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ちょっとひと旅

汽車にゆられて
北陸路
一夜の夢の
旅ごころ
友との語らい
熱き酒


「愉しさ発見」(1986年作品)より

 十一月一日は、出雲に旅をされていた八百万の神々もめいめいの処にお帰りになる日。「神迎えの朔日」といって旅から帰えられた神々を赤飯に新穀でかもした酒と大根を供えお出迎えする習しがある。
 われわれ、神々の下僕は、新穀の酒のおさがりを喜こんでいただくのが無上の愉しみ。新酒、新酒とあり難たがる酒飲み河童連。
 寒さが本格化する前、冬ごもりに備えてとばかり、滋養をたっぷりとつけておこうと秋の肴と熱き酒を腹に。旨い。やっぱり秋の酒と年中、酒を賞たがる酒飲み河童、二人。いつもの飲み屋で何んやかんやと飲み、食べ、話に旅す。
 「今年こそ、あれをやらなあかんなあ」
 「何んや、あれって」
 「夜汽車や、夜汽車」
 「夜汽車って」
 「あの幻の旅やがな」
 「あっ、あの夜汽車に乗って、いっぱい飲む話」
 「それそれ、一晩中飲む話」
 「もうそんな飲めへんで」
 「いやいや、まだまだ」
 飲めば飲むほどに、また飲む話。左党の話は、とどのつまる、酒に。
 夕刻からいつもの飲み屋で飲み始め、そのまま夜汽車に乗って、不眠不休で、また、いっぱい。北陸路を一路、朝になるまで、一夜旅、汽車の宴。朝もやに包まれた港町で朝食をして、すぐ帰路に。
 この話が始まって、数年。飲むといつも話題にのるが、いまだに実現しない夢の旅。二人とも四十路の声を聞き、年年酒量、下るのみの声。早期実現が待たれる。
 旅もいろいろ。地球一周の大旅行からちょっと一夜の夢の旅まで。だが、神々も下僕も愉しみは二ッ。酒肴と友の話。

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