師匠の畑でキジムナーに呼ばれ、ガジュマルに登る
50歳目前にして初めて木登りをした。
私は怖がりで慎重な性格。
ジェットコースターも下でひとり、みんなを待っているタイプだ。
渡嘉敷島に住む師匠と七年ぶりに再会した翌日、私は彼の畑を訪ねた。
送迎してくれたホテルのスタッフさんは「當間さんの畑で何するんすかぁ?」と疑問でいっぱい。
私はただ「ガジュマルを見に行きます」と。
話しはそれ以上、広がらなかった。
ガジュマルをひと目見て「登りたい」と思った。
こんな気持ちになったのは初めて。
もう一度言おう。私は怖がりだ。
これまでは木を見ても「登りたい」と思うことはなかった。
きっと、この木に棲むキジムナー(沖縄に伝わる木の精霊)に呼ばれたに違いない。
師匠に登ってもいいか尋ねるといいよーと呑気な返事。年甲斐もなく、と思っただろうか。
笑顔、というよりもにやりとしていた。
師匠も登ったのか?
足場を確かめながら少しずつ登っていく。
枝と枝の間に蜘蛛の巣と蝉の脱け殻がたくさんあった。
風が通り過ぎ、葉を揺らす。
下を見下ろすと地面が遠い。
達成感と風の気持ちよさに感無量。
大汗かきながらも登ってこれたことがうれしかった。
繁った葉で遠くを見晴らすことはできなかったけど、初めて登った木の上にドキドキした。
しばらく座って木の上を満喫する。
「花や実はあるねぇ?」と師匠が下から声を掛ける。
周りを見渡したが、それらしきものはない。
「蜘蛛の巣とセミの脱け殻しかないです」と答えると、笑っていた。
師匠はこのガジュマルにツリーハウスを作ろうと考えているそうだ。
彼の考えることはいつもおもしろい。