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短編小説『居場所』

彼と再び巡り合ったあの日から一カ月が経った。
 休日には彼といろんなとこに二人で遊びに行った。
 ショッピング。映画。カフェ。遊園地。図書館。
 二人でいろんなところに行った。まるでデートだった。彼はそんなこと思っていないかもしれないけど、私はそう思っていた。この時間がずっと続けばいいのにと思った。だけど永遠なんて存在しないことを私は知っていた。あの日、彼が転校した日。私はもう彼に出会えないと思っていた。彼のことはもう忘れようと思っていた。だけど、彼と再会した。この再開を何と言えばいいのだろうか。ある人は偶然というかもしれないし、ある人は奇跡というかもしれない。
 だけど、私はこう思っている。運命だと。糸でつながった運命の人なのだと。

 あの日、彼が私に転校を告げた後、私は公園のベンチで一人で泣いた。日が落ちていることにも気づかずに私は一人ベンチに座っていた。涙はいつの間にか乾いていた。
 私は空を見上げた。綺麗なオレンジ色の空だった。きっとこの空は私にこう言っている。また彼と再会できるよと。彼に秘密を教えてもらったんだから頑張れるよと。
 その日から、私は変わろうと努力をした。彼に教えてもらった笑顔の秘密を胸に私は自分を変えようと頑張った。まずは、お母さんに笑顔を見せて上げれるように頑張ろう。私はそう心に決めて自分の家に帰った。
「ただいま」
「あら、おかえり」
お母さんは笑顔で出迎えてくれた。私も笑い返した、と思う。うまく笑えていないかもしれない、きっとぎこちない笑顔を私は作っているだろう。
「早く手を洗ってらっしゃい。晩御飯にするよ」
お母さんにそう言われて私は洗面台に行き手を洗って、お母さんの待っているリビングへと向かった。
 そして、今日あった出来事をお母さんに話した。
「そっか。それは、悲しいね」
「うん」
私は昼間のことを思い出してまた泣きそうになった。
「泣いていいよ。悲しいときは泣いてもいいんだよ。我慢なんてしなくていいのよ」
私はその言葉で何かが外れたみたいだった。さっき涙は枯れてしまったと思っていた。だけど、私の目から涙があふれてきた。
「悲しいよ~。信之助君と離れるのは悲しいよ~」
お母さんは泣いている私の頭をなでながら、私が泣き止むまでぎゅっとしてくれていた。
「落ち着いた?」
私はどのくらい泣いていただろうか。茶碗に入っていたご飯が少し冷たくなっていた。
「うん。おかあさん、ありがとう」
私は笑顔をお母さんに向けた。きっと今度は自然に笑えている。そんな気がした。少しだけ心が温かくなった気がしたから。
「いい笑顔だね」
お母さんがそう言ってくれた。心がもっと温かくなった。久しぶりにお母さんに笑顔を見せてあげれることができた。私はその事でもまた泣きそうになった。
「さ、ご飯食べましょうか」
私は頷いて二人でご飯を食べ始めた。
何だかいつも見ていた景色が変わった気がする。明るくなった感じがした。お母さんの笑顔。お部屋の色。ご飯の味。すべてが変わった気がした。これも笑顔のおかげなのだろうか。私は心の中で彼に感謝した。
 諦めかけていたものと遠ざけていたものと手放したもの。そのどれもが私にとって必要のないものだと思っていた。だけど、間違っていた。私はどれも手放してはいけなかった。笑顔も友達もお母さんもどれも私にとっては必要要素だった。そのことにようやく気がついた。きっとこれから私はどんなことがあっても大丈夫だ。そんな自信が心の底から湧き上がってきていた。

