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歌と香

私の名前は星野唯歌。高校1年生。
見た目はどこにでも居る普通の高校生。だけど、私には欠落している部分が有る。
それは、
他者とコミュニケーションがとれない。つまり、家族以外とお喋りが出来ない。

小学生の時両親に病院へ連れて行かされると、「選択性緘黙」と診断された。
家の中や家族となら話せるが、学校やクラスメイト、家の外で家族が居ない場所では過度の緊張により話せなくなるらしい。
「カウンセリングや集団訓練で改善は見込めるし、場合によっては自然に馴染む事もありますから、そんなに神経質にならなくても大丈夫ですよ。」
とお医者さんに言われて帰ってきた。

両親は、小学校、中学校へと何度も足を運び、先生方に伝えたが、私は悪ガキ男子の餌食だった。何も言えない私に、執拗に嫌がらせをしてきた。

「男は卑劣なイキモノ」
とインプットされた。

中学は、ほとんど保健室で過ごした。
そして高校受験。私は「通信制の学校に行きたい。」と両親に言ったが、両親は認めてくれなかった。
「クラスメイトとの交流で改善するかも知れないじゃない。」
両親の気持ちも分かるが、そのクラスメイトとやらに言葉には出来ないくらいの嫌がらせを受けていた私の気持ちは理解出来ないだろう。
「じゃあ、せめて女子校に行かせて欲しい。」
その一言で、今の学校に通う事になった。

(女子高生ってキラキラしてるな)
本を読んでいる合間にチラッと見る彼女達は、本当に輝いていた。
特にクラスで人気のある美形の本田玲香さんは、眩しいくらいの笑顔だった。

そんなある日、
よそのクラスの子が、
「持ち物検査回って来てる!早く隠して!」
と伝えてきた。
私はやましい物が無いから席から動かなかったが、他の子は検査が終わったクラスの子に預けたり、部室に隠しに行ったり大騒ぎだった。

一段落すると、隣の席の本田玲香さんが、
「あ、ヤバッ!」
と言った。
手にはリップグロス。
私はとっさに彼女のリップグロスを奪い、自分の生理用品のポーチに入れた。
その直後、持ち物検査が回ってきた。

1人1人回ってくと、やはりみんな取りこぼしが有るようで、次々没収されていった。

私の番になりみんなと同じように荷物をチェックされると、例のポーチの底に有る丸いものに気付いたらしい。
「何だこの長い丸い物は!」
チャックを開け、ナプキンを取り出すと・・・
「タンポンか・・・すまん。」
先生は取り出したナプキンを元に戻し、
「申し訳なかった。」
と頭を下げ、次の席へ行った。

この先生は、持ち物や制服の乱れにはうるさいが、自分の非をきちんと認め、例え相手が我々小娘でも、謝罪する姿が生徒に人気がある。私も嫌いでは無い。

先生が教室を出て隣のクラスに入ったのを音で確認し、リップグロスを本田玲香さんに返した。
「星野さん、ありがとう!助かった!」
本当に彼女の笑顔は輝いている。

翌日、私が保健室でお弁当を食べていると、
「あ、ここに居た!」
と本田玲香さんが保健室に来た。
「一緒に食べても良い?」
衝撃的な一言を放った。
私はビックリしたけど、保健の先生が、
「私も居るから大丈夫よ。」
と言ってくれたから、本田玲香さんに頷いた。

