
いぎるごどは難儀なの⑥@町医者エッセイ
がんと診断されて2年目の年末が迫ってきました。
祖母の誕生日は1月でした。
今度の誕生日で90歳です。
89歳と90歳では格が違う。
ぼくは、勝手にそんなことを感じていました。
そこで、会う都度、「まだ、死ぬな」と伝えていました。
『なんで?』と祖母に聞かれるので、「89歳と90歳では、どうせ死ぬのだったら格が違う」と説明しました。
『まったく、大ちゃんは勝手だね』と祖母が苦笑いしてました。
本当にそう思っていたのか(格の違い)、シンプルに死んで欲しくなったのか、今となってはどちらだったのか、よく覚えていません。
ただ、まだまだ死んでほしくなかったのは、本音だったはずです。
さて、無事に年を超え、誕生日を迎えました。
90歳です。やったー!!
孫も、ひ孫も、みんな揃って誕生日を祝いました。
ハイカラなばあちゃんらしく、生クリームたっぷりのケーキと一緒に。
誕生日を迎えてからも、まずまず順調でした。
あるとき、こんなことがありました。
「いつもお世話してくれる方々(スタッフ)に、蕎麦をごちそうしたい」
がんと診断されて随分たつ割に、思いの外、元気でしたが、本人は何かしら感じていたのかもしれません。
お礼をしたい、ということでしたから。
みんなで、蕎麦屋さんに行きました。
祖母は、ほとんど食べられませんでしたが、みんなが美味しそうに食べているのをみて、喜んでいるようでした。
ばあちゃんが残した蕎麦はどうったかな、確か、ぼくが食べたような。
はっきりはしませんが。
このとき、4月。
いつもならば畑仕事が始まる頃ですが、さすがに難しかったようです。
ぼくは勧めたのですが、体力がなかったのか、気力がなかったのか、自然に断念でしたようです。
今、思い返すと、この頃には、ばあちゃんも死を近くに感じていたのかもしれません。
翻ってぼく。そりゃあ医者ですからね、死が近づいていることは誰よりもわかっていました。
でも孫です。そういう医者としての冷静な気持ちをうちけてして、まだまだと思っていたわけです。