シェア
ずっと前に壊れた時計の 秒針が動かないことにも慣れた ふとした時に少しだけ動くことがあるけ…
バスが止まって前の席の男が降りた 乗ってきた客がそこに座る よく見てなかったけれど いま降…
六十歳の誕生日に 孫からプレゼントをもらった 孫はまだ小さかったから プレゼントは手作りの…
社長が若い女だからというので 工場に取材が入ることがあった ぼくたちは何をつくっているのか…
公園を歩いていると 一枚の紙が目の前を横切った その後を男の子が追いかけていく 紙は彼の指…
三叉路の根元に立って その先の景色を考えている たぶんこの辺で育ったはずなのに うまく思い…
眠っている幼児を観察しながら その輪郭に倣って正確に筆を動かす キャンバスも画用紙もない空中に 筆先から女の背中が現れる まだ顔も思い出もないけれど そこに描かれるのは 妻なんだろうと思う #卵の問題
手首から滴る血液で地図を描く その上を歩きながら 病院まで 地図を継ぎ足していく 血がいつま…
駅の構内が バルーンでいっぱいだ 水星から帰ってきた人たちは みんなそういう姿をしているん…
昼休み 時間の影に隠れて ガラスの花束を燃やす 壊れたら元に戻らないのに 確かめるように壊し…
ねじと砂糖と火 それと細々としたものを並べて カメラを構えている人がいる 興味を惹かれて見…
街灯の光がどろっと落ちた 飛び散った光はねずみになって 何処かに駆け出していった 向こうで…
午前五時 失くした夜空を探しにいく まだ肌寒い静けさの中を ねこが半透明になって歩いている …
横断歩道を渡る 信号の色が外に漏れて 空気の粒子のひとつひとつが赤く染まっていた いつの間にか信号は暗くなっていて その中にいたはずの男が いま目の前に立っている おまえはもうどこにもいけない と言って 元居た場所に戻っていく