M&Aと受取配当金③ 分割型新設分割で子会社株式を新会社に承継させて、すぐに子会社から新会社に対して配当するとき、所得税額控除は使えるのか
この記事は前回の続きです。
前回においては、益金不算入規定について、関連法人株式等に該当することは分かりました。
ただ、所得税額控除については、今回のケースではどうなるのでしょうか。
論点:分割で子会社株式を移した後にすぐ配当しても、所得税額控除は全て使えるか?
M&Aを検討している対象会社に100%子会社(A社)がありますが、この子会社は譲渡対象外とする予定です。
そこで、適格分割型新設分割でその子会社株式を新会社に移転することを検討しています。
分割後、すぐにその子会社から新会社に対して配当をした場合、源泉徴収額について全額所得税額控除として使えるのでしょうか。
回答:使えます。
適格分割で株式の移転を受けた場合、
「分割までの期間については、分割法人の保有期間を分割承継法人が引き継ぐ」という特例があります。
そのため、分割法人が配当計算期間の開始から分割時点まで対象株式を保有しており、分割承継会法人が分割時点から配当まで対象株式を保有していれば、源泉徴収額について所得税額控除として満額使えることになります。
考察① 法人税法 第68条 所得税額の控除
内国法人が各事業年度において所得税法第174条各号()に規定する利子等、配当等、給付補填金、利息、利益、差益、利益の分配又は賞金()の支払を受ける場合には、これらにつき同法の規定により課される所得税の額()は、政令で定めるところにより、当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除する。
まず源泉徴収税額について、所得税額控除として法人税の額から控除できるという規定が法人税法68条にあります。
具体的な要件は「政令で定めるところ」なので、法人税法施行令をみてみましょう。
考察② 法人税法施行令 第140条の2 法人税額から控除する所得税額の計算
4 内国法人が次の各号に掲げる事由により当該各号に定める法人から配当等の元本の移転を受けた場合には、当該法人の当該元本を所有していた期間は当該内国法人の当該元本を所有していた期間とみなして、前3項の規定を適用する。この場合において、当該内国法人が当該配当等の計算の基礎となつた期間の中途で当該元本の移転を受けたときは、前項第2号イ中「元本の数」とあるのは、「元本の数(次項各号に掲げる事由により当該各号に定める法人が所有していた配当等の元本の全部又は一部の移転を受けた場合には、当該法人が当該開始の時において所有していたその元本の数に当該法人が当該事由の直前に所有していたその元本の数のうちに当該事由によりその内国法人に移転をしたその元本の数の占める割合を乗じて計算した数を加算した数)」とする。
一 適格合併 当該適格合併に係る被合併法人
二 適格分割 当該適格分割に係る分割法人
三 適格現物出資 当該適格現物出資に係る現物出資法人
四 適格現物分配 当該適格現物分配に係る現物分配法人
五 特別の法律に基づく承継 当該承継に係る被承継法人
六 連結法人への他の連結法人(当該連結法人との間に連結完全支配関係があるものに限る。)からの移転(前各号に掲げる事由によるものを除く。) 当該他の連結法人
上記の法人税法施行令140条の2第4項を要約すると、
「適格分割で配当の元本となる株式の移転が行われた場合には、元の法人の所有期間は移転を受けた法人(つまり分割承継法人)の所有期間とみなす」
ということですね。
そのため、分割法人と合わせて配当計算期間の間保有していれば、源泉徴収税額は所得税額控除として全額使えるということになります。
まとめ
前回の記事と合わせると、結論はこうなります。
(対象会社がそもそも子会社を長期間保有している前提で)
分割型新設分割で対象会社の子会社株式を新会社に承継させて、すぐに子会社から新会社に対して配当するとき、
・受取配当金の益金不算入規定は「関連法人株式等」として負債控除利子以外は益金不算入となる。
・源泉徴収税額について、所得税額控除は全額使える。
いかがでしたでしょうか。
なかなかマニアックな規定ですが、
「M&Aの売り手がM&A後にどのように残った資産管理会社を運営していくか」
のヒントになれば幸いです。