8/23 荷物を受け取った。差出人は「ラストマイル」
私は、いったい何がほしいんだろう。
ついに公開となった「ラストマイル」の初回鑑賞の感想やら微考察やらをつらつらと。ネタバレしかありませんのでご注意ください。
真面目に書こうと思っていますが、途中叫んでると思います。叫ばずにはいられない。この映画ってタイトルアベンジャーズだっけ?違うわ。
エンドロールを迎えて
会社を去ることになったエレナから後を託された孔の表情がクローズアップされたラストシーン、そして夜の渋谷の煌びやかな街を映し、画面はブラックアウトし、エンドロールに突入した。
嘘、ここで終わっちゃうんだ、と思った。この日を迎えるまで準備体操と復習を行ってキャパシティは厚く深くして臨んだはずなのに既に溢れてて。でもいつも器を閉めてくれるはずの蓋がどこにも見当たらなかった。
正直その時は「2人はがらくた」の2人が山崎佑と筧まりかだと言うにもどうも確証が持てず、ただ、スクリーンの壁から手が伸びてきて、壊しちゃいけない失っちゃいけない奪われてもいけないお届け先私の重〜い荷物をそっと、渡された感じだった。『あなたがほしいものは?』がずっと頭に残ってた。
(ただエンドロールのMIU404 メンバーの綾野剛 星野源 ←順番は覚えていない が並んでたことはめちゃくちゃ興奮したし望月歩でも興奮した )
ベルトコンベアの音
冒頭。1回目の爆発の裏で流れる女性の叫びのような不穏な劇伴。得田真裕音楽の真骨頂を浴び、まだ心は元気だった。
そして出てくる白いロッカーに書かれた 2.7m/s→0の文字。その裏でガッチャン、ガッチャン・・・と鳴る特徴的な音。
その後も度々重要な局面で流れていて、アンナチュラルでいう「コインの裏表」のような立ち位置だと最初はふわっと思っていた。後にベルトコンベアに流れる荷物を仕分けるときの音だと判明したが、山崎佑が残した2.7m/s→0のメッセージと重なってこそ意味を持つもののように思う。
そのリズムは一切崩れることはない、同じテンポを繰り返す。これが山崎にとっては憎かった。ただ仕分けするベルトコンベアの音だろうが、一瞬にして押し潰されるような圧も感じる音でもある。止めたかった。全てをゼロに、静寂に。
止まることを望んで身を投げた山崎佑の切なる願いも虚しく、その音は止まることなく、倉庫内に鳴り響き続けている。こうしたよく聞く音が重要な意味を持つ瞬間に立ち会えるのがなんとも嬉しい。真相は何も嬉しくないが。
舟本エレナとマジックワード
センター長に任命され"福岡"からやってきた舟本エレナの初出勤。エレナが乗る電車の広告にも「#あなたがほしいものは?」ブラックフライデーの宣伝PVが流れていた。後に筧が作らせた偽広告だと分かるのだが、アメリカから来たエレナには自社のジャパン広告事情などわかるはずもないのである。電車内の私たちも偽広告に踊らされ知らぬ間に購入欲を高められているんだろう。なんとも恐ろしい空間だった。
加えてこんな忙しくなるだろう日に就任なんておかしくない?と思ったのだが、赤いコートを身に纏い、派遣が詰められたバスを横目に重役出社するエレナを見て「この主人公大丈夫?」と早速ミスリードをお誘いされた。社員データを凝視、挙げ句の果てに削除、いやいやこれはヤバいでしょ!?と笑 野木さんもこの人が犯人なんじゃないか?と思われるぐらいにしたいとおっしゃっていたが、その通りになってしまった。
でもただ一つ、孔にロジスティクスセンターを案内され、"現場"の2階の柵に来た時、エレナが柵を転落防止ではなく「飛び降り禁止(防止?)」と言っていたこともあって、エレナが怪しいと本気で疑うこともできなかった。今思えば、エレナも山崎佑になっていたかもしれない1人なんだね。むしろ経験者なのかもしれない。
(あと今書くのは絶対に違うだろうけど、ロジスティクスセンターが全然言えなくて噛みまくる刈谷刑事がマジで愛おしい。捜査にきた刈谷がパス無しで入り口で止められて毛利さんに叱られるところまで可愛かった。)
