町田誠也

札幌で活動している小説家・脚本家・演出家・作詞家・俳優。劇団words of hear…

町田誠也

札幌で活動している小説家・脚本家・演出家・作詞家・俳優。劇団words of hearts代表(作・演出を担当)。2004年小説「うたかた橋」で第29回北海道文学賞佳作を受賞。2016年ラジオドラマ「川の流れを追いかける」にて第2回北のラジオドラマ大賞を受賞。

最近の記事

#40 超個人的ショートショート(6)

我々捜索隊がこのジャングルに潜入して15日目。 未だに目的である『扉』は見つからない。 人類を救うとも噂される妙薬、『扉』。 正式名称は定かではないが、万病に効くということで、現在、世界各国が血眼になって実物を探している幻の植物だ。 古の書物によると『扉』はごく限られた自然環境でのみ生育し、しかも種子から花を咲かせるまでに数年の時間を要することから、その真の姿をはっきり見たものは数えるほどしかいないと記されている。 私に課せられた任務はその『扉』を発見し、本国へ持ち帰ること。

    • #39 超個人的ショートショート(5)

      誰だって秘密の一つや二つくらい抱えて生きている。 友人から借りた文庫本をこっそり売ってしまったとか、賞味期限の切れた食材を調理して客に出したとか、お腹の中にいる赤ちゃんの父親が、実は今のパートナーじゃないとか。 まあ、そんなのはバレなければいい訳で、黙ってさえいれば通り雨のように過ぎ去ってしまう。 一瞬、路面が濡れたとしても、いつの間にか乾いて、雨が降ったことさえ忘れてしまっているみたいに。 3.141592653589793238462643383279502884197

      • #38 超個人的ショートショート(4)

        ドウデュースが有馬記念を勝ったとき、俺は自宅で二杯目のコロンビアを飲んでいた。 甘い香りとまるい酸味、そしてまろやかなコクが口中を彩ってくれる。 それにしてもドウデュースは強かった。 前半から中盤にかけて約七馬身の差をつけて逃げるタイトルホルダーなど目にもかけず、終始己のペースを守り、最終コーナー手前でさも予定通りとでも言わんばかりにきっちりと差し切る。 決して派手な勝ち方ではなかったが、レース展開を読む嗅覚やラストスパートのタイミングなど、正に横綱相撲だった。 テレビ越しに

        • #37 超個人的ショートショート(3)

          博士は一体何の研究をしているのか。 長年助手を勤めるこの僕でさえ解っていない。 2年前に博士がいきなり「これはイケるぞ」と言い出したと同時に、その日から研究に没頭する毎日がスタートした。 僕が出勤する時間には既に博士は実験を始めているし、退勤する時間もまだ博士は実験を進めている。 もしかしたらずっと帰宅していないのかもしれない。 そして研究の内容に関しては一切教えてはくれない。 全て博士が一人で進めている。 その入れ込み具合は尋常ではなく、半年前に科学者にとって最も権威のある

        #40 超個人的ショートショート(6)

          #36 超個人的ショートショート(2)

          いつもの時間、いつもの場所を通って、僕は郵便物を配達して回る。 請求書やDMが主だけれど、手紙や小包などは送り主の気持ちが存分に詰まっているような気がして、ほんの少しだけ厳粛な気分になる。 受け取った人みんなが幸せな気分を味わってもらえたらと思う。 田舎の郵便局に転勤して3年目になった。 配達に出るときは昔から使われているいつもの赤い自転車に乗る。 前任者がよっぽど雑に扱っていたのか、赴任してきたときは錆だらけだったこの自転車も、僕が丁寧にメンテナンスをしたので今はピカピカ

          #36 超個人的ショートショート(2)

          #35 超個人的ショートショート(1)

          何の気なしに入ったカフェで、私は大きく一つため息をつく。 コーヒーの香ばしい匂いが店内に満ち、カウンター越しにマスターと思われる男性が、常連客と何やら談笑していた。 どうやらダーツの話題らしい。 私は注文したマンデリンを一口すすった。 すぐに深みのある苦味が口の中に広がった。 28という年齢まで生きてきたのだから、失恋が初めてというわけではない。しかし、今回に限っては参った。 私にしては珍しく、全身全霊をかけた恋愛だった。 彼との未来を夢見て、それはまるでデジャヴを味わうかの

          #35 超個人的ショートショート(1)

          夏の暑さと湿度の中で。

          演出を担当する舞台「異邦人の庭」のツアーで、水曜日から北九州にいる。 今日が公演の初日。 見ず知らずの土地で公演することの大変さと、ご来場頂いた方々への感謝の気持ちを抱えながら、今はホテルの部屋で机に向かっている。   それにしても暑い。 気温の高さもさることながら、梅雨時ということもあるのだろうか、とにかく湿度が高いのだ。 外がまるでシャワーを浴びた直後のバスルームのような感じ。 蒸し蒸しである。 北海道で生活していると、この湿度に対する免疫が乏しい。 肌にジトっとまとわり

          夏の暑さと湿度の中で。

          スモーキー純米酒に合うアテが知りたい!

          お酒が好きでして。 特に辛口の日本酒がお気に入りなのです。 最近ちょっとはまっているのが「スモーキー純米酒」というやつで。 その名の通り味わいがとてもスモーキー。 まるでアイリッシュウイスキーのような日本酒なのです。 ちょっとクセのある口当たりがたまりません。 常温で飲んでもいいのですが、氷を入れてロックでもいい感じなのです。 ちなみに試してはいませんが燗は止めておいたほうがいいかもしれません(笑)。 このお酒に合うアテを探しています。 知っている人がいたら是非とも教え

          スモーキー純米酒に合うアテが知りたい!

