見出し画像

M&Aと組織再編税制③ 非事業用資産を適格会社分割や適格現物分配で別会社に移転するときの留意事項(繰越欠損金及び特定資産譲渡等損失の制限)

組織再編と繰越欠損金というと、合併による繰越欠損金の引継ぎの論点が浮かぶ方が多いと思います。

しかし、実は適格会社分割や適格現物分配についても、繰越欠損金への影響があるので注意が必要です。

論点:適格組織再編をすると、繰越欠損金にどんな影響があるの?

次の2つのケースにおいて、A社とB社の繰越欠損金にどんな影響があるのでしょうか。

①A社からB社(完全支配関係のある兄弟会社)に適格分割型吸収分割をしたのちに、M&AでA社を譲渡します。

②A社からB社(100%親会社)へ適格現物分配をしたのちに、M&AでA社を譲渡します。

回答:受け入れる側の会社に繰越欠損金がある場合、一定の要件を満たさないと消滅します。

いずれのケースにおいても、一定の要件を満たさないと、B社の繰越欠損金が消滅します。

一定の要件とは、どんなケースでしょうか。

条文を見てみましょう。

考察① 法人税法57条4項

なかなかの長文ですが、法人税法57条4項に、適格組織再編等が行われた場合の繰越欠損金について定められています。


第57条 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し
(省略)
4 第1項の内国法人と支配関係法人(当該内国法人との間に支配関係がある法人をいう。以下この項において同じ。)との間で当該内国法人を合併法人、分割承継法人、被現物出資法人又は被現物分配法人とする適格合併若しくは適格合併に該当しない合併で第61条の13第1項(完全支配関係がある法人の間の取引の損益)の規定の適用があるもの、適格分割、適格現物出資又は適格現物分配(以下この項において「適格組織再編成等」という。)が行われた場合(当該内国法人の当該適格組織再編成等の日()の属する事業年度(以下この項において「組織再編成事業年度」という。)開始の日の5年前の日、当該内国法人の設立の日又は当該支配関係法人の設立の日のうち最も遅い日から継続して当該内国法人と当該支配関係法人との間に支配関係がある場合として政令で定める場合を除く。)において、当該適格組織再編成等が共同で事業を行うための適格組織再編成等として政令で定めるものに該当しないときは、当該内国法人の当該組織再編成事業年度以後の各事業年度における第1項の規定の適用については、当該内国法人の同項に規定する欠損金額()のうち次に掲げる欠損金額は、ないものとする。
一 当該内国法人の支配関係事業年度(当該内国法人と当該支配関係法人との間に最後に支配関係があることとなつた日の属する事業年度をいう。次号において同じ。)前の各事業年度で前10年内事業年度(当該組織再編成事業年度開始の日前10年以内に開始した各事業年度をいう。以下この項において同じ。)に該当する事業年度において生じた欠損金額()
二 当該内国法人の支配関係事業年度以後の各事業年度で前10年内事業年度に該当する事業年度において生じた欠損金額のうち第62条の7第2項に規定する特定資産譲渡等損失額に相当する金額から成る部分の金額として政令で定める金額

長文ですが、こちらの骨子は
「一定の要件に該当しない場合、組織再編を受ける側の一定の繰越欠損金は無いものとみなす」
ということです。

一定の要件を順番に見ていきましょう。

①まず上記4項の中段あたりに、
「適格組織再編でも組織再編の期首時点で5年間の支配関係が継続している場合や、どちらかの法人の設立の日から継続して支配関係がある場合」には、
この条文の適格組織再編から除くよ(=つまり適用は無く、繰越欠損金は消えないよ)とあります。

②そして、後段あたりに、
共同で事業を行うための適格組織再編成等として政令で定めるものに該当しないとき」には、
この条文が適用されるよ(=つまり繰越欠損金が消えるよ)とあります。
つまり、組織再編の共同事業要件を満たす場合はセーフということです。

また、1号と2号において、消滅の対象となる繰越欠損金を次のように特定しています。

(1)支配関係が生じる前の事業年度以前に発生した繰越欠損金
(2)支配関係が生じた事業年度以後に発生した繰越欠損金で、特定資産譲渡等損失額からなる部分

つまり、
「基本的に消滅するのは、支配関係が生じた事業年度より前からあった繰越欠損金」
「ただし、支配関係が生じた事業年度より後に発生した繰越欠損金でも、特定資産譲渡等損失から生じた金額は対象になるよ」
ということです。

やや複雑になってきました。

では、特定資産譲渡等損失の定めについて見ていきましょう。

考察② 法人税法62条の7 特定資産譲渡等損失


第62条の7 特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入
2 前項に規定する特定資産譲渡等損失額とは、次に掲げる金額の合計額をいう。
一 前項の内国法人が同項の支配関係法人から特定適格組織再編成等により移転を受けた資産で当該支配関係法人が当該内国法人との間に最後に支配関係があることとなつた日(次号において「支配関係発生日」という。)前から有していたもの(政令で定めるものを除く。以下この号において「特定引継資産」という。)の譲渡、評価換え、貸倒れ、除却その他これらに類する事由による損失の額の合計額から特定引継資産の譲渡又は評価換えによる利益の額の合計額を控除した金額
二 前項の内国法人が支配関係発生日の属する事業年度開始の日前から有していた資産(政令で定めるものを除く。以下この号において「特定保有資産」という。)の譲渡、評価換え、貸倒れ、除却その他これらに類する事由による損失の額の合計額から特定保有資産の譲渡又は評価換えによる利益の額の合計額を控除した金額

こちらの骨子は、
・特定資産譲渡等損失とは以下のことです
・①組織再編で移転された資産のうち、支配関係発生日前から保有していたものについて、譲渡等で損失が発生した金額(ただし利益が出たらその利益を控除後)
・②組織再編の受け入れ側の法人が、支配関係が生じた事業年度より前から保有していた資産について、譲渡等で損失が発生した金額(ただし利益が出たらその利益を控除後)

ということですね。

何を想定しているのか、イメージできますでしょうか。

この規定では、次のようなケースを防ごうとしています。

・含み損のある土地を適格組織再編でX社に移した後に、X社で売却して損を出して、X社の利益と相殺して節税しよう

・含み損のある土地を持っているY社を買収して、自社の優良事業を適格組織再編でY社に移した後に、その土地を売却して損を出して、優良事業から出る利益と相殺して節税しよう

具体例で想定すると、頭に入ってきますね。
では、まとめです。

まとめ

論点
A社からB社に対して適格組織再編で資産や事業を移転すると、B社の繰越欠損金にどのような影響を与えるか?

回答
B社の繰越欠損金のうち、
・支配関係ができる前からある繰越欠損金
・支配関係ができた後に発生した繰越欠損金のうち、支配関係前から保有していた資産(組織再編で移ってきた資産も含む)から生じた部分
は消滅する。

ただし、
・組織再編をする期首時点で、支配関係が5年以上経っている場合
・みなし共同事業要件を満たす場合
は消滅しない。


いかがでしょうか。

実はこの論点に関する例外規定はまだ他にもあるのですが、まずは基本的な考え方を紹介しました。

特にM&A実務においては、
「分割型吸収分割で非事業用資産を既存の兄弟会社に移してから、対象会社を株式譲渡する」
スキームがちらほら見られます。

このケースにおいて、兄弟会社に繰越欠損金があると今回の規定の対象となります。

多くの場合、期首時点で支配関係が5年以上経過していることが多いですが、もし経過していないような場合には、上記の要件を丁寧に確認していきましょう。

私の活動が気に入って頂けた方は、少額でもサポート頂けると嬉しいです!