極東での幕開けは、あまりにドラマチック。 【きっぷ1枚で日本横断:#1】
日本横断1日目、最果てに向かう夜行バスの車内から。
「皆さま、おはようございます!!」
けたたましいアナウンスと共に目が覚めました。マップを開いてみたら、今いる場所はこんなとこ。…ここどこっすか。
よくよくアナウンスを聞いてみると、バスターミナルはバスターミナルでも、これから着くのは中標津バスターミナル。現在時刻は5時半ちょっと前、根室到着まではあと1時間ちょっとあるようです。もう少しゆっくりして、出発に備えましょう。身体はこの上なくバッキバキですが。
最東端に降り立つ
ようやくスタート地点を捉えた
午前7時ちょっと前、夜行バスは10分ほど遅れて根室駅前のバスターミナルに到着しました。とうとうやってきたのです。朝目覚めて、アナウンスに促されて降り立つ土地が、初めて訪れる最果ての地。年甲斐もなく、めちゃくちゃワクワクしました。なお、重要なことなのでもう一度言いますが、身体は絶望的にバッキバキです。
次に乗るバスまで少し時間があったので、駅舎内を散策した後、駅前バスターミナルのベンチでやり残していた大学の課題に勤しみます。
本土の最東端を味わう
さて、根室駅まで来たわけですが、いきなり列車に乗り込むわけではありません。日本横断を謳う訳ですから、せめて日本本土最東端の地に降り立つことにいたしましょう。バスに乗って、納沙布岬へ向かいます。
45分ほどバスに揺られ、無事終着の納沙布岬に到着しました。
日本本土最東端の地は目の前です。早速見に行きましょう。
いよいよ辿り着きました。感慨深いですね。これからの旅、ここから先はどうやっても西に向かうしかないのです。
しかし、記念碑にもあるように、ここはあくまで本土の最東端。日本は今でもロシアとの間に、北方領土に関する領土問題を抱えています。その事実が納沙布岬の隣にいるという現実を、ここでは目の当たりにしました。
もちろん、日本人として考えるべき現実に向き合うことも大切ですが、旅としても来ていますから、日本を端から端まで楽しめるだけ楽しむことも大切です。朝からまだ何も食べていませんので、納沙布岬の真横にあった食堂で、最先端の海鮮をいただくことにしましょう。
直感で、鮭いくら親子丼をいただきました。花咲カニが有名ですので、カニもいただこうかと思ったのですが、頼まずとも、まさかのサービスでカニ汁をつけてくださいました。サービスがなかなかに大盤振る舞いです。
こちらのお店、店主さんがすごく穏やかというか、気を配っているというか、過ごしやすい場所でした。ごちそうさまでした。
十分に納沙布の力をいただいたところで、折り返しのバスに乗車し、根室駅まで引き返すことにしましょう。
いよいよ日本横断が始まる
根室駅を出発
というわけで、再び根室駅まで戻ってきました。
いよいよ、「きっぷ1枚で日本横断」が始まります。あの乗車券に入鋏印(きっぷを使い始めるときに改札で押してもらうハンコのこと)を押してもらい、挑戦を開始しましょう。最初に乗り込むのは、根室本線の快速はなさき号列車。
根室駅の駅員さん、すごくキリッとした感じの若い方だったのですが、改札に当たって僕の乗車券を見るや否や、「おお! お気をつけて!」と満面の笑みになって入鋏印を押してくださいました。何だか背中を押してくださったみたいな感じがして、勝手に嬉しくなりました。ありがとうございますとその駅員さんに告げた後、いざ車内へ。
独特の文化を全身に浴びる
さて、最初に乗り込んだこの車両、結構古臭いのですが、北海道を走ることもあり暖房設備や除雪設備が大変優れているそうです。冬には大変重宝するのですが、その代償ということなのでしょうか、この車両、なんと今どき珍しく冷房がついていないのです。
いくら北海道とはいえ、今は7月末、非冷房では流石に暑すぎます。そのため、このタイプの車両に乗るときは、窓を全開にし、外の空気を取り込みながら乗車するのが文化になっています。今回、その文化を初体験することになりました。
