2022年マイベスト~邦画編~
去年は年末に書いていなくて"まぁいっか"と思い1月末くらいに書いていたけれど、年が明けた2023年に昨年のオススメを教えてと聞かれはじめたので今年もこの時期に書こうと思った所存。
邦画10本、次回は洋画10本の選出。
いつも通りランキング式ではなく、あくまでオススメと個人的な備忘録としてみてもらえたら。
もちろんネタバレはないです。
劇場鑑賞が41本、配信・レンタルで83本(シリーズ含む)、計124本だった。
数年前の200本超に比べたら元の生活に戻ってきたのかと思う。
それが良いのか悪いのかはさて置いて、他に時間を割くところが出てきたようだ。
映画を物差しにライフサイクルの指標にもなるのだね。
もうちょっと劇場に足を運びたかったなぁ。
2022年も作品に偏りなく観ていたような気がするけれど、作品の振り返りをするとNetflixを中心にしてダークなものが多くなってしまった。
春先の良作ラッシュには辛抱堪らず、週末には劇場ハシゴをかなりの頻度でしていたものです。
それでは、邦画10作品です(※敬称略)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
1.THE FIRST SLAM DUNK
劇場公開情報がリリースされてからの賛否の嵐に驚いた。
ジャンプ連載時にちょこちょこ読んではいたものの、あとからガッツリ一気読みで人生のバイブルになった漫画。
金字塔にしている人が世界中に多いわけで、自分もそんなひとり。
何周読んだか分からない。
31巻を何度涙で濡らしたことか・・・!
アニメは観ていないので、声優や曲について云々の件は今ひとつピンと来てなかったけれど、その後は賛否の否はどこに行ったんだろう??
山王戦を描いた本作は、漫画で描かれていない宮城リョータの深堀りストーリーと絡めて124分。
よくあるあの頃のリメイク版ではなく、バガボンドとリアルを経ての井上雄彦作品そのもので、あのオープニングでThe Birthday"Love Rockets"イントロに震えて泣いた。
井上雄彦が動いてる!しかもCG!
終始、語彙力もないくらいもちろん声は出せないけれど深い呼吸がダダ漏れしていた。
10-feetと井上雄彦のタッグで劇中曲からエンディングでの”第ゼロ感”を生み出して、もうそんな側面の話までもが堪らなかった。
劇場では試合をみんなで応援しているようなそんな感覚に落ちる。字の如く応援上映そのもの。
余談、正月ファーストデイで義理の弟と甥っ子2人ともう一回観に行って、泣いたのを見られて甥っ子にバカにされたのです。
2.ちょっと思い出しただけ
クリープハイプの“ナイトオンザプラネット”を着想に作られた作品。
ジム・ジャームッシュのオムニバス作品が出てくるあの曲。
加えて映画にはパターソンのオマージュがてんこ盛り。
普段恋愛ムービーに心を動かされることはないけれど、2021年に「僕たちはみんな大人になれなかった」を観て以来は恋愛絡みでも食指が伸びるようになった。
そもそも伊藤沙莉が大好きなのでマスト的に観たわけだけれど、終わった時のあの気持ちは未だに言葉での表現がし辛い。
2人が別れた彼の誕生日から1年毎に6年前の出会いまで遡っていく物語で、誰しもが経験するようなあの苦い感じ、けれども嫌なものではなく何とも言えないノスタルジーな気持ちになる。
想像通り別れ間際の雰囲気が悪い方から出会う頃の胸がときめくところへ時間を持っていく流れ。
思い出って多少なりとも美化されるものだろうけれど、そのくらいが丁度良いものなんでしょうか。
池松壮亮はもちろんだけれど、加えてニューヨークの屋敷さんがめちゃくちゃ良い。とにかく良い。
とりあえず観てってくらい好きな作品に出会えた。
5年後くらいにもう1回観たいな。
ちなみにナイトオンザプラネットはSpotifyの2022年マイランキングに出るくらい何度も聴いた。
3.死刑に至る病
「弟切草」という超が付くほど有名なサウンドノベルゲームの作家、我孫子武丸著書に「殺戮にいたる病」というサスペンス小説の名作がある。
子供の頃にゲームからそれを知って一気に読んで大衝撃を受けた。
大人になってもアレを超える“どんでん返し”ものは出てこない。
名前が似ているので刷り込みの恐怖イメージから、阿部サダヲ主演ってこともあって期待大だったけれど、本当に恐怖を覚えた作品。
死刑判決を受けた連続殺人犯から「立件された9件の殺人中、1件の冤罪があるのでそれを証明してほしい」という手紙が主人公の元に届くところから物語が展開していく。
キャラクターの生い立ちがメインになるのでカットバック式で周りとの群像劇に近しいものがある。
のっけからグロテスク表現や人の2面性に耐えられないという声もちらほらみたけれど、まぁそうだよねという胸糞系好きにとっては最強の出来栄え。
サイコパス・シリアスキラーが主人公の作品は世の中にごまんとあるけれど、阿部サダヲの目だけで"ヤバさ"を醸し出す演技力たるや。
白石和彌監督の暴力と隣り合わせの狂気がモロに露呈していて2022年で1番怖かった。
キェルケゴール著書で同タイトルの「死に至る病」とは別ものだけど、”絶望”という意味ではそんな側面を持っているかも知れない。
一番怖いのは、人。
4.MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない
タイムループ作品は大好物で数々のモノを観てきた。
大概はSF要素のサスペンスに纏まるけれども、仕事とタイムループって!
