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M&Aと株式交付① 子会社の定義は会社法の定義(実質支配)でいいのか?

最近M&A実務で検討する機会が増えてきた株式交付。

「子会社化」する場合に活用できる制度ですが、具体的な要件をご存じでしょうか。

論点:株式交付における子会社化とは?

株式交付における「子会社化」の定義は、従来の会社法や連結会計と同様と考えていいでしょうか。

例えば株式交付後の議決権比率が42%でも、取締役会を支配していたり、一定の契約で財務や事業の方針決定を支配していると考えられる場合には、「子会社化」したと考えてよいでしょうか。

回答:議決権50%超のみで判断

質問のケースでは「子会社化」に該当せず、株式交付は活用できません。

考察

株式交付における子会社化は、株式交付後に議決権を50%超保有する場合に限定されているんですね。

逆に言うと、今時点で議決権比率が50%未満であるものの会社法上の子会社に該当している場合には、株式交付を使って50%超を保有することができます。

関連条文

会社法2条32号の2

会社法2条に株式交付の定義があります。
そこでは「子会社」について「法務省令で定めるものに限る」と限定されています。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

三十二の二 株式交付 株式会社が他の株式会社をその子会社(法務省令で定めるものに限る。第七百七十四条の三第二項において同じ。)とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付することをいう。

なので会社法施行規則を見てみましょう。

会社法施行規則4条の2

こちらが具体的な要件ですが、なんとさらに第3条3項1号に限定されています。

(株式交付子会社)
第四条の二 法第二条第三十二号の二に規定する法務省令で定めるものは、同条第三号に規定する会社が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配している場合(第三条第三項第一号に掲げる場合に限る。)における当該他の会社等とする。

会社法施行規則3条3項1号

さて、3条3項1号を見ると(太字のところ)、要は「自分と子会社合わせて議決権を50%超を有している場合」が子会社に該当する、ということです。

つまり、3条3項2号のような、「40%以上保有+いずれかの条件」で実質的に支配している場合は、株式交付における子会社化ではない、ということです。

(子会社及び親会社)
第三条 法第二条第三号に規定する法務省令で定めるものは、同号に規定する会社が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配している場合における当該他の会社等とする。
2 法第二条第四号に規定する法務省令で定めるものは、会社等が同号に規定する株式会社の財務及び事業の方針の決定を支配している場合における当該会社等とする。
3 前二項に規定する「財務及び事業の方針の決定を支配している場合」とは、次に掲げる場合(財務上又は事業上の関係からみて他の会社等の財務又は事業の方針の決定を支配していないことが明らかであると認められる場合を除く。)をいう(以下この項において同じ。)。
一 他の会社等(次に掲げる会社等であって、有効な支配従属関係が存在しないと認められるものを除く。以下この項において同じ。)の議決権の総数に対する自己(その子会社及び子法人等(会社以外の会社等が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配している場合における当該他の会社等をいう。)を含む。以下この項において同じ。)の計算において所有している議決権の数の割合が百分の五十を超えている場合
イ 民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)の規定による再生手続開始の決定を受けた会社等
ロ 会社更生法(平成十四年法律第百五十四号)の規定による更生手続開始の決定を受けた株式会社
ハ 破産法(平成十六年法律第七十五号)の規定による破産手続開始の決定を受けた会社等
ニ その他イからハまでに掲げる会社等に準ずる会社等
二 他の会社等の議決権の総数に対する自己の計算において所有している議決権の数の割合が百分の四十以上である場合(前号に掲げる場合を除く。)であって、次に掲げるいずれかの要件に該当する場合
イ 他の会社等の議決権の総数に対する自己所有等議決権数(次に掲げる議決権の数の合計数をいう。次号において同じ。)の割合が百分の五十を超えていること。
(1) 自己の計算において所有している議決権
(2) 自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者が所有している議決権
(3) 自己の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者が所有している議決権
ロ 他の会社等の取締役会その他これに準ずる機関の構成員の総数に対する次に掲げる者(当該他の会社等の財務及び事業の方針の決定に関して影響を与えることができるものに限る。)の数の割合が百分の五十を超えていること。
(1) 自己の役員
(2) 自己の業務を執行する社員
(3) 自己の使用人
(4) (1)から(3)までに掲げる者であった者
ハ 自己が他の会社等の重要な財務及び事業の方針の決定を支配する契約等が存在すること。
ニ 他の会社等の資金調達額(貸借対照表の負債の部に計上されているものに限る。)の総額に対する自己が行う融資(債務の保証及び担保の提供を含む。ニにおいて同じ。)の額(自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係のある者が行う融資の額を含む。)の割合が百分の五十を超えていること。
ホ その他自己が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配していることが推測される事実が存在すること。
三 他の会社等の議決権の総数に対する自己所有等議決権数の割合が百分の五十を超えている場合(自己の計算において議決権を所有していない場合を含み、前二号に掲げる場合を除く。)であって、前号ロからホまでに掲げるいずれかの要件に該当する場合
4 法第百三十五条第一項の親会社についての第二項の規定の適用については、同条第一項の子会社を第二項の法第二条第四号に規定する株式会社とみなす。

終わりに

同じ会社法の中でも、きちんと子会社化の定義が使い分けられているんですね。

株式交付を使うときは、最低でも実行後の議決権比率が50%超にならないといけない点、覚えておきましょう。

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