2020年4月〜2022年4月

『大学生のうた』

にわか雨 jazzを孕んだ遅延証 自由が丘で急行を待つ

ぼけた祖父の目がひらくときチカちゃんになった私の彼に似た鼻

脱ぎすてた人肌の服わたくしの命をわけたの服に、わけたの

血液に忘れ去られた指先の自我を取り戻す動きのこと

親友が結婚するんですなんて口に出すだけで透きとおる明日

洋服の擦れる音だけがしていたミニシアター東中野の


『論理的』

私でも僕でもどなたでもよくてだけども僕は「まゆこ」という

クーラーとお経が唸る盆の昼千代が曾祖母の名前だと知る

整然と並ぶ蛍光灯ごときが僕の影を引き伸ばしたあの夜

お風呂の熱が僕からお布団に滲むとき論理的と想う

誰も見ていないはずの茹だる曇り僕とアスファルトは星をうたう

咀嚼して自分勝手にうごく胃よ赦しを乞うて僕が赦すよ

無遠慮でいかにも幸せそうな人を肴に煙草、あれこれを喫む

覚えたくもない奨学生番号でどうこうして生きてみている

不細工な扁平足も人並みに冷たくなり寒椿の咲く道

口に出た間違えで彼を刺したこと パスワードをお忘れですか?

批評とか悲しいとかをつぶやいて おせんべおせんべ焼けたかな

いま脚を大きく開いてゆくのです血が出たら努力したことにする

別れなど惜しむ強さはないのです君と出逢った今、花冷え

僕らしくないぼくを表にしても血のように僕がいて 徒花

朝焼けが眩しくて頬を溶かすのだコンビニは白々と僕を抱く


『マリー』

私でも僕でも使いこなせるのフランスの女王さまにもなれるわ

欠けた爪口に含んでもう一度私になる再製の心地

今日を拒否したくなったわたくしへ明日はヤカンでお湯を沸かそう

リクルートスーツの中をかさばるパニエで武装して夢など語る

どこかの国の戦争のニュース今日はお腹をすかせてみます

痣らしい線が入った足の甲ハイセンスな身体になれたわ

柔らかなふとももに溶けるてのひらで哲学のはなしでもしようか

午前二時流れてきた金木犀に不埒な私は油断していた

袖口のヒートテックを隠すよな私の皮だけ見ていてほしい

黒髪の頃の私はこの髪を何色で見ていたんだろうと

骨っぽい私の足の窪みには誰かの骨がはまる気がして

正月の朝食にマフィンを選ぶ私のことを「マリー」と呼ぼう





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