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月見と鰹


「愉しみのこころ」(1985年作品)より

 旧暦では、八月十五夜の満月が名月。月見に酒はつきもの。いにしえびとは詠んでいる。月の詩のきわめつき。
 「月々に、月見る月は多けれど 月見る月は この月の月」
 池に舟を浮かべて、ゆったりと酒を愛でると、このような詩もでてこようと云うものだ。中秋の名月は屋外でまつるのがならわし。地方によって、供えものはいろいろ。団子十五個と秋の実りの初物、とりどり。すすきの穂や秋の七草。団子と一緒に、里芋を供える地方もある。

「鰹茶」
 鰹と云えば、五月が通り相場となっているが、これは、五月の風薫る頃に、南の海から日本近海にやってくる一団が獲られる。これが初鰹で、いわゆる、初もの。旬ではない。旬は、夏。安い。旨い。
 鰹のたたきは、知らぬ人なし。鰹の料理は、たたきだけと思い込んでいる人、多し。
 まず、鰹の四分の一のかたまりを金串にさして、サッとガスで火通しをして、霜ふりにする。全体が白くなったら、あらかじめ用意しておいた氷水の中にザブンと入れ冷す。少しして、取り出し、鰹のたたきよりは薄めに刺身にして、冷蔵庫へ。
 次に、たれ。洗いゴマを煎って、油がにじむまでよくする。その中に、醬油三に酒一、味醂一の割合でまぜる。土しょうがを多目にすって、たれの中へ。これで、タレは出来上り。そのタレに、先ほど切って冷蔵庫に入れておいた鰹の刺身を入れ、しばらくつけ込んでおく。
 つけ込んだ鰹を取り、細かく刻んだミツバをたっぷりとまぜ合せ、ーロ。月見の宴で、たらふく飲んだ人でも、「またいっぱい」と飲みたくなる。
 飲みつかれた人は、熱いご飯の上にタレに漬けた鰹身をのせ、細かく刻んだミツバをたっぷりとかけ、ノリももんでふりかける。その上に熱く沸いた番茶をかけ、フウフウ、熱いのを汗をかいて食べると宿酔も夏ばても、どこかへ飛んで行くことうけあいです。

「ボニー卜は、ボニータ!」
 鰹身を指の幅ぐらいの切り身にしておく。ニンニク、ショウガを多目におろし込み、塩、コショウして、ちょっと酒をふくませて下味をつけておく。
 さて、別にとき卵二個分を用意する。その中にミツバか、浅葱のみじん切りをドッと入れて、よくまぜる。後は、普通のカツの通り、鰹身に小麦粉をからませ、先ほどの卵をからませ、薬味もからませ、パン粉をまぶし、サラダ油でキツネ色にカラッと揚げる。揚げたてのアツアツに、レモンをぎゅっとしぼる。
 オーレ! ボニー卜、ボニータ!

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