コラム暖流)コロナ禍が外食に大打撃、ワタミは焼き肉に活路

 新型コロナウイルス感染症は外食業界に大打撃を与えている。緊急事態宣言解除後は徐々に持ち直しているが、居酒屋など酒類を主力とする業態は低迷したまま。有力企業でも不採算店の閉鎖を加速し、少しでも集客が見込める業態への転換を急いでいる。
 「居酒屋マーケットは元々縮小しつつあったが、コロナウイルスの影響でさらに小さくなりつつある。回復してはいるものの9月の既存店売上高は50.6%と厳しい状況。アフターコロナでは7割程度の市場に縮小すると予想する」。ワタミの渡邉美樹代表取締役会長兼グループCEOはこう語る。同社は全330店舗のうち「和民」「ミライザカ」などの居酒屋120店について、2022年3月までに「焼肉の和民」に転換すると発表した。
居酒屋業態は外出自粛やリモートワークの定着によって打撃を受けており、日本フードサービス協会の調査では8月になっても売上高は前年同月比57.7%減と大幅に落ち込んでいる。一方で焼き肉店はもともと人気が高く、家族で食事する機会が増えており、14.4%減まで回復した。
そこでワタミは焼き肉に着目し、10月5日に新業態の「焼肉の和民」を東京都内と横浜市内にオープン。店内はニューノーマルに対応し、料理を運ぶ特急レーン、配膳ロボット、タッチパネル&モバイルオーダーなどの非接触接客システムを導入した。また、オリジナルのブランド和牛「和民和牛」を開発し、「和牛バラカルビ」は590円、米国牛を使った「ワタミカルビ」は390円(各税抜き)など、低価格で提供する。
今回の業態転換で居酒屋の和民はなくなる。駅前や住宅街の店舗を中心に改装する。家族連れや帰宅途中の会社員を呼び込み、5年後にはフランチャイズチェーン(FC)展開により400店舗の出店を目指す。渡辺会長は「(和民ブランドがなくなるのは)さびしい気持ちはあるが、変化こそが生き残る道。3年後には居酒屋のワタミではなく『焼肉大手のワタミ』になっているはず」とし、社員の雇用維持のためにも転換に踏み切ったという。
外食業界ではワタミのような有力企業でも生き残りを模索している。グルメ杵屋は「杵屋」や「そじ坊」など直営の80店程度を順次、閉店する。これはFC店を含む全443店の約2割に相当する。新型コロナウイルスの影響で大都市中心部の店舗を中心に売り上げが落ち込んだままで、8月の既存店売上高は前年同月比65%にとどまった。広報担当者は「(閉店するだけでなく)新業態や新しい場所での出店も進めていく」と話している。1964年に東京・神田で創業した洋食店の老舗ブランド「キッチンジロー」も、既存15店舗のうち13店舗を閉店する。
約70店の閉鎖を公表しているロイヤルホールディングスは、「ロイヤルホスト」や「天丼てんや」など、グループ内ブランドのメニューをデリバリーやテイクアウトで利用できる新たな取り組みをスタートした。東京都内にあるグループのコントラクト事業会社の施設を活用して実施する。また、グループの店頭227店で販売している家庭用冷凍食品の「ロイヤルデリ」をオンラインでも販売し、収益機会を増やす考えだ
国内から撤退したり大幅に規模を縮小したりする飲食ブランドも続出している。銀座ルノアールはカナダの「ブレンズコーヒー」本部とのライセンス契約を終了し、青山の日本1号店を喫茶室ルノアールに転換。トランジットジェネラルオフィスが2015年にスタートさせた台湾かき氷の「アイスモンスター」も日本から撤退した。また、2010年に日本に初上陸した米国のスポーツバー「フーターズ」は、赤坂の日本1号店を閉店し、銀座の1店舗のみが残ることになった。
外食業や小売業はコロナ禍の長期化で十分なキャッシュが得られなくなったときのダメージが他産業に比べて早く出やすい。淘汰の波は今後一段と強まりそうで、多くの企業が正念場を迎えている。 

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