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NETDUETTOでオンラインセッションした感想、SYNCROOMに求めること

コロナやばい。外出自粛が求められる中、複数人が一同に会するようなジャムセッションは当然中止。ZOOM飲みみたいにオンラインでセッションできれば……! そんな風に思ってませんか。NETDUETTOってサービスがあるよ(β2版)。ということでやってみました。気付いたこと等をまとめていきます。
このnoteのターゲット:セッションしたい人、音楽好きな人、自宅待機で暇な人

NETDUETTOとは

NETDUETTOは、「ネット上でのリアルタイムセッション」を目的として、YAMAHAが実験的に作っていたアプリ。2015年よりβ版の公開がスタートしている。ぼく個人も名前だけは数年前から知っていたが、実際に使ったのは今回が初めて。なお、正確なサービス名は「NETDUETTO β2」であるが、本記事ではNETDUETTOと表記させていただく。

そして2020春にはSYNCROOMという名前で正式サービスインするらしい。やったぜ。

なぜオンラインセッションは技術的に難しいのか

一言でいえば遅延の問題に尽きる。ネットを介した通信はどうしても時間がかかってしまうので、会話上の支障はなくとも楽器同士を合わせる上では使い物にならないのだ。

音は30ms(=0.03秒)でおよそ10メートル進む。セッションをするうえで30msの遅延があるということは、10メートル先の相手とセッションをするのと同じことである。60msになれば20メートル先の相手である。どんどんセッションが難しくなるのが体感的にわかってもらえると思う。

音の遅延は音楽を行う上で致命的だ。複数の演奏者がステージ上に広く散らばる場合、音速による遅延が発生する。オーケストラではこれに対応するために、例えば楽器配置は聴覚上の音の遅延を加味して楽器配置が考えられているし、指揮者は視覚情報として打楽器奏者にテンポを伝えている。大規模ライブ会場では、ステージの複数個所に置いたスピーカーから適切なタイミングで音を出すことで遅延を克服している。

しかし、オンラインセッションではこれらの対応策は行えない。つまり、都合よく遅延をなくすことはできず、視覚情報は一切無い(NETDUETTOではカメラ共有は行えない)。

NETDUETTOでは遅延をできるだけ少なくするための技術が導入されており、これにより最適な状態では30ms以下でセッションが可能だ。一方で"最適な"状態にするためにはやはりユーザー側にも環境構築のための努力が必要で、これが新規参入を阻んでいる側面もあるだろう。

実用上の技術的問題

NETDUETTOを快適に使うためには、音を出せる自宅環境オーディオインターフェース(とマイク)、良好なスピードの有線ネット環境が必要だ。これらをすべて揃えなくともNETDUETTOを使うことはできるが、ジャムセッションを行うのであればすべて必須となる。

音を出せる自宅環境について。電子ピアノ奏者やギター奏者の大体はこの部分をクリアできるだろうが、例えばドラムや管楽器奏者などで、近所迷惑になるから楽器を鳴らせない、という方々は少なくないはずだ。電ドラやEWIであれば代替可能だが、オンラインセッションの為にこれら(決して安くはない)の環境を揃えようと思う人間はそう多くはないだろう。

オーディオインターフェース(とマイク)について。マイクは生ドラムや管楽器といった生楽器の時のみ必要。いずれも宅録やDTM(作曲)を行う人間であれば当たり前のように持っているデバイスであるが、ただバンドで演奏してきました、といったような人々は持っていないデバイスだろう。

最後に有線ネット環境について。一番厄介なのがこの部分である。というのも上記二つは金をかければ(比較的短時間で)解消可能なのに対し、ネット環境については割とどうしようもない部分があるからだ。なお具体的にどの程度の帯域が必要かを調べようとしたが、公式のページにはどこにも記載がなかった。個々に環境はバラバラなところもあるので、ここに関しては「やってみるまで分からない」ということかもしれない。

総じて一般的な音楽をやる人々にとってはやや馴染みの薄いものであり、NETDUETTOのユーザー流入には障壁が残っていると言えよう。

"オフライン"セッションとの違い

今回は、普段セッションをしている友人たちとNETDUETTOでクローズドセッションを行った。実際に感じたのは、非対面コミュニケーションの不自由さだ。

前述のとおりNETDUETTOにはビデオ通話機能はない。古き良きIRCを思い起こされるテキストチャット欄を用いて、テキストベースの会話のみが行える。次にやる曲であったり、セッションの感想はここでしか行えない。また、演奏中は当然チャットをしている暇などないので、文字通り音だけでコミュニケーションを行うことになるのだが、これが中々に寂しい。メンバーがイケイケなフレーズを出したときに声を出したり、別の曲のモチーフを引用してニヤリと目配せしたり、といったことができない。他人のソロ中も、自分のソロ中も、普段より「アンサンブル感」が薄れてしまっていると感じた。

また、対面セッションでは行える目配せ(キュー出し)が行えないので、必然的に演奏テクニックでキューを出すことになる。ある程度の技量を積んだメンバーであればこれは容易に行えるが、セッション初心者にとってはあまり優しくない環境だろう。

また具体的な感想となるが、カウントイン(曲を始める前に指を鳴らしてテンポを示し、一斉に演奏を始めること)や、ターンバック(曲が終わる際に同じコードを何回も繰り返し、合図で曲を終わらせること)は非常にやりにくかった。セッションは対面であることを前提としたコミュニケーションなので、それをそのままオンラインに持っていくだけでは不十分ということなのだろう。

SYNCROOM(正式サービス)に期待すること

さて、冒頭でも触れたがNETDUETTOは2020春にSYNCROOMとして正式サービスインする(公式ツイッターによると6月ごろ予定のようだ)。現時点ではメトロノーム機能および録音機能の追加のみがアナウンスされている。ローンチタイミングを考慮すると、これ以上の機能追加はないだろう。それを前提としつつも、今後のアップデートで追加してほしい機能について、いくつか挙げたい。

1. "集っている感"の出るUI、集まることをコンセプトとしたデザイン
NETDUETTOの現状のUIはミキサーを横にしたようなデザインで、必要な情報は揃っているものの、一つの空間にいる感覚が乏しい。Remo.co(オンライン会議ツール)のデザインのような、他人と空間を共有している感覚を得られるようなデザインが欲しい。

↑参考:Remo.coのデザイン。公式Youtube紹介動画より。オンライン会議に"テーブル"の概念が導入され、参加者はテーブルメンバーの顔を見れる。

2. テキスト以外のコミュニケーション手段の実装
テキストベースのコミュニケーションは演奏中に行えず、一体感を感じられない。欲を言えば動画や副音声を送れればベストだろうが、ユーザーの負担や技術的な障壁を考えると厳しいだろう。現実的な提案としては、例えばPCキーボードからのショートカットか楽器からのMIDI情報で「リアクション(効果音やアニメエフェクト)」を送れるようにするといった方法が考えられる(所謂スパチャのようなもの)。他人の演奏にリアクションを送ったり、他人から自分の演奏にリアクションが来れば、オンラインセッションをより楽しめるだろう。

終わりに

長々と書いてしまったが、このようなタイミングでオンラインセッションサービスがあることには非常に助けられている。SYNCROOMにも期待したいと思う。

*この記事が「どのような演奏スキルを持った人間によって書かれたか」という部分に興味を持った方のために、以前の(オフライン)セッションのアーカイブ動画を貼っておきます。ピアノが僕です。セッションについてイメージがわかない方も、見ると参考になるかもしれません(始め方や終わるときの目配せなど)。

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Kaburagi.M
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