小さな広告代理店のオフィスでチーム一丸となってそこから抜け出そう、というそれだけに収まらない展開。
この手の作品はパターン化されているロジックをどう崩すのかが見どころだったりするけれど、いい具合にそれを持っていく。
世の中の大半の人が経験する会社勤めあるある小ネタがふんだんに使われていて共感して笑ってしまう。
円井わんをはじめ、個性的なキャラクターが目立っていて面白い。
そんな中でも上司のマキタスポーツさんがもうどんぴしゃりな役どころで最高に良い。
大抵は自分のやりたかった夢や目的の為にそこで働いている訳ではなくて、妥協や何かを諦めて働いている。
会社勤めをすることでその埋め合わせだったり、忘却の類いであったり、はたまた奮起する様子は人それぞれ。
そんなところもサラリーマンを昇華してくれる夢ある作品。
それなのに随所で笑い声が起きる。
狐が出てくるシーンがあるけれど、あのセリフは自分に向けて言われている気がしたのは自分だけじゃないはず。
とりあえず、ハトです。
5.メタモルフォーゼの縁側
ひょんな事からボーイズラブの漫画を通じて女子高校生とおばあちゃんが友達になって・・・というストーリー。
こっそりBLを楽しむ高校生のオタク芦田愛菜(うらら)と旦那さんを亡くした宮本信子(雪)の掛け合いが最高。
本来なら交じり合うことのない関係が趣味を通じて、且つ年齢を超えた友人関係が築けるっていいよね。
コミケに漫画を描いて出店したいという手の届きそうな夢なのも良い。
出てくるキャラクターに悪者が一切いなくて誰からのも否定もない、優しい世界ってこのことかと。
そんなところも素晴らしいんです。
将来に不安を抱える十代の夢追いと真逆の余生をという物語でもあるけれど、その二極だけに収まらない感動がある。
それにしても背中の丸め方や歩き方ひとつでオタク特有の陰キャ具合が伝わってくる芦田愛菜の演技力はこんなに凄いと改めて思った。
これはきっと自分だけなのだろうけれども、「あぁ、この人伊丹監督作品に出てたんだよなぁ」と未だにそんな残り香が自分に纏わりついてしまっている宮本信子。
あの頃、子供ながらに深いところに焼き付いて今でも離れない。
どうあってもやっぱり大女優で、普通のおばあちゃん役もハマリ役。
一言や仕草がかわいくて優しかったりする。
エンディングテーマはT字路‘s"これさえあれば"をうららと雪の2人でデュエットカバー。
劇場出た後でもしばらくあったかい気持ちになっていた。
漫画の原作モノで言うと永野芽衣主演の「ブロークンマリコ」や「女子高生に殺されたい」が良かったけれど、誰にでも観て欲しいのはこっちかなと思って選出。
次はもうひとつ、漫画原作のおススメ。
6.前科者
アマゾンプライムでドラマを一気見したあとに劇場へ直行。
予告でもうすでに傑作の匂い。
主演の有村架純が年末の報知映画賞で主演女優賞を受賞していた。
前科者の社会復帰に向けてサポートしていく保護司のストーリー。
設定自体は漫画なので多少無理がある部分はあるけれど、それでも各ケースを紡ぐ事でリアルな問題や実情を描いているのでひしひしと伝わってくるものがある。
実際ボランティアだということは知らなかったし、鑑賞後に何冊かの関連書を読んでみた。
森田剛の役どころもめちゃくちゃいい。
数々で犯罪者役が多いけれど、あそこまでやれるのは蜷川組の賜物だと思う。
素晴らしすぎる。
余談だけれど、バットボーイズ佐田さんが保護司にならないかというオファーを受けてなるのかどうするのかというドキュメントがYouTubeにある。
結果は・・・観て下さい。
7.流浪の月
凪良ゆう原作を読んでいたので映画化を楽しみにしていた。文章だから出来るどんでん返しを映像でどう表現するのかが一番の気がかりどころ。
その手の作品ではガッカリすることが昔から多々あったのでハードルを低く構えてしまっていたけれど、全く気にならなかった。
幼少期に誘拐された広瀬すずと犯人の松坂桃李が大人になって再会するヒューマンサスペンス。
世間で叩く表面的な事由と2人の間でしかわからない真実と。
家族でも恋人でもない愛の形にはなるほどなぁと考えさせられるストーリー。
やっぱりBL作家だから書けるものなんですかね。
豪華な顔ぶれで演出も素晴らしかった。
内容はしんどいけれども考えさせられるものがある。
なにかと多様性を求める時代だけれども、そもそも差別化する物差しがあるから生まれた言葉であって、どうも昔からそれが好きになれない。
このケースは特殊だけれど、昨今のニュースや話題に出る表面的なコメントを見ていても合点が行かない事が多い。
