未完成なぼく
大都会で働いていた湊さんは、60歳を目前に故郷岩手に戻りました。運命は残酷でした。岩手に戻り、程なくして、湊さんを病魔が襲います。胃ガンでした。手術にて一旦は改善するも病魔はすぐ勢いを取り戻します。再発と転移。抗ガン剤治療を受けましたが、少しずつ効かなくなりました。いよいよどの薬も受け付けなくなり、緩和医療中心の自宅療養を希望され、私のところにやってきました。梅雨の最中、ジメジメした7月初めでした。
初対面の折、末期ガンであることは一目瞭然でした。顔はやせ細り、治療の影響で喉が弱くなり、十分に食べられていませんでした。ただし眼光だけは鋭く、よっぽど強い気持ちをもっていないと目をそむけてしまいそうな、そんな鋭さでした。
「先生、包み隠さず何でも言ってください」
「いいんですか。ではお伝えします。残された期間はおそらく1ヶ月ほどです」
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