「星野さん、昨日は本当にありがとうね。」
本田玲香さんが笑顔で私に言った。
私は少し首を横に振った。
「あれ、パパにおねだりして買ってもらったから、取られたくなかったんだ。」
私は箸を進めながら頷いた。
「星野さんは化粧しないの?」
頷く私。
「顔のパーツ整ってるから、絶対もっと綺麗になるのにぃ。もったいないよ。」
私の頭の辞書に無い言葉が並べられ、私は混乱し保健の先生を見た。
「星野さんの顔が綺麗だから、お化粧したらもっと綺麗になるのにって。ってか、まだ化粧なんて無くても可愛い歳でしょ?」
「先生はいつからお化粧してるの?」
「…中2。でも学校以外でよ。」
2人の会話は続いていたが、先生の翻訳に、私の頭は大混乱していた。
(綺麗で輝いてる本田玲香さんが、私を綺麗って言った?何?どういう事?昨日のお礼の続き?)
真意は判らぬまま、その日は過ぎて行った。

抜き打ち持ち物検査以来、本田玲香さんは私によく話しかけてきた。
私は驚きはしたけど嫌ではなかったから「頷く」「横に首を振る」で答えた。
いつしかメールもしあうくらいまで2人の距離は縮んでいた。

ある夜、
「明日、学校終わってから家行って良い?」
本田玲香さんからメール。
「お母さんに聞いたら良いって。」
「じゃあ、明日行くね。」
(本田玲香さんが家に来る。何だろう?)
お母さんは、
「唯歌が友達を連れてくる!」
ってはしゃいでるけど…

翌日の放課後、本田玲香さんは学校の最寄り駅のコインロッカーから何やら荷物を取り出した。
「これ全部没収されたら人生終わるからね。」
私はますます判らなくなった。

「ただいまぁー」
「おっ帰りなさぁ~い!」
母は確実に浮かれていた。
「同じクラスの本田玲香です。」
本田玲香さんがおじぎをした。
「まあ、唯歌から聞いている通り綺麗なお嬢さんね!さあ、入って入って!」

家に入り、本田玲香さんを連れて自室に行こうとすると、
「あら、お茶はしないの?」
「後で取りに来る。」
母はあからさまにガッカリしていた。

部屋に着くと、本田玲香さんは、
「星野さんって声も可愛いんだね。少しハスキーで。羨ましい!」
「そお?考えた事無いや。」
「アハッ!答えてくれた!嬉しい!」
「そお?・・・」
「テンション上がってきたぁ~!始めるよ!」

本田玲香さんはそう言うと、私の前髪を上げて止めると、首にタオルをかけた。(???)
「本当に整った顔だよねぇ~。腕が鳴るわぁ~。」
私は目を閉じるように指示され、目を閉じると本田玲香さんは私の顔に何やらし始めた。

作業が終わり、目を開けると手鏡を渡された。
ソコに写る私は…私の知らない私だった。
「本田玲香さん、これって…」
「私の目に狂いはなかった。ヤッパリ元が良いと化粧の出来も違うわぁ!」
本田玲香さんは髪を止めていたピンを外し、今度はヘアアイロンで髪を整え始めた。
「こんな感じかな?どお?」
鏡の向こうの私は、見たことの無い私だった。
「ねえ、唯歌ママにも見せてあげようよ!」
本田玲香さんは、私の腕を取りリビングへ向かった。
「唯歌ママ!どうですか?」
母はリアルにお茶を吹き出した。
人がお茶を吹き出す姿を生で見たのは初めてだ。
「これ唯歌?玲香ちゃんがやってくれたの?あらあら、若い頃の私みたい。」
「記念に、プリクラ撮りに行きません?」
「本田玲香さん、これで外は・・・」
「玲香ちゃん良いわね!行きましょう!」
「私は遠慮するよ。」
「唯歌が行かなきゃ意味無いの!準備して!」
母と本田玲香さんはダッシュで各々の身支度へと解散し、取り残された私は絶望感しかなかった。

この日以来、本田玲香さんは私の家に入り浸っ・・・よく来るようになった。
本田玲香さんは母とも仲良しになり、3人でお茶をしながらお喋りして過ごしたり、家にお泊まりする事もあった。
もちろん本田玲香さんのお家も公認だ。