          顔色を気にしたり窺ったりする話。

          顔色の話。 僕は赤ら顔だ。 頬から鼻にかけて赤みが目立つ。 数年前から「熱あるの?」とか「日焼けした?」などと指摘されるようになり、余りに頻繁に言われるものだから、気になって病院に行ったら「酒さ(しゅさ)」と診断された。 「酒さ」、聞いたことのない病名だ。というか、病名らしくない。●●症とか、●●性疾患みたいに言われたら危機感も増すのに、文字だけ見たら何を飲んでいるのかと聞かれた酔っぱらいが気取って答えたときの言葉みたいだ(わかりにくい?)。 しかし酒さはれっきとした皮膚疾患

          顔色を気にしたり窺ったりする話。

          尿酸値低下を機に思うこと。

          今、名古屋のホテルでこれを書いている。 僕が演出を担当した舞台「異邦人の庭」の名古屋・北九州ツアーが始まった。コロナの影響で一年延期の末のツアーだけに、とても感慨深い。 見てくださる方々に楽しんでもらえるツアーにしたいと思っている。   さて、今回はそれとは全く別の話。 先日、かかりつけの病院に行った。 10年ほど前から、僕は血液中の尿酸が正常値を超えていて、その5年後には痛風の発作を発症。右足の親指の付け根がありえないぐらい腫れあがり、激痛が走る経験をしたことがある。 その

          尿酸値低下を機に思うこと。

          昔の名作を見ながら夜ふかし

          最近、「トムとジェリー」をYouTubeで見ることが多い。 世代間でどれくらいの認知度なのかは不明だが(ちょっと調べてみたい)、アメリカの映画製作会社MGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)が製作したアニメだ。猫のトムとネズミのジェリーが、様々なシチュエーションでいわゆる「なかよくけんか」している様子を描いている。 一本がどれも7分程度なので、寝る前に見るのが習慣化されつつあるのだが、次第に楽しくなって、ついもう一本と増えてしまい、気が付けば深夜ということも珍しくな

          昔の名作を見ながら夜ふかし

          【小説 #34】10 years after

          昼過ぎから降り続いた雪が、夜になってようやく止んだ。午後七時を少し過ぎた辺り。街並みを白く染めた積もりたての雪を踏みしめながら、多くの人々が家路へと急いでいる。吐き出す息はまるで濃い煙のように白い。今夜も冷え込みが厳しくなりそうだ。 片桐哲夫はこっそりとスマートフォンの画面を確認した。 この一時間で四度目だ。しかし過去三回と同様に会社以外に誰かから連絡が入った形跡はない。失望をたっぷり含ませたため息がこぼれる。   いらっしゃいませ。 クリスマスケーキは如何ですか? 美味し

          【小説 #34】10 years after

          「芸能人に似てるね」と指摘するリスク

          結構な頻度で「阿部サダヲさんに似てますね」と言われる。 指摘されるようになったのは30代になってからだから、かれこれ20年近くになる。個人的には、同じ年齢の有名俳優に似ていると言われるのは恐縮こそすれ、決して悪い気分ではない。 だからどんどん言ってくれて構わない。 その度には僕が調子に乗っていくだけの話だ。 しかし、実は芸能人に似ているという指摘はリスクの方が大きい。 随分前、僕がまだ若者のカテゴリーに入っている頃のこと。 その日、僕は何かのきっかけで知り合った女性とカ

          「芸能人に似てるね」と指摘するリスク

          コロナ禍のスポーツ観戦で得たもの

          GWも終盤。コロナ禍も3年目になり、過去2年に比べて活気が戻ってきているように感じる。 僕に関して言えば、仕事と稽古があるのは毎年のことだが、それでも合間を縫って出かけるようにしている。中でも5月1日に札幌ドームで行われた、大学ラグビーの早明戦は楽しかった。この日は「北海道ラグビーの日」だそうで、今回の一戦もそのプログラムの一つとして開催されたようだ。 地下鉄東豊線福住駅から札幌ドームまでの道のりを歩く。当日は風が強く寒かったが、同じ目的で多くの人が歩いている列に加わってい

          コロナ禍のスポーツ観戦で得たもの

          #33 蒼い海と空の記憶(3/3)

           盆を過ぎると、北海道の夏はその勢いを徐々に弱めていく。盛夏の頃と比べると日中も幾分か過ごしやすくなり、場合によって夜は肌寒いときもある。夏休みも残りわずかだ。  花火がしたいと彼女が言った。特に日本を感じられるような線香花火がいいと。そこで夜にまた同じ場所で会うことになった。花火は僕が用意することになり、一旦別れた。  辺りが薄暗くなりつつある頃、約束の時間よりも少し前に到着していた彼女は、僕の姿を見つけた途端に弾けるような笑顔を見せた。出会ってから何度も彼女の笑顔を見たが

          #33 蒼い海と空の記憶(3/3)

          #32 蒼い空と海の記憶(2/3)

           ほんの一瞬の出来事や人との出会いで、自分の価値観が大きく変化することがある。僕もこの世に生を受けてから周りの影響を受け、その時々の価値観を持って生きてきた。もちろん、これからもそうしていくことだろう。人生とは偶然の産物による時間の堆積と言える。  しかし起こった出来事の全ては必然の範疇であり、そこに偶然の入り込む余地はないと言う人もいる。人生において受動的なことなどあり得ない。良いことも望ましくないことも、結局は自分の心が命じたことなのだと。  そうだとすると、僕が新元夏海

          #32 蒼い空と海の記憶(2/3)