忙人は走り、閑人は酒を煖む師走
はや、十二月。京の錦の賑わいが一層高まる頃、魚も一段と旨味が増す。今年も高値で口に入るか心配な松葉蟹。うす造にあさつきをちらしたポン酢で食べると酒とぴったりの目痛蝶。雪降る炉端に鍋で酒、中味は云わずとしれた鱈と白子の味噌仕立て。河豚。鮭。鮃。牡蠣。鰯。鰰。鰤。鮟鱇。等々、数え上げれば限りなし。喰いしん坊には、幸せの季節。
錦をあちこち見て、いろいろ買って、年越の酒肴をつくり、除夜の鐘を聞きながら、百八煩悩を忘れつつ、古い年と別れつつ、新たな年を迎えつつ、酒を静かに愉しむのも、これ幸せ。
「カブラと鉀の博多じめ」
おせち料理に、ちょっとあれば、酒の肴に良し。
俗にいう博多じめは、白身の魚とコンブを何重にもはさみ、重しをかけたものをいうが、寒くなればなるほど旨味の増す、カブラを加え海陸の幸を愉しもう。
先ず鮃は、新鮮なものを一尾。五枚におろし、皮を取り、短冊の姿にする。五枚におろした後の諸々は、ゆっくり、後で楽しむ。
コンブは、なるべく幅の広い、味の厚い良いものを買う。それを濡れふきんでさっとよごれを落し、二、三十センチ位の長さに切っておく。
短冊状の鮃の両面に塩をし、四、五時間、水気を切るために、ザルの上にのせておく。
四、五時間後酢でしめる。酢でしめるのは、約二、三十分位か。あまりしめすぎても旨くない。
次に、カブラを千枚漬の様に薄切りにし、塩もみをして、しんなりさせておく。
さて、コンブの上に、酢でしめた鮃の短冊をのせ、その上にカブラの薄切りを重ね、その上に、また、コンブをのせ、と次々にサンドイッチにしていけばよい。それをマナ板の間にはさみ、上から重しをしておく。
翌日、翌々日が一番食べ頃。
食べ方は、鮃とカブラを適当に切り、一緒に食べるもよし。コンブと鮃とカブラの三段重ねを短冊に切り、三味を一ぺんに味わうもよし。柚の皮を薄くそいで、千に切り、その香りを愉しむのも一考か。
「鮃のあらだき地中海風」
新鮮な魚のあらだきほどぜいたくな酒肴はない。
先ほどのあらを適当にブツ切りにし、さっと塩をして、白ワインをふりかけておく。
鍋にしょう油とワインと味醂少々を適当に入れ、その中に、ブツ切りの鮃のアラをほうり込み、約五分。仕上げにバター一片入れ、でき上り。アツアツをフウフウ。冷やした白ワイン!。これしかない!。