ちなみに、今乗っている根室本線の根室駅から釧路駅までの区間は、花咲線という通称がついているほか、「地球探索鉄道」とも呼ばれ、車窓に広がる原風景が見事な路線の1つです。釧路駅に着くまで約2時間、全身で地球の何たるかを受け止めているような気持ちになりました。もちろん、きっぷなんか取り出した日にはきっぷが土に還ってしまいますから、きちんとカバンにしまってチャックを閉めておいていますよ。
地球探索鉄道をたっぷり2時間満喫しました。無事、釧路駅に到着です。
そういえば、釧路駅で改札を出る際、少々の手続きの後、ちょっと見慣れないものを駅員さんから渡されました。
実は、今回の日本横断に使用している乗車券の経路ですが、釧路駅の1つ手前、東釧路駅から分岐する釧網本線へ乗車することになっているため、すごく厳密にいうと釧路駅は経路に含まれません。次の写真をご覧ください(路線図自体はJR北海道のサイトから引用、手書きで補足しています)。
乗車券の本当の経路は赤色ですが、今いる釧路駅に来る過程で緑色で示した経路外の区間の往復分の運賃を支払う必要があります。今回は往復分の運賃400円を駅の改札口で清算した後、釧路から東釧路へ戻るとき専用のきっぷ(復路専用乗車券)を発券していただいたのです。ここまでの一連の流れ、結構ややこしいと思うのですが、釧路駅の駅員さん、慣れているのかすごくスムーズに対応してくださいました。まさにシゴできですね。ありがとうございました。
突然の山場、圧倒的スリルの道東
湿原を駆け抜ける
釧路駅で飲み物を買い足したら、釧網本線の普通列車に乗り込みましょう。こちらも終点の網走まで、乗車時間は約3時間の見込み。座れなかったら流石に辛いので、かなり早めにホームで列車を待ちました。
釧路駅を出発して程なく、列車は次に停車した東釧路駅で謎に信号が青にならないまま、10分ほど遅れて出発しました。当時の僕は、この遅れを何とも思っていなかったのですが、振り返ってみるとこの遅れ、この先訪れる最大級の山場の伏線でしかなかったのです。
そんなこととはつゆ知らず、列車は車内に湿原の爆風を取り込みながら釧路湿原を疾走していきます。気持ち良いほどに晴れていますね。
嫌な予感の到来と上回る的中
釧路湿原を抜けると、塘路(とうろ)駅、茅沼(かやぬま)駅、標茶(しべちゃ)駅と進んでいきます。標茶って、なんか読み方がかわいい名前ですね。このときはパソコン作業をしていたので、ちょくちょく時計は気にしながら過ごしていたのですが、一向に遅れが回復しないばかりか、何だか空模様が怪しくなってきています。…おや?
標茶駅で大きくなってきた嫌な予感は、ほぼ出発と同時に的中します。雷が鳴り出したかと思えば、バケツをひっくり返したような雨が降ってきたのです。途中の磯分内駅なんて、雨でほぼ何も見えませんでした。
列車は豪雨の中、摩周駅に到着しました。するとここで、摩周駅の駅員さんが車内に乗り込んできて、現時点での乗車人数を数えた後、おもむろにこうアナウンスするのです。
「ごめんなさい、ただいま集中的な雨の影響で、この駅から川湯温泉までが運転見合わせになりました。一旦列車降りる準備していただいて、駅の待合室でお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
…まじですか。大ピンチすぎます。摩周駅、周囲を山に囲まれているうえ、バスも通っていないので、鉄路を絶たれると完全に陸の孤島と化してしまいます。しかしながら、今日は旭川まで到達する手筈になっており、夏の北海道ということでホテルなんかもう軒並み満室ですから、旭川まで到達できないと、今日は野宿が確定となるのです。野宿をしようにも、ここは北の大地。目覚める前にくまさんのお腹の中だなんて、さすがにシャレになりません。駅の待合室で、僕は完全に頭が真っ白になりました。