そんなある日、

「玲香ちゃん、来月の18.19の土日空いてる?」
「来月の18.19ですか?空けておきますよ。何か有るんですか?」
「お父さんも私も、高校の時の同窓会なのよ。この子1人になっちゃうからお父さんだけ行ってもらおうかと思ってたんだけど、玲香ちゃん泊まりに来てくれたら2人で行けるから。お願い出来るかな?」
「お母さん!私1人で平気だよ!」
「同窓会は行きたいですよね!パパとの出会いは高校の時だったんですか?」
「バレちゃった?高校から付き合い始めて、大学卒業後にすぐ結婚したの!」
「ねえ、私1人で平気だって!」
「それは2人共出たいですよね!皆さんにお会いしたいですよね!大丈夫です!私に任せてください!」
「本田玲香さん!」
「玲香ちゃんが来てくれると、安心だわぁ~。」
「お母さん!」
私の言葉は、ことごとく無視され、母と本田玲香さんとの女子トークが盛り上がっている。
女子は本当によく喋る。

ある日、私は朝から体調が優れなかった。
朝食もあまり食べない私に、
「今日は休んだら?」
と母は言ったが、
(本田玲香さんが心配するだろうな)
「ん~まぁ行くだけ行ってくるよ。」
と家を出た。
電車に揺られ、どんどん具合は悪化していった。
学校に着き、教室へは向かわず保健室に直行した。
「担任の先生には伝えておくから、寝てなさい。」
と、保健の先生に言われ、素直に従った。

うつらうつらしていると、
「唯歌?大丈夫?」
(本田玲香さん?)
何となく意識はあるが、反応は出来ない。
本田玲香さんは私の手をさすり、
「早く良くなってね。」
と言って唇をあわせ去っていった。

(?。今のは接吻?ん~、ボンヤリしてるから気のせいかな?)
唯歌はまた、うつらうつらの深い場所へ行った。

両親の同窓会の日、本田玲香さんは学校でも浮かれていた。
(お泊まりなんて、初めてじゃないのに・・・?)
本田玲香さんは、謎と驚きが多い。

母が冷凍して用意してくれていたご飯を2人で食べ、お風呂に入り私の部屋で2人寝ようと電気を消すと、私のベッドの脇に敷いた布団に居た本田玲香さんが、ベッドに潜り込んで来た。
これまでも、寝る時は別でも朝には本田玲香さんが私に抱きついて寝ていた事が何度も有ったから、そんなに気にしなかった。

本田玲香さんは私に抱きつきながら、私の髪を撫でた。
「唯歌・・・可愛い。」
と、本田玲香さんが私に接吻した。
私は保健室を思い出した。
本田玲香さんは、顔の向きを変えながら何度も接吻してきた。私も嫌じゃなかった。
次第に本田玲香さんが舌を入れてきた。
「本田玲香さん?」
「ずっと唯歌とこうしたかった。イヤ?」
「え・・・だって、これって大人がする事でしょ?・・・私たちまだ高校生だよ・・・」
「相手の事が好きで好きで仕方なかったら?」
「・・・判らない」
「唯歌がイヤって言ったらやめる。それでいい?」
私は頷いた。

本田玲香さんは私のパジャマを脱がし、自分も脱いで私に触れた。
深い接吻で、粘膜と粘膜が触れあう新たな愛情表現を知った。
本田玲香さんは私の胸の膨らみを両手で優しくほぐし、色素の濃い部分に唇をつけ、舌で撫でた。
感じた事の無い感覚。
くすぐったいような背筋に電流が流れるような。
心拍数は上がり、呼吸は荒くなり、言葉にならない声が出た。

「唯歌、可愛い。」
そう言って本田玲香さんは女性の突起物に指を伸ばした。
これまでとは比べ物にならないくらいの感覚に、私は驚いて声を上げながら本田玲香さんを突き飛ばした。

