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伊坂幸太郎「チルドレン」について
突然だが、伊坂幸太郎の「チルドレン」という小説について話そうと思う。
私の大好きな小説だ。定期的に何度も読み返している。何度読んでも色褪せない。この世界に3冊しか小説を残せないという状況に陥ったら、チルドレンは必ず残す。それくらい好きだ。
チルドレンの魅力はなんといっても主人公が最高なことだ。誤解されたくないが私が使う最高は本当に最高という意味だ。そこら辺の有象無象が使う最高とは重みが違うので軽く捉えないでほしい。
チルドレンの主人公の名前は陣内という。私は陣内さんと勝手に呼んでいる。だからここでも陣内さんと呼ぶ。
陣内さんの魅力を象徴するエピソードがあるのでそれを紹介する。知人にチルドレンの素晴らしさを説く際はいつもこのシーンについて話すことにしている。
それはこんな場面だ。陣内さんには永瀬という盲目の友人がいる。ある日、盲導犬を連れている永瀬に同情したのか道端を通りかかった婦人が5000円を渡す。そこに陣内さんがやってきて事情を聞くと「ふざけんなよ」と声を上げる。
永瀬は陣内さんをなだめようとする。この時点では、永瀬も私も、婦人が永瀬に同情したことに陣内さんが「余計なお世話だこの野郎」と憤慨しているのだと思っている。
しかし、次の陣内さんの言葉でそうでないと分かる。
「何で、お前だけなんだよ」
陣内さんはそう言うのだ。永瀬が自分が盲目だからじゃないかと説明するが、陣内さんは納得しない。俺も欲しいと永瀬にお金を渡した婦人を探し始める。結局見つからないでがっかりして戻ってくるが永瀬はこの陣内さんの一連の行動に救われるのである。
どういうことかというと、陣内さんには婦人が永瀬にお金を渡した理由が分かっていないのである。なぜなら、陣内さんにとって目が見えないことは可哀想ではないからだ。
このシーンのいいところは陣内さん自身が永瀬を救うつもりがないのに救ってしまっているところだ。自分ももらえるんじゃないかと婦人を探しに行って、結局見つからず戻ってきて永瀬が持つ5000円札を羨ましそうにするのが可笑しくてついつい笑ってしまう。