待合室では、駅員さんが乗客1人ずつに今日の目的地を聴きながらきっぷを確認してまわっています。僕は駅員さんに、今日の目的地が旭川で、乗ってきた列車の終着の網走駅で接続予定の特急の指定席をすでに取ってしまっていて、なおかつ乗車券が一筆書きの特殊経路で迂回の手続きが超面倒になってしまうことをお伝えしました。ちなみに、駅員さんからいったん釧路に戻って札幌経由で旭川へ行く迂回経路を念の為確認されたのですが、北海道に詳しい方ならお気づきの通り、この迂回経路は超激ヤバです。駅員さんも「めちゃくちゃ時間は掛かっちゃいますけど…」と困り顔で提案してくださっていましたが、さすがに実行できるわけがありません。
駅員さんは忙しなさそうに、他の乗客の方々にも話を聞いてまわっています。僕と同じく網走からの特急に乗らなきゃいけない人は、他にも複数人いるようでした。ちなみに、列車が動くのを待って網走まで行けたとしても、網走駅の最終列車は終わっており、しかも網走のホテルはもう満室です。監獄送りになる他なくなってしまいます。果たして、どうなってしまうのか。
藁にもすがる思いで走る
そんな中、駅員さんの口から新たな提案が我々乗客に告げられます。
「ただいまこちらの方で代行のハイヤーを手配いたしましたので、網走駅までご案内します。特急と接続できるかは網走駅に到着してみないとわからないんですが、15分程度であれば待ってくれるとの連絡をもらっていますので、皆さまご移動をお願いします。」
圧倒的朗報です。希望の光が見えてきました。
要は、網走駅に向けて車で特急オホーツクの出発時刻とタイムチキンレースをすることになったのです。僕たちとしてはこのハイヤーが網走駅で間に合ってくれることを祈るしかありませんから、藁にもすがる思いでハイヤーに乗り込み、摩周駅を後にします。こんなことがなかったら、まず降りることはなかったでしょう。怪我の功名というか、貴重な経験でした。摩周駅の駅員さん、すごく大変な対応を本当にありがとうございました。
そして、17:35頃、代行ハイヤーは網走駅に到着しました。このあと乗る予定の特急の発車時刻は定刻通りだと17:26。果たして、待ってくれているでしょうか。こうなったら、祈るしかありません。
きっぷを取り出し、網走駅の改札口へ駆け込みます。改札を受け、顔を上げると、目の前に停まっていた列車は、摩周駅から求め続けた、特急オホーツク号そのものでした。
何はともあれ、間に合いました。特急列車、ちゃんと待っていてくれたのです。本当に本当にありがとう。首の皮一枚、また何とか繋ぎ止めました。ラッキーすぎました。奮闘してくださった摩周駅の駅員さん、ハイヤーの運転手さん、網走駅の駅員さんに改めて感謝を。
というわけで、この特急オホーツク号に乗り、石北本線の上川駅まで向かいます。特急は定刻の14分遅れで網走駅を出発しました。
スイッチバックしたあたりで、日が沈みあたりは真っ暗に。当然街灯があるような地域は通りませんから、駅に着かない限りどうやったって何も見えません。
白滝駅を出発して程なく、乗っている特急列車が急ブレーキ。鹿と衝突してしまったようです。北海道らしさ全開ですね。お陰で時刻表から相当遅れましたが、なんとか上川駅に到着です。
上川駅からは、本日最後の普通列車に乗り換えて、本日の最終目的地である新旭川駅に向かいます。
さて、旭川まで行かずに新旭川駅で降りたのは、この駅のほど近く(といってもそんなに近くない)にスタバがあるからです。最後にそこへ向かって、激動の1日を締めましょう。
フラペチーノを飲み終える頃には、時刻は夜10時過ぎ。そろそろ本日宿泊するネットカフェに行きましょう。スタバから大体歩いて20分強掛かるのですが、道中めっちゃ道幅広いのに人通りはおろか車通りすら乏しい国道があったり、石狩川を渡ったりと、怖目の夜道でした。
いや〜初日から情報量が多過ぎましたね。充実度満点の旅でした。明日は今日と対照的に非常にシンプルな旅程ですが、過酷なことには変わりありませんので、この辺りで休むことにいたしましょう。ものすごく長くなりましたが、最後までお読みいただき、ありがとうごさいました。
それでは、おやすみなさい。