その後も立て続けに起こる爆発。もしテロだったらどうする?もしもがないとは言い切れない。リスクを取ってでも動かなきゃ。センター長として出荷ラインは決して止めることなく、事態をやり過ごそうと奔走するエレナ。いつでもどんなときでもカスタマーセントリックなのだ。
全てはお客様のために。
エレナも自分が魔法にかけられてることは既に分かってたはず。5つ目の爆弾が爆発し、荷物を一つ一つ検査してから出荷することになったため出荷ラインが悲鳴を上げていた。メディカル便も遅れ、カスタマーセンターにすら繋がらない事態だった。その時、孔からなぜ止めないのか尋ねられ、エレナはそう答えていた。配送料を安くするのも、メディカルを止めないのも、「カスタマーセントリック」なのだと。私たちはお客様の欲望のために販売するんだと。
日本の物流構造
爆発事件が発生した情報は上から下へと流れていく。
五十嵐のデイリーファストジャパン本社⇔エレナ・孔の西武蔵野ロジスティクスセンター→八木と熊田の関東局オフィス→犬岡の羊集配センター→佐野親子の配達員…。次々と場面が切り替わっていくのが、日本の物流構造をあらわにしているようだった。
そしてその情報が伝わり、急な対応を迫られる末端で働く人たちの様子。『何言ってんだ、急には無理だろう。おかしいよ、意味がわからないよ。』声を上げても、ホワイトパスには一生かかっても伝わらない現実。
受け取り人不在で持ち帰りになるのみ配達料さえもらえない荷物。爆発したら怖いからと荷物を突き返されることもあった。悪い羊なんていないのに。
「ムカつく客殺してたら前科100犯だよ」
現場のこの言葉の説得力といったらもう、ね。
「日本回したって誰も大切になんてしてないよ」
佐野父(火野正平)が荷物を突き返された後に見習いの息子(宇野祥平)に語る佐野親子のシーンがやはり忘れられない。やっぱり影の主人公である。何人主人公いるんだよこの映画。
「お客様の手元に荷物が一つ一つちゃんと届くなんて奇跡。俺たちがこの国を回してんだって。死んだ"やっちゃん"の言葉」という佐野父の台詞。
1日200件、10分でお弁当を食う生活で体を壊して死んだ"やっちゃん"は、おそらく佑の父親。厳しい環境で働いている彼らには光が当たることはない。ドライバーの労働時間に上限を。実際どこまで現場に改革が施されるかはわからない。ずっともっと厳しい状況下に置かれるようになった人もいるかもしれない。だがその厳しい現実の中で誇りを持って懸命に働いている佐野親子の姿に胸が熱くなる一方、「日本回したって誰も大切になんてしてないよ」と叫ぶ声に、胸が痛くなった。
野木組で何度も経験している現象(?)だが、MIU404のすぐ後に企画された物語なのに「2024年問題」が浮き彫りになるのには唸ってしまう。凄すぎる。
MIU404
捜査では西武蔵野署や警視庁のMIU404のメンバーが躍動する!!と…カッコよく言いたかったが、ショッピングセンターの爆発で初動捜査に現れた陣場&勝俣くんバディで目頭が熱くなりすぎて目燃えた。勝俣くんも足を使って陣場さんと一緒に顔面配備してるのかなぁって想像したり。若者の未来はちゃんと守られている。でもここに九ちゃんがいないことだけが寂しかった。細かく見れば要素があるのだろうか…。
そして警視になった桔梗ゆづる元隊長が変わらずかっこいい。あんな大勢の捜査員に指揮を執っちゃうんだもん。メロンパン号にも検査機械が積まれ登場していたのもみうファンには有り難かった。会いたかったよ。
#あなたがほしいものは ?は偽広告であることが突き止められ、契約者(?)の山崎佑の自宅に乗り込んだのはあのバディ!「FAUST」の文字と共に聴き慣れたMIU404のアレンジ劇伴、得田さんと思わぬ通り、ニヤッとしました。ちっちゃく声も出ちゃった。無理でしょ、やっぱりこの2人が生きていることが嬉しいんだよ。いつものパトランプ。ノリノリの伊吹。ちょっと呆れ顔の志摩。何も変わってなかった。
「爆弾野郎なら銃出していくスタンス〜↑」
大好きな伊吹がそこにいた。出さないスタンス↑、そう答える志摩まで美味しい。
「きゅるっとしてた」
ワンワンの伊吹もそこにいた。でも"通訳さん"がそばにいるからいいよね。その感想から女性がいたという超重要な捜査方針になるんだもん。あとその通訳さんの頭のもじゃもじゃ感が増していたような、気がする。「キモくてすみません」じゃないのよ。愛かよ。