 そして、私は中学三年生になった。
「行ってきます」
私はリビングにいるお母さんに挨拶をすると家から急いで出た。
「遅いよ」
「ごめん」
玄関先で、私のことを待っていたのは、中学生になってからできた友達だ。
「行こうか」
「うん」
彼女の名前は満。私が中学一年生の時に初めてできた友達。彼女は私の後ろの席で友達ができるかと緊張していた私に声をかけてくれた。
「ねえ、名前なんていうの」
自己紹介前のまだ教室に入って自分の席を確認して、自分の席に座って一段落したばかりの私に声をかけてくれた。私は小学生の頃の失敗を繰り返さないようにと、自分の名前を言って彼女に笑顔を向けた。
「明美ちゃんね。よろしくね」
その一言で、彼女にはきっと友達が多いんだろうなと思った。彼女の笑顔はかわいらしい笑顔だった。きっと誰からも好かれるだろう。小学生時代も友達がたくさんいたはずだ。
これが彼女の第一印象だった。

「もうそろそろ卒業だね」
「そうだね」
まさか彼女と中学三年生まで友達を続けられるとは思っていなかった。彼女は毎日のように私の家まで迎えに来てくれていた。
「なんかあっという間だったな~」
「そうだね。私もそんな感じがする。三年って短いね」
本当にそう思っていた。小学生の時は三年が長く感じていた。それはきっと私に友達がいなかったから。でも、中学生時代の三年は本当にあっという間だった。満という友達が私にできてそれ以外にもたくさんの友達ができて、私の時間は小学生の頃の何倍も早く過ぎていった。もう卒業ということを考えるとすごく切なくなった。満ともあと何日かで会えなくなってしまう。高校が別々になるからだ。高校になっても友達でいたいとは思っているけれど、私は知っていた。離れる時間が長くなればなるほど、その関係は冷めていくと。
 小学生の最後の方に友達になった数人とも中学が離れてから連絡すら取らなくなっていた。
「ねえ、卒業しても友達でいようね」
私はその言葉に笑顔で頷いた。
 そして、卒業式当日。私たちは抱き合って泣いた。お母さんに泣きたいときは泣きなさいと言われていたので、私は泣いた。彼女も泣いていた。彼女とは本当に多くの時間を過ごした。部活動も同じソフトテニス部だった。私と彼女はペアを組んでいて、私が後衛で彼女が前衛だった。体育の時間も二人でペアを組んだし、二人組のペアの時はほとんど彼女と組んでいた気がする。私の学校は学年が上がるごとにクラス替えがあったので、もちろん彼女とずっと同じクラスというわけではなかったけど、放課後になれば、彼女に会えたし、朝も迎えに来てくれていた。
 私の頭の中にはその思い出たちが次々と蘇ってきた。当分、涙は止まりそうになかった。 
二人で呆れるほど泣くと、私たちはお互いの顔を見て笑いあった。そして、二人で写真を撮って、連絡先を交換して、その名残もほどほどに私たちは別れを告げた。きっといつか再開できると信じて、私たちはそれぞれの道へと歩き出した。

