お金持ちのシンガポール同僚に学ぶ、豊かさの本質と賢いお金の使い方。
シンガポールの真のお金持ちはどこに住む?
プールやジム付きのコンドミニアムに住む駐在員。そのキラキラした生活に目を奪われがちだが、シンガポールの本当のお金持ちはコンドミニアムではなくバンガロー (一軒家) に住んでいるのはご存じだろうか。
駐在員をしている頃、部署にある20代後半の女性が入社してきた。
NTU出身の、一見見た目はごく普通のお姉さん。
鞄が他の若手シンガポール人同僚に多いリュックではなくLONGCHAMPなこと以外は、特にブランドづくめという訳でもなく、普段は上着としてNTUのジャージを着ていたりと、本当に普通の若い女の子だった。
弊社は会社が辺鄙なところにあるので、ローカル社員用に会社の送迎バスが走っている。ただ、色々な地域を網羅するために走行ルートが長いため、バスに乗るためにすごく早起きをする必要があったり、渋滞の状況によっては始業時間の30分以上前に着いてしまうことも多々あった。
彼女も最初はバスを使用していたが、どうやら朝が弱いようで、だんだん自家用車のBMWで通勤するようになった (ちなみにうちの駐在員の車はマツダである)。
とはいえ、シンガポールでは公団住宅のHDBの駐車場であっても、ベンツやBMWが止まっているし、なんならうちのローカルの部長はベンツに乗っている。
外車に乗っているくらいは当たり前なのかななんて思っていたが、しばらくして噂好きのシンガポール人同僚が、「彼女はバンガローに住んでいるんだ。」というのを耳にした。
日本でのバンガローのイメージは、キャンプ場にある木の家ではなかろうか。
お恥ずかしながら、聞いた当初はバンガロー=一軒家の認識がなかったので、えらい山奥に住んでいるのかな?なんて訝しんでいた。
しかし、同僚と会話しているとどうやら、彼女はPunggolに住んでいるらしい。Punggolってそんな山ないよな?なんて思いつつ、同僚とは話しているうちに。ようやく”バンガロー=一軒家=シンガポールのお金持ち"の解にようやくたどり着いた。
ちなみに、Punggolのバンガローをざっくり検索してみると、お値段SGD5000K以上、中にはSGD20000K近いものも (日本円で約5億~20億円)。コンドミニアムだと同様の立地でSGD100K以下からあるので、まさに桁違いである。
とはいえ、当の本人は自己肯定感が高くて天真爛漫な印象はあるものの、基本的に明るくて感じの良い女性だったので、特に周りの私を含めた一般人と壁を作ることもなく、職場になじんでくれたのだった。
「趣味に惜しまず、普段は控えめ」が富裕層の真髄?
うちの会社では福利厚生の一環で、定期的に社員向けのイベントが開催される。その年は、部署でボーリング大会が開催された。
部署の同僚の大部分が、シンガポール軍系のレクリエーション施設・SAFRAにあるボーリング場に集まる中、小さなスーツケースのようなものを引きながら、彼女が颯爽と現れた。
それ何が入っているの?と興味津々の同僚たち。
彼女はおもむろにケースを開けると、そこに入っていたのは様々な種類のマイボール (ボーリングの玉)。
もちろん靴やグローブなど、その他の装備も自前だ。
そして、彼女のボーリングの腕前は相当で、フォームも綺麗で思わず見とれるほどだった。
普段着などは普通だが、趣味など、ここぞという所にはお金をかけるのがシンガポールのお金持ちなのかもしれない。
他にも、コロナ渦でどこにも行けない中、同僚同士でよく行ったサイクリング。
シンガポール全体でも自転車の購入者が増え、安価すぎる or 超高価以外の中間価格帯の自転車の売り切れが多発した、今思うと信じられない時代。
同僚たちも、自前の自転車を何とか入手したり、在庫切れで買えなかったと言いながらレンタサイクルを借りて、シンガポール国内を自転車で駆け回っていたのが懐かしい。
あるサイクリングの日、最近購入したマイ自転車と共に颯爽と現れた彼女。
登場した彼女が乗る自転車は、折りたためてものすごく軽く、確か電動アシスト機能も備えた、どう見ても良いものだと一目でわかるもの。
お金好きのシンガポール人らしく、「それいくらで買ったんだ?」と興味津々で聞く同僚たち。
彼女は、「SGD3K-4K(約30万円前後)くらいかなー?」なんて軽く答えて、驚く私たち。
なぜなら、それは若手の給料1か月分に近いからだった。
しかし、その受け答えに全く自慢や嫌味の意が感じられないのも、本当のお金持ちらしい。
一般人の私たちにとっては大金であるが、彼女にとっては「ちょっといい買い物」くらいの感覚なのかもしれない。
富裕層の究極のライフスタイルとは?
たまたま家族の話になった時のこと。
彼女のお兄さんは大学に入り直して航空宇宙関係の勉強をしているらしい。ちなみに父親もまだ60歳にもなっていないようだが、自分で営んでいた不動産関係のビジネスから既にリタイアしているとか。
「家で働いているのは今、私だけだわ~!」
なんてあっけらかんと笑っていた彼女。
シンガポールでは諸外国と同様、社会に出てから再度大学で学び直すことはそんなに珍しいことではないので、大学に入り直すこと自体は驚くことではない。
ただ持ち家があるといえ、この物価高のシンガポールで父がかなり早々にリタイアしてもなお、悠々自適の生活ができるというのは本当にすごいことだ。
もちろん、彼女が一家の生計を担っているわけでは決してない (うちの会社の若手の給料は安いので、家族全員を一人で養うには少々心許ない)。
お金持ちが多いシンガポールには上には上がいくらでもいるとは思うが、彼女の家も相当な資産家なんだろうということは容易に想像できるのであった。
シンガポールでは、ホーカーに現れるTシャツ、短パン、ビーサン姿の老人が、実はとんでもない大富豪だったりすることもあったりするのを聞いたことがある。
当の彼女もご多分に漏れず、普段着はシンガポールらしくスポーティーで至って普通だし、食事も私たちと一緒にホーカーセンターでとる生活で、一般庶民とそう変わらない。それでも、趣味や旅行、家族の集まりなどここぞという場面では惜しみなく使う。
よく金持ちはケチだなんて言われるが、この「メリハリ」もまたお金持ちになる秘訣の一つなのかもしれない。
最後に――お金の使い方で人生を豊かにするヒント。
彼女の生活を振り返ると、富裕層の暮らしとは、派手さを競うものではなく、自分と家族にとって本当に価値のあるものに集中する生き方そのものだと感じる。日常生活は至ってシンプルであっても、趣味や家族との時間を心から楽しむことで、彼らは真の豊かさを手にしているのかもしれない。
まずは精一杯稼ぎ、その得た限りあるリソースを自分の価値観に沿って賢く使い、心から満たされる「自分らしい豊かさ」を築いていきたい――そう強く感じた出来事だった。