真実が知りたいとかではなく、何が当たり前で間違いかは分からないが、出来るだけ理解したいと常々思う。
8.さかなのこ
言わずもがな皆さんご存知、さかなクンの生い立ち話。
波風が立たない穏やかな作風なので好みは分かれるかも知れない。
エッセイから脚本を作り上げたらしいのでそりゃそうかと。
のん主演でどういう事とは思ったものの違和感もなく楽しめてなんともハートフルな作品。
どうやら監督が作品に対してジェンダーレスを感じての起用だったらしい。
何かを好きでいつ続けるって才能のひとつじゃないのかな。
前出の多様性ってまさにそれで、何らかの可能性を潰さないという。
楽曲は勝手にサカナクションなのかと思っていたけれどCHAIだった。
それはそれでもちろん良かったんだけれども、やっぱりネタ的にもサカナクションが良かったな。
日本アカデミー賞にいくつも入っているのは納得。
例の件以来、のんは本当に応援してるしそもそもあまちゃんから好きなので素直に嬉しい。
YouTubeの「のんやろが」チャンネルもオススメです。
9.犬王
能楽で世阿弥と人気だったとされる出生不明の犬王を中心に描かれるロックミュージカルアニメーション。
原画が松本大洋という事もあってそれは観なくてはならないという義務感。
声優で犬王役に女王蜂のアブちゃんが参加ともあって話題にもなっていた。
室町時代の権威と大衆文化の戦いだったりする。
個人的な好みでミュージカルが苦手だ。
歌が入った瞬間に上がりきったボルテージも興ざめして無になってしまう。
なぜ会話の途中やひとしきりでわざわざ歌うんだと未だに解せない。
サウンドオブミュージックや古典ミュージカルでさえあまり好みではない。
インド映画が苦手なのもそういうことろなんだけれど(なんやかんやそれでも観ている)、この作品長編のMVを観ているような感覚に落ちるので気にならないし最早それとして魅入ってしまってた。
脚本が野木亜紀子、音楽が大友良英。
とんでもないな。
時代背景や能楽近辺の話が好きだからというのもあるだろうけれど、室町時代のロックフェスを体感するような。
映画館で音を観る、そんな感覚。
爆音上映会で観てみたかったな。
映画とは離れるけれども、犬王をテーマに夢枕獏や京極夏彦にも書いて欲しいと思った。
余談では、ハマった友人が山形で遅れて上映するからみんなで行こう!と言い出して誘われた。当日駅で待ち合わせをしたのに彼は大寝坊をぶちかまして、その日現れなかったのは今となっては良い思い出。結局その日は彼のいない状況で麻雀。勝ったか負けたかは記憶にございません。
10.ハケンアニメ
ハケンっていうから「派遣」のことかと思ったら「覇権」の方だった。
1クールで視聴率の取れたアニメが取れる権利の事を指す。
アニメ業界の内部事情や製作現場を舞台にした作品。
製作会社同士の視聴率争いと新人作家吉岡里帆とカリスマ天才作家中村倫也の捻りだすアイディアと現場サイドの奮闘。
お互いの正義をぶつけ合う白熱ドラマだった。
モノ作り映画と何かで読んだけれど、正にその通りで何かをクリエイティブする人や好きな人にはたまらない良作。
子供の頃からアニメを観る習慣がないけれど、たまに話題になったものくらいは観る。
昨年はオッドタクシーも劇場まで行ったくらい。ハケンアニメから俄然興味が出てきていよいよ流行りのチェンソーマン、ぼっちロックも観るようになった。製作会社のMAPPAもそんな闘いで生き残ってるのかなと勝手な想像をしつつ、ジャンププラスで原作のチェンソーマンを一気読みしたけれど、単行本の大人買いをしようか迷っている。
アニメ業界って面白い。
邦画編 あとがき
オススメには挙げていない個人的嗜好の作品やガッカリ作品もたくさんある。
珍しくシリアスな役どころの佐藤二郎主演「さがす」を筆頭に良作がたくさんあったわけだけれども、超バイオレンスムービーの「激怒」、亡くなった旦那が知らない別人だった「ある男」、戸田恵梨香が初の母親役をした溺愛娘の「母性」、長崎が舞台の青春ムービー「SABAKAN」などなど。
結局見逃してしまった「四畳半タイムマシンブルース」は今年観ることにする。
古川琴音が好みの作品に出るので(メタモルフォーゼのコメダ先生と岸部露伴は動かないのイブ役が好きだった)気になってしまっている。
主演になった仙台ロケをしたオムニバスの「偶然と想像」も楽しみだったけれど見逃してまだ観れてないし、まだまだお楽しみは続く。
ガッカリ作品は・・・やめておきます。
次回は洋画で10本。