 私は地元の高校に進学した。彼女は少し離れたところの高校に進学した。会えないというほどの距離ではなかったが、お互い学業や部活動で忙しく、滅多に会うことはなかった。
 それでも、お互いの誕生日や何かいいことがあった日などは電話をしたり、家に行ってお祝いをしたりした。私も彼女は実家から通っていたので、家に行けばいつでも会えた。それなりに彼女との関係は続いていた。
 私には新しい友達もできていた。だけど、私は彼氏だけは作らなかった。今でも彼のことを私は好きだった。例え、彼に彼女がいるとしても私は彼のことを好きでいるだろう。私を変えてくれた彼は今どこにいるのだろうか。会いたい。高校生の頃の私はそんなことを思いながら日々を過ごしていた。
 高校では、満のように毎日一緒にいるという友達は作らなかった。ただ、一人だけ気になる子がいた。その子はいつも図書館に一人でいて、あの頃の、小学生の頃の私と同じ顔をしていた。私は図書委員をしていたのでその子のことをよく見かけていた。その子は私の一個下の学年で名前は、御影 明(みがげ あかり)私と名前が似ているところも気になるポイントだった。
 今日も、彼女は図書館にいた。一人で本を読んでいる。私は彼女に声をかけようか迷ていた。すると、彼女の方から近づいてきた。どうやら彼女は本を返却するために私のもとへやってきたようだ。
「あの、この本返します」
彼女は小さな声でそう言った。私は彼女から本を受け取ると、返却手続きをした。それを見届けると、彼女は本棚のところへと向かおうとしていた。なんだか、その背中が寂しそうに見えて、私は彼女に声をかけた。
「ねえ」
彼女は私の声に気づいていないのか、それとも自分に言われたと思ていないのか、本棚の方へ歩みを進めている。
「明ちゃん」
私は彼女の名前を呼んだ。彼女は肩をビクッとさせてこっちを向いた。
「何ですか?」
やっぱり彼女の声は小さかった。
「本、好きなの?」
私は彼女のことを呼び止めたはいいものの何を話せばいのか考えてなかった。気がついたらその言葉が口から出ていた。
「え、あ、はい。好きです」
私はその答えが帰ってくると分かっていた。だって彼女は、毎日ここで本を読んでいるのだから、本が嫌いなわけがない。
「そうだよね」
その後の言葉が続かなかった。何を言えばいいのだろうか。
「あの、用がないなら私は……」
そう言うと彼女は本棚の方へと体を向きなおした。
どうしよう。
「ちょっと待って。よかったら、私に本を紹介してくれない」
「え……」
彼女はこちらを見て、少しだけ困った顔をしていた。
「ダメかな」
「いえ、そんなわけではないんですけど、そんなことはじめて言われて……」
彼女は少し下を向いてそう言った。
「私、図書委員なのに本をあんまり読まないんだよね。だから、いつも本を読んでる明ちゃんに教えてもらいたいな~みたいな」
私は嘘をついた。本当は本を読む。しかも、彼女と同じくらい読んでいると思う。私もそうだったから、あの頃の私も本が友達だったから、本だけが居場所だった。今でもそれは変わらない。部活動もやっていない今の私の唯一の趣味となっていた。
「そうなんですね」
彼女は一歩だけ私の方に歩みを進めてくれた。もう少しかな。
「そうなの。だから、面白い本があったら知りたいんだ」
私は笑顔でそう言った。彼女がまた一歩私の方に近づいてくれた。
「どんな本が、いいですか?」
「う~ん」
私は考えるフリをした。
「何でもいよ。明ちゃんの一番好きな本を教えてほしいな~」
「私の一番好きな本……」
彼女は私の言葉を繰り返すと考えるしぐさをした。彼女の考えるしぐさは、あの有名な名探偵のそれと同じだった。彼女が私の前までやってきた。
「ちょっと本を取ってきてもいいですか?」
「うん」
彼女は本棚の方へと小走りで向かった。そして、しばらくすると一冊の本を手に私のところへと戻て来た。
「あの、この本とか面白いです」
彼女が私に差し出したのはタイトルに星が入っているあの有名な本だった。もちろん私も読んだことがあった。
「ありがとう。読んでみるね」
私は彼女からその本を受け取った。
「私が読み終わったら話をしようね」
「え、話ですか?」
「うん。感想を言い合うの、ダメかな?」
彼女は少しだけ、困った顔をしていた。しかし、何かを決心したように大きく息を吸い込んだ。
「し、したいです。お話」
彼女は少し遠慮気味にそう言った。
「うん。しようね」
笑顔でそう言うと、彼女も本の少しだけ笑った気がした。なんだ、そういう顔もできるのか、私は少し安心した。
 私との会話を終えると彼女は本棚の方へと姿を消した。