あとMIU本編#1で煽り運転の車調べるときに伊吹手袋すら持ってこなくて片っぽ借りてたが、今回は志摩に手袋持ってきた?って聞かれて持ってきたことを伊吹が誇らしげにアピールしていたのを見て、そ、そこの対比持ってくるんだ〜!と感動した。
どうでもいい会話でしょう?でも見た人は気づくでしょうっていう小ネタ。有難いよ。何にも知らない伊吹が最悪の事態になる前に止めたい、そんな一心でここまで来てんのよ。たがいながら手を取り合いながらここまできてんだ。これ以上爆弾は爆発させない、未然に防ぐ。絶対に生かす。「ラストマイル」にはMIU404のメンバーが絶対に必要な存在だった。
アンナチュラル
Day2でいきなり六郎が登場。メディカルデリファスの利用者…クゥ…繋げ方が上手い。あと1年あれば研修医を終えてUDIに戻れるのに…と窪田くんも言ってたけどそこだけが唯一悔しかった。しかし再び六郎が登場するシーンに映っていたはやぶさ便のバイト君の姿を見て流石に涙が止まらなかった。
#7殺人遊戯の犯人である白井くん。自分にナイフを向け「僕だけが生きてていいのかな」と吐き出す白井に中堂がかけた言葉は「赦されるように、生きろ」だった。生きていてくれてありがとう、ただそれだけを思った。
白井くんの登場の後にはついにUDIラボのメンバーの面々が登場する。1人の若者を生かした彼らにバトンが繋がれる展開にも胸が熱くなるばかりだった。
そこからはいつものテンション。ミコトと東海林、所長。紙がなくて騒ぐ坂本さんにクソ!とは言えない契約になっている中堂さん。もう言葉いらないですよね、好きでしょこんなの。
それで木林はなんなんだよ。なんだよあの怪しい葬儀屋。後半にワンシーンだけ、え、何なんだ?未視聴の人マジで分からんでしょ?安心して、私もよくわかんないよ。次回はちゃんと会話を聞こうと思う。
サプライズ
5件目の爆発の後、エレナが山崎佑の社員データを消すタイミングで佑が中村倫也だと気づいた。な、なんというサプライズ〜!もっと声が聞こえてきそうだったけど劇場内は割と静かだった。でも確かに呼吸が揃ったのは感じた。心が見えるってこういうことなんだな。
エレナは犯人なのか
そんな山崎佑は5年も前から意識障害で眠ったままだったと明かされる。運ばれてきた当時、山崎は「バカなことをした」そうつぶやいたという。この時点ではただ自殺未遂をはかったことを後悔していたという解釈にしか至らなかった。
この辺りで登場したのが山崎の恋人の存在だ。佑の父が会社への訴訟を依頼したという夏代の証言によると、恋人はデリファスが嘘をついていると訴え続けていたが、お前のせいだと父親にも責められていたことが明らかになる。
そして急な変更でセンター長として赴任、データベースには経歴もない、頑なに出荷ラインを止めようとしないエレナを孔は山崎の恋人だと疑う。山崎のマンションのエレベーターの防カメに映る姿もエレナに見えてしまうマジック。
しかし全部がミスリードだった。言い合いで雰囲気最悪になったコントロール室で、場を取り繕うとエレナは注文したやきとり四目並べを箱から取り出そうとするが、実はそれが第6の爆弾だった。さっきまでお前めっちゃ怪しいねんって顔してエレナを見ていた孔も協力する。エレナの口からは防カメの女=佑の恋人である筧まりかとワシントンで会ったこと。爆弾処理班を待つ中、自分の過去のことが語られる。(筧まりかには仁村紗和さんのキャスティング。抜かりがない)
「ブラックフライデーが怖い」
ブラックフライデーの前日に、山崎佑は飛び降りたのだ。
初めはやりがいを感じた。2年目は順調、3年目、ついに眠れなくなった。もっとやらないと、頑張らないと。エレナも無理して仕事して体壊して3ヶ月休職したという経験を経て、センター長になったのだ。
爆弾が目の前にある。この手を緩めてしまったら孔も含め全てが吹っ飛んでしまう、何十億円の損失が生まれる可能性だってあった。しかしこの緊迫状態が、エレナと孔の距離を一気に縮めるきっかけとなっていた。爆弾解除後、2人は現場となったコントロール室で温かい飲み物を片手にソファあたりに腰をかける。はじめは食堂で行った撮影を、満島さんの提案によりコントロール室と変更したようで。
