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小説|赤いバトン[改訂版]|第4話 赤ミソジーズ(語り:ノリコ)

勤務先の小学校から一度帰宅して、ジャージからブラウス&スカートに着替きがえて、急いで最寄もより駅に向かって特急に乗った。二人に[ごめん、十五分くらい遅れる]とメッセージを送ると、[りょ][りょ]とスタンプが返ってきた。

名駅めいえきにある居酒屋いざかやに到着して入口を開けると、
「おったまげーの、もうぶっとびー!」と聞き慣れた声がした。
店の奥のテーブル席に、声の主リカコとコトノが座っていた。
彼女たちの顔を見ると、声を聞くと、それだけで嬉しくなる。
大学時代からの親友三人。リカコが命名めいめいした[赤ミソジーズ]。
「あんたら、うるさい。店の入口まで聞こえとる」とわたし。
「先生、遅刻ー」とリカコ。
「ごめん、ごめん」と二人にびると、
コトノが「とりあえずすわりゃあ」とカバンをどかして、
隣の席をけてくれた。
「すいませーん! 生中なまちゅう一つ追加ー!」リカコが注文してくれた。

最近の若者の言動について「あーだ、こーだ」盛り上がっていると、
リカコが「そういえば、学生ん時になー」と話題を変えた。
「三人でさー、児童館のボランティアに行った時のことおぼえとる?」
「母の日のボランティア?」とわたし。
「赤いバトンのコウスケくんだっけ?」とコトノ。
わたしは「あんた、ようおぼえとるねー、名前まで」と感心した。
「中日の選手と同じコウスケだったし」とドラゴンズファンのコトノ。
「アメリカ行って、いま阪神やん」とわたしもまあまあ詳しい。
「絶対いつか中日に戻ってくるて」とコトノ。
「ちょ、ちょ、ちょ」とリカコがさえぎった。
「その話は二人であとでしといてー」

リカコが、姉のユカリさんとの電話のやりとりを話してくれた。
余談だけど、リカコからユカリさんの彼氏の苗字みょうじを初めて聞いた時、わたしもコトノも[コアラ&ユーカリ]に爆笑した。

わたしとコトノがおぼえていることも、リカコとほぼ同じだった。コウスケくんのお母さんがサンキュー先生からもらった赤いバトンには、ありがとうの手紙がついていて、番号もついていたこと。もちろん何番だったか、わたしもコトノも今さらまったく記憶にない。

今日の定例み会もそろそろおひらきにしようとなった時、
コトノがカバンから「じゃあ、二人にお土産みやげ ♡」と言って、釜飯かまめしを二つ取り出した。
コトノがわざわざ地元の駅で買ってきてくれたマッタケの釜飯かまめし
わたしもリカコも「やったー! めっちゃ好きなヤツー!」と受け取った。
「もうすぐ駅弁屋さん閉店するんで、貴重やで」とコトノ。
「そうなん?」「マジで?」とリカコとわたし。
「らしいで。てか、賞味期限あるで早めに食べなかんよ」とコトノ。
「帰ったらそく食べる。ありがとー」とリカコ。
わたしは「明日の朝いただく。ありがとう」と言った。
するとコトノから「こっちこそ、ありがとね」と殊勝しゅしょうな言葉。
「どうした? 何が?」とわたし。
「地元の駅弁、気に入ってもらえて嬉しいんやて」とコトノ。
リカコは「めっちゃ絶品ぜっぴんやん。ほこれるご当地グルメやん」と称讃しょうさんし、
つづけて「そうそう。一ついていい?」とコトノにたずねた。
「さくらんぼ一個入っとるやんかー、あれ、なんなん?」
「そうそう。謎のさくらんぼ」とわたしも同調どうちょう
コトノは「あんたら毎回おんなじ質問しとる」と言って、
「アレは、デザートやて」と回答した。
間髪入かんぱついれずわたしが、
「リカコの地元のはんぺんも美味おいしいよね」と言うと、
リカコは「はんぺん、ちゃう」と否定。
「アレは、は・ん・ぺ・い」と訂正ていせいした。
コトノが「うちら、この三文芝居さんもんしばい、たぶん十年やっとる」とあきがお
するとリカコが「だから、赤ミソジーズは?」とコトノに問いかけた。
コトノはクスッと笑って「はいはい。バカミソジーズ」と答えた。
わたしもクスッと笑って「もうええて」と茶番ちゃばんに幕を下ろし、
二人に向かって「さ、帰ろまい」とうながした。

~ 第5話 ペンネーム(語り:ユカリ)に、つづく ~


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