 次の日のお昼休み。彼女はいつも通り図書館で本を読んでいた。私はその様子を貸出カウンターから眺めていた。時々、私の視線に気づいていたのか彼女と目が合った。私はそのたびに微笑みを返した。お昼休みも半分くらい過ぎ会たところで、彼女が私のところへとやってきた。
「あ、あのう……」
やはり彼女は遠慮気味に聞いてくる。きっと誰に対してもこういう態度なのだろうな。
「どうしたの?」
私は友達に接するように言った。彼女が何を言いたいのかはなんとなく分かっていた。
「昨日の、その……」
「読んだよ」
私は微笑みながら、彼女に昨日手渡された本を彼女に返した。
「どう、でしたか?」
彼女の顔には不安の色が浮かんでいた。私にもその気持ちは分かる。誰かに本を進めるのは勇気がいる。自分が面白いと思ていても、相手が面白いと思うかどうかは別のことだ。それでも、本を進めたくなる気持ちは分かる。その気持ちを誰かと共有したいから。誰かと話をしたくなるから。これは、本好きの定めだと私は思っている。だから、私は彼女にオススメの本を聞いた。本の感想を言い合おうと言った。そうすれば、少しは彼女が心を開いてくれるかもしれないと思ったから。
「面白かったよ。あの本名言が多いよね~。なんかいろいろと心に響いたよ」
「で、ですよね。私も好きな言葉がたくさんあります」
彼女は少しだけ口角をあげてそう言った。
「あの本の中にね。心で見なければ、ものごとはよく見えない。大切なことは目には見えないんだよって言葉があるでしょ」
「はい」
「私、あの言葉少し違うと思うの、確かにその言葉も正しいのかもしれない。人の感情とか心の中のことは目には見えないからね。でもね、目に見えることも大切だと思うの。例えば、あなたの表情とか、しぐさとか。だってさ、人が誰かのことを知るのって最初はそういうところからだと思うの。よく笑う人とかいつも暗い顔してるとかね」
彼女は少しだけ考えるしぐさをした。
「ほら、今も私の言葉で考えてたでしょ」
「はい」
「しぐさ一つでもどんなことを思っているかなんて分かるんだよ」
「確かに、そうですね」
「だからさ、楽しいときは笑っていいんだよ。辛いときは泣いてもいいんだよ。 一人で抱え込むことなんてないんだよ」
私は彼女に向けてそう言った。けれど、その言葉は自分にも言い聞かせているみたいだった。彼女はその言葉を聞いて泣き出した。きっと、彼女の心の中にはいろんな人には言えないことがたくさん入っているのだろう。この涙で少しでも出てくれればいいけど。
「あ、あの。私……」
彼女は自分の涙を拭った。そして、私に話してくれた。彼女がクラスで置かれている状況を。
「大事なのは重々しいことじゃない。微笑むだけでいい。人は微笑みで報われる。人は微笑みで生かされる。命を捨ててもいい、と思えるほどの微笑みさえあるのだ」
「え、その言葉って」
「うん。あの本の言葉。明ちゃんも知ってるでしょ」
「はい」
「私ね。小学生の頃は今の明ちゃんと同じような子だったんだ。根暗で本が友達で口数が少なくて」
「そうだったんですか」
彼女は驚いているようだった。
「うん。今の私からは想像できないでしょ」
「はい」
「私ね。ある人に人生を変えてもらったの。その人に教えてもらったんだ。ある秘密について」
私は彼のことを思い出していた。目には涙が浮かんでいるかもしれない。少しだけ視界がぼやけていた。
「その、笑顔の秘密って何ですか?」
私は笑顔の秘密のことを彼女に話した。
「私はそのことを彼に聞いた時から人生が変わったの。いつもどんなことがあっても笑顔を絶やさないようにしようって心に決めたの」
そう。彼が私の人生を変えてくれた。あの日から彼は私の中で恩人であり……な人だった。
「だ、だから、いつも笑顔なんですね」
彼女は納得したように言った。
「私そんなに笑ってるかな?」
「はい。私と目が合うときはいつも微笑みを返してくれますよね」
彼女は少し下を向いた。
「もう、気づいてるなら明ちゃんも微笑み返してよ」
私は微笑んだ。
「すみません次からはそうします」
「うん。そうしてくれると嬉しいな」
私と彼女はその後も、あの本について話をした。それ以外にも。次第に彼女の緊張が解けてきたのか少しづつ笑顔をみせてくれるようになった。
 信之助君。私、あなたから教えてもらったことをちゃんと心に刻んで生きてるよ。あなたは今どこにいますか。また、再開できますか。もしも、再開することができるとしたら、その時はちゃんと……。

