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「神経症候学を学ぶ人のために」から学ぶ - 顔貌・表情から見る神経疾患の特徴

今回も、医学書「神経症候学を学ぶ人のために」の読書メモをシェアさせていただきます。今回は、顔貌や表情から判別できる疾患について、特徴的な所見をまとめてみました。

神経疾患では、特徴的な顔貌の変化が重要な診断の手がかりとなることが多くあります。以下、代表的な疾患における顔貌の特徴をご紹介します。

パーキンソン症候群:皮脂の分泌が多くなる(oily face)のが特徴的です。また、病側で眉毛が吊り上がり、鼻唇溝が浅くなり、表情が固くなる「仮面様顔貌」が見られます。

小脳萎縮:表情の変化に乏しく、パーキンソン病と同様に仮面のように見えることがありますが、瞬きの頻度は保たれているのが特徴です。

筋強直性ジストロフィー:手斧様顔貌(hatchet face)、前頭部の脱毛(frontal baldness)、首が細長くなる(swan neck)といった特徴があります。先天性の場合は、表情筋が侵されることでコイの口のような形状(carp mouth)となります。

顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー:閉眼時の兎眼(まぶたが完全に閉じない状態)や、笑顔時の横笑いが特徴的です。また、横顔では上口唇が前方に突き出して下口唇を包み込むような形になり、バク(tapir)の口に似た特徴的な形状を示します。(levre de tapir)

バク(tapir)

重症筋無力症:筋強直性ジストロフィーに似た顔貌を呈しますが、手斧様にはならず、縦笑いが特徴的です。眼・咽頭・遠位型ミオパチーでも類似した顔貌が見られます。

偽性球麻痺:ALS(筋萎縮性側索硬化症)や多発性脳梗塞などで見られ、強制笑いや強制泣きが特徴です。情動失禁との鑑別が必要で、涙の有無が重要な鑑別点となります。

その他の特徴的な顔貌

  • 破傷風:眩しい光を見ているような特徴的な痙笑

  • 母斑症(結節性硬化症、Sturge-Weber病など):顔面の特徴的な皮膚症状

  • 脳血管性認知症:偽性球麻痺や情動失禁を伴う認知症が特徴

  • ムコ多糖類症・ムコリピドーシス:ガーゴイル様顔貌

  • Wilson病:上顎の歯列が目立つ

  • その他:内分泌疾患でも特徴的な顔貌変化が見られます

これらの特徴を理解することは、神経疾患の診断において重要な手がかりとなります。ただし、顔貌の変化のみで診断を確定することは避け、他の神経学的所見や検査結果と合わせて総合的に判断することが大切です。

<参考文献>「神経症候学を学ぶ人のために」


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