遠野遥の『教育』について
遠野遥の『教育』を読んだ。ここ数ヶ月の間に、『改良』と『破局』を読んだから遠野作品は今回で3作目だ。過去に読んだ2作と比べて、『教育』はページ数も多いので途中で飽きてしまうかもしれないと思ったがそんなことはなかった。すぐに引き込まれてあっという間に読み終えてしまった。想像以上に面白かった。ただ、どういうところが面白かったと言われると説明に困ってしまう。まだ、自分の中でうまく言語化出来ていないのだ。
『教育』の舞台はとある学園だ。生徒は学園内で暮らしており、部屋には監視カメラがついており、大袈裟な表現になってしまうが『1984年』の学校版のような世界観である。学園内は外の社会とは隔絶されている。生徒は4つのクラスに分かれており、教師の権力は暴力や性的なハラスメントをしても黙認される程度には強い。
また、学園は性的に解放された空間である。学園側が1日に3度のオーガズムに達することを推奨しており、生徒にはポルノビデオが支給されているし、学園内でセックスをすることが許されているどころか日常の一部と化している。自分の部屋に戻ると、ルームメイトが誰かと致していることも多々あるくらいだ。
生徒の階級を決めるのは試験であり、赤、青、緑、黄の4色あるボタンから正しいものを押すというものである。正解するのに必要なのは知識よりも第6感であり、読んでいる私からしたら疑問を覚えるものだが、学園の生徒たちはそれを受け入れている。
本作の語り手である佐藤勇人は4つあるクラスのうちの、下から3番目のクラスにいるが、勤勉でやるべきことを怠けずに継続して行うことの出来る人物である。そのため、攻略法がないように思えるテストにも自分なりの突破口を見出だして点数を上げていき、物語の終盤に一つ上のクラスに進級している。『改良』と『破局』の主人公は物語の終盤に暴走していたが、佐藤勇人はそういった衝動を抑えることに成功しており、破滅を迎えないまま小説は終わっている。
この佐藤は作中で4人の女子生徒と関わる。『教育』は佐藤とこの4人の関係性の変化であると私は思うので順にまとめていく。登場人物は主人公が作中で呼んでいる名称で書いていく。
1人目が真夏である。主人公とは同じクラスであり、成績を上げるために定期的に肉体関係のある間柄である。しかし、序盤で所属する演劇部の部長と付き合うことになり、その協力関係は解消される。その後、付き合い始めた演劇部の部長により精神的に追い詰められていく。佐藤は真夏のことを気に掛けて力になりたいとは思うものの、助けられることは出来ない。最終的に真夏は成績を落としてしまい、佐藤が進級したのとは対照的に一番下のクラスに降格してしまい2人は疎遠になってしまう。
2人目が小宮さんである。佐藤が所属する翻訳部の副部長である。彼女は佐藤のクラスより1つ上の階級にいる。翻訳部部長であり特進クラスという1番上のクラスにいる高木とセックスをした後に、いつも佐藤とセックスをする。佐藤とセックスをする前には、彼が翻訳した海外の小説を音読してもらってから行為に及んでいる。物語の終盤で特進クラスに進級し、階級を落としてしまった高木に代わって翻訳部の部長となった。恐らく、小宮さんは佐藤のことを気に入っており、小宮も付き合えるなら小宮さんと付き合いたいと考えていると解釈できるが、2人には不思議と強い絆の結び付きは感じられない。なぜかは良く分からないがそう感じた。
3人目は翻訳部に所属する海である。彼女は学園の1番下の階級にいる。だが、翻訳部の活動に誰よりも力を注いでいる。作中で佐藤が関わった女性の中で唯一肉体関係を結んでいない。しかし、だからこそ小説が終わった後も長く佐藤との交遊関係が続いていくのではないかと感じた。
4人目が未来である。たまたま佐藤が知り合った女子生徒で催眠部に所属している。未来は同性愛者であるが、試験の結果が振るわないため教師から補習を受けたことにより、物語の終盤では男性ともセックスをするようになる。元々は催眠部にいた上級生と恋人関係であったから、自分を同性愛者と思い込んでおり、単に他者への依存が強い性質なだけではないかと個人的には解釈している。
上記の4人の女子生徒と佐藤との関係性に注目することが、『教育』を読む上で重要になってくると思う。なぜなら、本作では性に関することが露骨に強調されており、主題となっていると考えられるからだ。また、学園が自慰行為やセックスを推奨していることから、学園で上の階級にいる生徒ほど性欲や性的な好奇心が強いように描写されている。これは作者なりの皮肉なのかもしれない。
『教育』には真夏が脚本を書いた演劇の内容、佐藤が小宮さんに音読する小説の内容、未来が佐藤にかける催眠の描写に長い尺が使われている。一読しただけでは、それがどう物語とリンクしているのか把握できなかったので、次回以降はそこにも注意して読んでいきたいと思う。