『うろんな客』

柔タクはタクシードライバー歴17年で、法人歴13年、個タク歴4年になります。

1年でだいたい4000人乗せるとして、今までのタクシー歴で合計約68000人ほどのお客様をお乗せしたことになります。

ドライブレコーダーのおかげでかなり減ったとはいえ、どうしたって
『うろんな客(アメリカの鬱絵本作家エドワード・ゴーリーの同名絵本から拝借)』
はいます。
そんな客は1年で4000人乗せたとしても5人ぐらいなので誤差の範囲だと思いますけどね。
個人的には歌舞伎町と池袋西口に近づかなければ大丈夫かな、とは思います。

最近では、わざとこちらが失言をするよう誘導してそれをスマホのボイスレコーダーで録音してYouTubeやTwitterにアップする奴とかいますし、人懐っこく話しかけてくるようなお客さんでも油断はできません。
ほんの軽口が大変なクレームになったケースは多々ありますし、私はお客さんとは最低限の会話しかしません。
よっぽどお客様が会話したいようならもちろんお話してさせて頂きますけど、それでも悪口や批判に聞こえる言葉などは使わないよう、最大限気を使っています。

先日、銀座で乗せた客(あえてお客様ではなく客と呼ばせて頂きます)は一目見て
『ああ、輩(やから)だな』
と直感しました。
年齢は50代ぐらい、ナイロンジャンパーを着ていて、勤め人には見えない。

この年齢で勤め人に見えないということは何らかの自営業・フリーランスである可能性が高く、それが『ヤ』のつく自営業である可能性も否定できません。

行き先を告げられ、走っていると・・・、この客、まぁ話しかけてくる。

『ここはねぇ、右に行くと○○があるんだよ』
『知ってる?あっちは昔海だったんだよ』

など、そのどれもが他愛のない話・・・と見せかけて、何らかの含みがあるというか、コイツ腹積もりが違うな、ということを最初から直感していました。
もうこれは、68000人乗せてるタクシードライバーの勘です。
明らかに態度が『普通のお客様』ではないですもん。
なので、

『あー、はい・・』
『そうなんですかー』
『あー、どうでしょうねー』

と相づちだけ打って、自分の意見を極力言わないようにしていました。

そして20分ほどで目的地に到着しました。
その場所は車1台しか通れない狭い道(←これ、伏線です)。

普通にお会計を済ませました。
すると、このオッサン、ずっと揚げ足を取らせない私に業を煮やしたのでしょう、急にさっきまでの
『愛想良く話しかける客』
の顔を豹変させて、
『なんだお前!?さっきから生返事ばかりしやがって!どういうつもりだ?!』
と声を荒げました。

普通のお客様は、タクシードライバーが生返事してたとしてもこんなこと言いません。
ただ『口ベタな運転手なのかな』と思うだけです。
ああ、やっぱり。
と、自分の直感の正しさを再認識しました。
恐らく、さっきまでの車内の会話も失言してたら強請るため、スマホのボイスレコーダーで録音してたのでしょう。

『俺はこんな不愉快なタクシーに初めて乗ったぞ!』

と怒鳴りながら、これ見よがしに乗務員証をスマホカメラで撮影したり、エコーカードを抜き取ったりしつつ、

『会社にクレーム入れてやるからな!それともタクシーセンターのほうがいいか?』
と言うので、
『はい、どうぞ』
と答えました。
あまりにアッサリ言う私に面食らったのか、

『・・・・・。この車、個人じゃないんだろ?』
『いえ、個人ですよ。クレーム出すんですよね?どうぞ』

と返事してあげました。
私の年齢が若めなので(あくまでタクシー業界では、ですが)まさか個人タクシーだとは思わなかったようです。
そしてこのオッサン、何やかや言いながらいつまでも車を降りない。

そして5分ほど経った時、後ろから来た車にクラクションを鳴らされました。
するとオッサン、ドヤ顔で言います。

『ほら、後ろから車が来たぞ?どうすんだ?』

いや、どうするも何も、あんたが降りればいいんだよ!
支払いは済んでるんだし!
ああ、なるほど。
私はその時、この車1台しか通れない狭い道にタクシーを停車させるのもオッサンの作戦の1つだったのだと気づきました。
後ろで渋滞を起こし、クラクションを鳴らされたり、『早く行けよ!』と責められることで運転手にパニックを起こさせるのが真の狙い。
そして、困った運転手が
『お金返しますから降りてくださいよぉ』
とか言うのを待ってる。
もちろん、そんなことは言いません。

『クレーム出すなら出していただいて大丈夫なんで、降りてもらっていいですか。後ろに迷惑ですし』

そう言ってるのに、
『クレーム出すぞ!出してもいいのか?!』
と言いながら降りないで粘る粘る。
オッサンもクレームなんか出しても1円にもならないのがわかってるので、今お金が欲しいんですよね。

やっと降りたのは更に5分後でした。
それから数日経っても、もちろんクレームなんか来ていません。
日常のことなのでオチは無いです。

こっちもプロなんだよ!ナメんな。

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