「ごめん唯歌。イヤだった?」
私は呆然としながら、
「本田玲香さん、違うの。ビックリしちゃったの・・・私・・・ごめん。」
「大丈夫。リラックスして。」
本田玲香さんは私を抱きしめ、また粘膜が絡み合う深い接吻をしながら女性の突起物に指を触れた。
本田玲香さんは、優しく突起物を撫でた。
経験したことの無い快感に、私は罪悪感すら感じた。
「可愛いよ、唯歌。」
「ほ・んだ・・れい・か・・・さん・・・」
「玲香って呼んで。気持ちいい?」
「玲・・香・・・・・玲香・!」
「唯歌。本気出すね。」

玲香は突起物に舌を滑らせ始めた。
ゆっくり、時に細かく舌を操り私はもう、どうにかなってしまいそうだった。

私は、大きな振り子の高い場所へと引き上げられる感じがした。怖くて、ドキドキして、
「玲香!玲香!」
何度も玲香の名前を呼んだ。
玲香は突起物を舐め回し続ける。
振り子が地面と平行になった瞬間、手を離され一気に降下した。
「玲香!玲香!玲香!・・・・・」

気付くと、私は玲香に抱きしめられていた。
「玲香?私・・・?」
「唯歌、大丈夫だよ。」
玲香はさらに強く抱きしめてくれた。
2人、抱き合いながら眠った。
「玲香?」
「何?」
「ずっと一緒に居られる?」
「うん!これからもずっと一緒だよ。」
「玲香・・・・・」
2人はひきつけあうように唇をあわせた。

翌日、私と玲香はショッピングモールに出かけた。
お洋服屋さんで試着してみたり、ハンバーガー食べたり、プリクラ撮ったり、可愛い小物見たり。
家族以外と回るのは初めてで少し緊張してたけど、玲香と一緒ならスゴく楽しい。
(普通の人は、こうして外を楽しむんだ。)
治るのか判らない私の病気に、玲香は向き合ってくれた。
嬉しくて、楽しくて、少し怖くて、私は玲香の手をずっとつないでいた。

夕方になり、そろそろ玲香が家に帰る時刻になった。
改札を通り、2人別々のホームへ。
「じゃあ明日学校でね!」
玲香が笑顔で言う。
「うん。」
「気を付けて帰りなよ唯歌!」
玲香が歩きながら振り向いて言う。
「うん。」
2人手を振った。
玲香の姿が人混みに紛れていく。

「玲香!」「玲香!」「玲香!」
私は玲香が向かった方向へ、人にぶつかるのもお構いなしに進んだ。
「玲香!」「玲香!」
「唯歌?」
「玲香!」
私は玲香に抱きついた。
「唯歌、ここ邪魔になっちゃうから移動しよう。」
玲香は私をしっかり抱きよせ、空いたスペースに移動した。

「唯歌どうしたの?何か嫌な事された?」
私は子供のように泣きじゃくり首を横に振った。
玲香は、私を抱きしめながら髪や背中を撫でてくれた。

私がひとしきり泣き落ち着いて、
「唯歌?何かあった?」
「玲香が居なくなっちゃう。」
「私?居なくならないよ。」
「だって今遠くに行ったもん。」
「家に帰るだけだよ。明日も会えるよ。」
「玲香が居なくなっちゃうの嫌だ!」
「ずっと傍に居るよ。身体が離れても、私の中には唯歌、唯歌の中には私が居るんだよ。」
「私の中に玲香が居る?」
「家族以外とコミュニケーション取れなかった唯歌には初めての感情かな?」
「・・・・・?」
「恋とか愛って表現される現象だよ。」
「恋・・・・・愛・・・」
「私は唯歌が好き。誰よりも好き。」
「私も玲香が好きなの?だから離れたくないの?」
「そうだと嬉しいな。」
そう言って玲香は人目をはばからず私に接吻した。
私も玲香との距離が1mmでも縮まるように抱きついた。

デコボコな2人の物語がやっと始まった。


                         おわり














































































































































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