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若い男が
タバコを吸いながら歩いていると
警官に見つかって注意された
いま消せば見逃すと言われて
どうなっても知りませんよ
などと飄々と応えた
警官がいいから消せと言うと
男は面倒そうに
タバコを掌に押し当てた
火は消えずに
まるごと飲み込まれて
跡形もなく消えてしまった
一方で警官は耐えていた
男のイリュージョンに真っ当に驚く暇も与えられず
自分の身体が引っ張られていることに
鍛えた足腰をフルに使って抵抗していた
それでも
警官の鼻は明らかに伸びてしまっていて
それが男の掌にくっつく前に
ぼくは立ち去った

#掌の問題

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