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忘れられてたけど、会ってきたよ

渡嘉敷島に住む師匠

この夏、渡嘉敷島に住む師匠と7年振りに会ってきた。
師匠と言っても、知り合いの知り合いなだけで、何かを教わった間柄ではない。
会ったのもたったの2回。

だけども、自分が育てた自慢の豚肉を居酒屋に持ち込んで食べさせてくれたり、民宿で夕飯を食べている私の隣りにいきなりドカッと座って飲み始めたり。予想のつかないキャラクターにすっかりハマってしまった。

ただのワガママな人ではない。

長年農業に根気強く取り組んでいて、渡嘉敷島で養豚を根づかせようとしたり、きくらげの栽培に成功したり、今も新しい事を考えてはチャレンジし続けている。
御年85歳。なかなか誰もができることではない。

人生の師匠だ。

7年振りに電話をすると、案の定私のことを忘れていたが、ふたつ返事で会うことを承諾し「楽しみが増えた」とよろこんでくれた。

二転三転する待ち合わせ場所

島に行く1週間前、師匠に電話した。
宿泊するホテルの食堂が夜は居酒屋になるので、そこで会わないかと話すと「もっとうまい店があるから予約しておくよ」と返事。

ところが、当日ホテルでチェックインすると「當間(仮名)さんから今夜、お食事のご予約頂いてますよ」と告げられた。

違う店にするんじゃ………と戸惑ったが、会えればいいので了承する。

宿泊客で賑わう食堂で師匠を待つ。
やがてこんがり日焼けした顔でやって来て「あんただったね」とニコニコして言った。
顔を見たら思い出してくれたようだ。

座るなり退席

師匠は目の前に座ると同時に「俺はさ、特定の酒しか飲めないから。ちょっと買ってくるね」と言って立ち上がった。

再びひとり、師匠を待つ。

期待以上におもしろい登場と退席に心の中で爆笑。
師匠、健在だ。

注文を聞きに来たホテルの人も「あらっ!?いま當間さん来てませんでした?」と。

「俺の酒を買いに行きました」と答えると、笑って納得。師匠のキャラクターは、かなり知れ渡っているようだ。

師匠が買ってきた特定の酒とは、見慣れたストロング缶500ml2本とコーラ。
氷が目一杯入ったジョッキにストロング缶とコーラを注ぐ。そして、溢れさす。

これが當間さん特定の酒。

ようやく乾杯。

食事は當間さんが予約してくれていた海の幸づくしだった。
写真左手前、カツオの卵。
初めて食べた。魚卵好きにはたまらない珍味。
プチプチとしておいしい。

「こんなのが食べられるなんて、あなたはラッキーだねぇ」と師匠が言う。
確かに。カツオはいつも売られているが、卵を見たことがない。これは希少料理だ。

器が沖縄らしくてとてもいい
渡嘉敷島で獲れた魚の煮付け

私は煮魚が大好きなので、結構夢中で食べてしまった。

以前、他の店で煮魚を食べた時、あまりにきれいに身を取って食べるものだからお店の方に「猫も気づかずに通り過ぎちゃいますね」とよろこばれた。
猫もまたいで通る、という言葉にかけた洒落だ。
確かに猫も食べる所がなくてガッカリするくらい、徹底的に身を取って食べたからなぁ。

今回も煮魚のおいしさに夢中になっていると、師匠が私をうれしそうに眺めていた。
途端に気恥ずかしくなったが「魚が好きってことはいいことだよ」とほめられ、再び煮魚に集中する。

話しの途中で「ところで、あんたはいつ彼氏をつれてくるの?」と聞かれた。
お、来たな!死語になりつつあるこの質問。

不思議なもので、この類の質問をされてゲーッと思う人と、そうでない人がいる。

何だろうな……、そう説教しない人。
説教しない人には踏み込んだ質問をされても平気だ。

私は正直に「私は彼氏連れてこないよ。来年も、ずっと」と答える。

師匠は一瞬黙った後「いいさ、あんたひとりでもまた島に来たら」と呟くように言った。

小説に出てきそうなシーンだな、と思いつつ師匠の言葉にジーンとなる。
色んな考えが巡った後にかけてくれた言葉とわかるからだ。

師匠とは翌日、畑のガジュマルを見に行く約束をして別れた。

何がどう楽しかったのか、うまく言えないけどニヤケが止まらないくらい楽しかった。





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