明ちゃんとの関係は私が卒業するまで続いた。彼女はよく笑うようになっていた。
「もう、卒業なんですね」
「そうだね」
「私、寂しいです。でも、先輩を笑顔で送り出しますからね」
「うん。ありがとうね」
今日も図書館は静かだ。そして、彼女は笑っている。この笑顔を他の人にも見えせているのかは分からないけれど、きっと彼女は変われるはずだ。笑顔の秘密を知った彼女ならどんな試練も乗り越えていけるはずだ。私がそうだったように。
「明ちゃん。どんなことがあっても笑顔でいることを忘れてはだめだよ。ずっと笑顔でいないといけないわけじゃなくて、楽しいときはちゃんと笑って、泣きたい時はしっかりと泣いて、その後には笑顔になって、どんな感情の後にも笑顔でいることを忘れないでね。そうしたらきっと、人生が楽しくなるから」
私は涙を流しながら微笑んだ。私の微笑みに彼女も微笑みで返してくれた。
 誰かの心を変えることは簡単ではない。自分の心を変えるのは簡単ではない。 でも、誰かと一緒なら少しは変わるかもしれない。誰かが少し後押ししてくれれば変われるかもしれない。私はそのことも彼から教えてもらった。だから、私なんかで救える人生があるのなら、私は少しだけ、ほんの少しだけその人が変われるように手助けをしてあげよう。手を差し伸べてあげよう。

 そして、私は彼と再会する。あの食堂で彼の姿を見つけた私の心臓はドキドキと言っていた。声をかけようか迷った。けれど、気づかれなかったらどうしようとも思った。あの頃の私と雰囲気はかなり変わっていると思う。お母さんにも言われたし。
 彼は、あまり変わっていなかった。背丈や髪型はかなり変わっていたけど、彼からにじみ出るあの優しい雰囲気は変わっていなかった。それに、あの笑顔。あの笑顔は昔と変わっていなかった。私は我慢できなかった。彼と話したかった。たとえ気づかれないとしても彼と話をして私の笑顔を彼にしっかりと見せてあげたかった。あの日の泣き笑顔じゃない笑顔を。
「あの、この席いいですか……」

 彼と連絡先を交換したその日に私は彼をデートに誘った。彼は、講義が終わった後だったあ開いているということだったので、私はどこかに行かないと彼を誘った。彼はいいよと言ってくれた。そして、私は彼とのデートの約束をした。
 そして、次の日の朝。私は大学でこの後のプランを考えていた。さて、なにをしよか。
いざ考えようと思ったけど、私は彼のことを何も知らないことを思い出した。ここは、無難にカフェでランチとかにしようか。それだったら、彼も緊張をしなくて済むだろう。それに私も、緊張しなくていい。そうと決まれば、後はどこのカフェに行くかだけ。私のお気に入りの場所に行こうか、それとも気になっていた場所に行こうか、悩んでいるうちに時間は過ぎていった。気がついたら、彼の講義が終わる時間になていた。彼との待ち合わせは大学の校門の前だったので、私はそこに向かった。
 ここから私の人生がまた新たに始まろうとしている。ここから先には何が待っているのか。彼との関係はどうなっていくのか。今の私には何も分からない。だけど、きっとこの先に待っている未来は楽しいものになると私は確信している。私のこれまでの人生はすべて彼と出会うために会ったのだと思う。小学生のころ一人ぼっちだった私の居場所は本だった。中学生の時の私の居場所は満だった。高校生の時は図書室が居場所だった。私にとって居場所は一人でいられる空間であり、安心して時間を過ごせる空間であり、誰かと一緒にいることができる場所だった。
 大学生になった私の居場所はどこになるのだろうか。今からそれが楽しみで仕方がなかった。もしかしたら、それは彼かもしれない。そうだといいな。私はそんな淡い期待を持ちながら彼の到着を待った。

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