岡さんが、大家さんや他の住人の方と育んできた「関係性の質」が良いから、DIYを実現できた面もありますよね。シェア生活の中でルールを守り、話し合って、時にはルールを調整していくことで、質の良い関係性は築かれます。その上で「改修計画を出す」「承諾を得る」などの手順をきちんと踏むことが大事ですね。
槻岡 たしかに、変に遠慮し合ってしまう関係だったら、「廊下に物を置いていいですか」「駐車場を借りていいですか」とお願いすることすら、難しかったかもしれないです。
ーーまち暮らし不動産が管理するシェアハウスは、基本的に個室をDIYできる仕様です。そして、okatteにしおぎの場合は入居時にDIYを想定した賃貸借契約を結びます。
住む方には「賃貸だから直してはいけないんだ」と思い込まず、「こんな風にしたいんだけど」と、私たちに聞いてほしいんです。そうすればダメなことはダメと伝えるし、どうすればできるのかを考えられます。
槻岡 部屋は満足しているのですが、…….じつは他に今、こうできたらなって考えてることがあるんです。
ーーおお。まずは詳しく聞かせてください!
インタビュー構成・文/玉木裕希