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沖縄では全てをおばーが握っている

NHKのドラマ「ちゅらさん」ですっかり浸透した“おばー”という呼び名。
おばあさん、を意味する言葉だ。

沖縄では当たり前に使われているのかと思うと、意外とそうでもないことに気づく。
友人などは「ばーちゃん」と呼ぶし、子ども達は「ばーたん」「ばーば」と呼んでいる。

子だくさんの沖縄では、若くして孫を授かる方もいる。
40代で孫がいる人は珍しくない。
末っ子と孫が同級生というケースもある。

自分より年下の人が、おばーと呼ばれているのには正直抵抗があるのだが。
まぁ、誰も呼ばせてないのだけども。
親戚のおばさん感覚で、名前を呼ばせていたりする事が多い。
「みどりばーば」ならともかく「みどりちゃん」と呼ばせている。

さて、今日の本題。

沖縄では全てをおばーが握っている

沖縄のおばあさんはすごいよ。
気が若い。そして、気が強い。

90歳過ぎてもコストコのピザを食べたがるし(自分では買いに行かない)、ケンタッキーにコカ・コーラは当たり前。
膝が言うことを聞かなくなって、杖をついていても口と頭はしっかりしている。

そう、おばあさんの発言力。
おばあさんの言うことが全てなので、息子も嫁もみんな伺いを立てにいく。

親戚で行うバーベキューは肉を何kg注文したらいいのか。
年に数回、盛大に行われる墓参りの進め方はこれでいいのか。
よろづや相談窓口だ。

とかく先祖供養事になると、おばあさんの発言は大活躍。

そんな、おばあさんの口癖

そんなやり方じゃ通らないよ


これこれ。この一言が嫁を子を孫を振り回す。

何が通らないのか?

先祖供養がご先祖様に届かないという意味合いで使われる。
心を込めて供養をしても、やり方が違っているとご先祖様は供養してもらってるとわからず、大切にされていないと怒り出すらしい。

そりゃあ、かわいい祖先にほったらかしにされると、へそを曲げたくもなるよね。

これがいわゆる「通らない」現象。

𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠

ある日の出来事。
友人と那覇のバーで飲んでいて、話が途切れて何となくお互いぼんやりしている時、隣に座っていた女性が声をかけてきた。

「もしかして最近お引越しされましたか?」

友人はびっくりしながらも「はい……」と怪訝に返事をする。
大都市那覇とはいえ、どこで知人につながるか分からないのが沖縄。友人もきっとその類だと思ったようだ。

その女性は
「変なことを言うようですけど、あなたのご先祖にあたる方が困っているようです。」
と続けた。

怪しい。実に怪しい。
先祖死んでる、見えるわけない。

しかし、女性は自分が奇異な目で見られることに臆せず、しっかりとした眼差しで伝え続ける。

「帰る所がなくなったと、とても困っていらっしゃいます。」

その言葉に対し友人は
「引っ越しする時に仏壇も持って行きました。
知り合いに少し霊感のある人がいたので、その人からご先祖様に報告もしました。
それでも不十分だと言うのですか?」と。

正直、友人は困惑している様子。

いきなり知らない人にこんな事を指摘されてもね。

私は友人が引っ越しする時に、そんな事をしていたのかと静かに驚いていた。

さてここで、沖縄おばあさんの登場。

井戸やお墓、台所にある火の神様(沖縄では火の神ーヒヌカンー)を移動する時は、ご先祖様にちんと報告する必要がある。

ご先祖様に伝えるのには、正しい伝え方があって、その手順を守らないとちゃんと通じない。

バーにおばあさんがいたわけではなく、おばあさん子だった別のお客さんが教えてくれたこと。

そのお客さんが助け舟を出してくれたことで、女性も少し安心した様子。

友人は心当たりがあったようで「もう一度頼み直してみます。」と言ってその場は収まった。
※後日友人は親の伝手を頼り、他の人に仏壇を移動させたことをご先祖様に報告してもらったという

私はこの出来事をきっかけに、何度も「通らないよ」を耳にすることになる。

沖縄では仏壇行事など、先祖供養のしきたりが多く、特に違う文化圏である本州から来たお嫁さんは非常に苦労をする。
また地域によって、そのしきたりも微妙に異なるため、頭を抱える問題なのだ。

私には沖縄生まれ&沖縄育ちの友人が多いのだが、飲み会をすると最終的には私そっちのけで、仏壇行事の悩み共有会になっている。

とにかくことにつけて、沖縄のおばあさんは「それじゃあ通らない」というらしい。
みんな、この口マネがうまい。いかに何度も言われているか、耳にしているかが想像できる。

一通り話し終えてスッキリした後、私の方を向いて「沖縄の嫁にならなくてよかったね」と勝ち誇ったように言う。

「そうだね」とヘラヘラしながらも、みんなの話す 仏壇行事の悩み共有会は沖縄の縮図を見ているようでとても興味深く、どの大学の講義よりもおもしろい。

沖縄では数々の仏壇行事のやり方について書き記された書籍が発行されており、未だにベストセラーだ。

それだけ重要で、難しいということだ。
沖縄で、絶対的な存在感を放つおばあさん。

𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠𓃠
数あるおばあさん話を聞いて一番悔しい思いをするのが、「おいしい沖縄そば屋はどこか」談義になった時だ。

みんな思い思いにお気に入りの店を言う。
でも最終的には「死んだばーちゃんが作ったそばが一番うまかった」と締めくくる。
100%と言って過言でないほど、絶対に誰かがそのセリフを発するのだ。

どんなにお金を出してもありつくことのできない幻の味「死んだばあちゃんの作った沖縄そば」。

沖縄で生まれ育てなかった私は食べることができず、とても悔しい。

沖縄先祖供養行事本のご紹介




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