場所はどこでも変わらない…わけはない。安心を求める、日常を求める。緊張から解き放たれた時、身体を伸ばしたくなるあの感じ。これは当事者となった演者にしか解らない。信頼の安心の俳優陣だな…ということをここでも再確認した。
放置され続けたロッカー
そして明かされる、山崎佑が飛び降りた理由。佑のロッカーに残されていたのは
の文字だった。荷物を運ぶベルトコンベアの速度と重量制限、そして「0」…。エレナは泣き崩れた。
佑はこの仕事に誇りを持って働いていたのだろう。でも眠れなくなった。全てはお客様のために、絶対に止めてはならない頭の中で反芻するようになった。呪いのようにこびりついた。言葉に使われてるんだと、自覚した。
きっと同じように過酷な労働を強いられる人たちがいる、自分が、自分の命でこの社会に一石を投じよう。自分が、稼働率を→0にするんだ。
私がほしいのは「0」
しかし稼働率が低下し、警告音が鳴り響くだけ、ずっと止まることもなく再開し、ベルトコンベアは動き続けた。無情にも50%を示していた。同僚だったであろう五十嵐も上着こそ掛けてくれたけど何も汲み取ってくれやしなかった。ここまで稼働率が表示されるモニターが何度も映っていたのもあり、止めることができなかったことがスッと入ってくる。
「バカなことをしてしまった」
病院に運び込まれた時、六郎が聞いた佑の言葉がフラッシュバックする。一定のリズムを刻む、あの不快な音も鳴り続いたのを佑は横たわりながら聞いていたんだと思う。
飛び降りたことを後悔してバカと呟いたというより、一石を投じた自分の行動には何の意味もなかったと呆れていたのかもしれない。デリファスを訴えないと覚書を交わしていたのも、何したって無駄だと悟ったらからなのだろう。
佑が飛び降りて5年。ロッカーのメッセージが今も残されたままだ。佑のロッカーはホワイトパスの社員に何度も開けられた回想が流れる。しかしその扉には光は当たることはなく、すぐさま暗闇に葬り去られる。
「誰も何もしなかった。だから今があるんじゃない?あなたも私も1人残らず。」
と当時共に働いていた唯一の同僚・五十嵐にエレナが掛けた台詞が重なるようで。
きっと佑が飛び降りた理由に気づいた人もいただろう。消されずに残されているということは、重要なメッセージがあると思ったからなんだろう。だけど誰も動こうとしなかったし、誰も訴えなかった。皆見ないふりをし続け、またお客様の欲望のために、過酷な場所へかえっていく。
爆弾が爆発するなか出荷ラインを止めないエレナも言っていたことだ。「死んだ人は知らない人、だって世界中で今も誰かが死んでいる。なのに大騒ぎして」。知らないフリできるなら知らないフリするよね。
他人事で片付けていいこともある。自分の人生だから、自分が一番でなくっちゃいけない。そんな心の余裕なんて元から待ち合わせてない。生きることで精一杯だから。
そんな"無関心"が造った脆い平和の中で今の社会は回っている。
山崎佑が一番ほしかったものは、この世界には存在しないのである。
爆弾を爆発させたのは、あなたなのかもしれない。そんなメッセージに心が大きく揺さぶられた。
止めませんよ、絶対
物流が止まれば世界が止まる。
止めるのは爆弾か、世界か。
そんなフレーズが予告でも登場していた。そのくらい物流が社会に血管のように張り巡らされていて、どこかが悪くなれば芋蔓式のように悪くなっていって、音を立てて崩壊していく。だから一本の血流も途絶えさせてはならなかった。
エレナには使命感があった。3ヶ月も休職していた自分に舞い込んだセンター長の仕事。サラの思惑などつゆ知らず、出社初日はウキウキしていた様子も伺えた。しかし、身を投げ打ってまで止めようとした佑の思いを知り、無視はできなかった。デリファス12ヶ条に使われ続けた将来の自分と重なる部分も大きかったのだと思う。
「止めたい」
デリファスに依存し、限界を超えくたびれた羊急便関東局の八木。「やめよう」「遠くまできてしまった」と哀しそうにボヤく八木のもとで、エレナは「やめた方がいいです、せーので!」と提案する。これには驚いた。止めるんだ、と。
