捨てられる患者 ver.2
高濃度ビタミンC点滴療法を受けたいと、女性が私の外来にやってきました。
話を伺いました。
どうやら進行がんではなく、早期の乳がんでした。
なぜ早期なのにビタミンC点滴なのか、さらに話を伺いました。
ちょっとまえ胸にしこりを見つけて、医療機関を受診されたと。
そこで乳がんの診断がついて、すぐに手術日も決まって、すぐに入院日も決まったのだそうです。
そもそもがんという宣告を受け止められない状態だったようです。いわゆる呆然とした感じでしょうか。
にもかかわらず、トントン拍子に話が進み、ある意味で本人不在で自動的に入院や手術のことが決まっていったと。
女性は明確には口にはしませんでしたが、いわゆる医療不信に陥ったわけです。
それで、手術は受けたくないと。
(きっと、なにかしらの本も読んだのかもしれませんが)
私は医師なので、私なりにその先生のお気持ちを考えながら説明しました。
幸いに早い状態で見つかったので、完治しうること。
前の先生は早く治してしまいたい気持ちゆえに、きっと早く話を進めたのではないかと。
しかも、これほどスピード感をもって、入院して、手術を受けられるのはある意味でラッキーなこと。
女性は安堵の表情を浮かべられ、納得されたようでした。
(少なくとも私にはそう見えました)
ただ、元の先生のところでは治療を受けるのはちょっとということだったので、別の病院をご紹介しました。
その後、やはり早々に手術を受けられて完治したと、風の噂で聞きました。
もしあのとき、女性が標準治療を選択していなかったらと思うとゾッとします。
数年後に元気にお会いできたかどうかと思うと、きっとお会いできなかったと思います。
この話、この女性(患者さん)は医師から捨てられていません。
それどころか、相当なスピード感を持って治そうという医師の強い意思すら感じますし、驚きというかさすがの対応に見えました。
が、しかしです。
今回はなぜこんなことが起きたのでしょうか。
もし手術を受けたくないとほっといていたら。
もし手術を受けたくないと、インチキ代替療法のみを推進するドクターを受診していたら。
きっと命は数年以内だったはずです。
この話、私に受診したから良かったのだという美談にするつもりは毛頭ありません。
考えさせられる話です。