そして集団ストライキを起こす。100万個以上の荷物が届かない大騒動の中、多くの配送業者の申し入れ書を手に五十嵐に詰め寄る。
交渉に応じることになると、部長クラスの人材も投入し一気に配達が再開される。どれだけの人がこの瞬間を待ち望んでいたのか、いろんな気持ちが溢れてならない。タンバリンが近くにあったら多分鳴らしてた。そのくらい心躍った。本当に小さいカケラみたいな希望が色々なところに散りばめられているのがちゃんと視聴者に届いてる。これが魅力の一つでもあると感じる。
(ずっと上と下にサンドイッチにされてきたであろう羊急便の八木さん。社長と知らずに啖呵を切ったり、荷物確認の任務をほっぽり出してベンチに横たわったり。ずっと怒っていたような気がするけど、後半晴れやかな顔つきになっていくのがまた良かった)
筧まりか
ブラックフライデーの10日前、目玉商品のラインナップから商品を購入し、爆弾を仕掛けた後に物流代行サービスを経てセンターに納品。示しのシールをはがしてデリファスの商品として出荷した人物がいることを2人は突き止める。その人物こそ、山崎佑の恋人であり、エレナにワシントンまで会いにきた、筧まりかだった。
そしてUDIラボに運ばれたのは、最初の爆弾の被害者、唯一の死者の"里中"のご遺体。ミコト達は解剖の結果、ご遺体はまだ若く、生きたまま爆発を受けたことを突き止める。
遺体が教えてくれたこと、それはまりかが佑の行動を無駄にしたくなかったという思いだった。自分のせいだと思えた方がまりかにとってもきっと楽だったと思う。
「もし死んだのが私のせいじゃないとしたら…」
「この世界は罪を贖ってくれますか?」
しかしエレナに会った時に言ったこの言葉にもあるように、罪を賄ってくれるはずはなかった。自分が、やるしかなかった。
「一番知りたかった答えはロッカーの中にあったのに」
今度こそ、"世界を"止める。
「見上げた根性だな」
「そんな根性なら、ない方がいい」
ご遺体の指にはめられていた指輪を見た中堂とミコトのこの言葉も忘れられない。
作られた爆弾のうち1個は不具合の爆弾だった。まりかはその不具合の爆弾とカセットコンロにも火をつけ、あの日の夜、死んでいった。まりかの顔や体が燃えていく様が印象的でどうも頭から離れない。
まりかのしたことは決して許されない。何が理由でも人を殺めようとしちゃ駄目なんだよ。いろんな台詞が思い出される。デリフォンに仕掛けた爆弾だけが人を殺めた。筧まりかの願いは叶ったんだろうか。
本当のマジックワード
12個あると見せかけて実は11個。ありもしない爆弾を永遠に探し続ける、私ならそうする。とエレナは言っていたし、不具合が一個なら全部見つかったことになる、と刈谷も毛利も向島も一同大喜びしてた…がそんなことで終わるはずもなく…。じゃ、じゃあまだ残ってるってこと!?とエレナと一緒に私も叫んだ。
最後の爆弾は羊の枕の安眠グッズ。他にもアロマだとかが爆弾になっていたが、まりかが爆弾として選んだ商品は佑のことを思ったものばかりだったということになる。が、無情にもその思いと同じように、安心して眠って欲しいと願いがこもったママへのプレゼントとして松本家の娘達が購入したものだった。
箱を開ける以前に、衝撃を受けただけで中の液体が混ざり合い、爆発する。演出で赤と青の液体が混ざり合う描写が挟まれるのがなんとも恐ろしかった。
受け取り番号である404を押し、その商品は松本家についに届いてしまう。エレナが商品購入者を突き止め電話をかけるも話は通じない、このままではいつ爆発してもおかしくない。今度こそ止めなきゃ、最悪の事態になる前に…!
ここでヒーローになっちゃうのが、佐野親子なんですね。荷物を届ける、最後の区間、ラストマイル。この仕事に誇りを持って懸命に働く、表舞台でスポットライトが当たることのないような、そんな2人が、そして倒産してしまいがらくた扱いされるようになったHinomotoの洗濯機が、家族を救った。
爆破に耐えられたからってまた会社をやり直せるわけでもないし、あの洗濯機も修理されることもない、この製品はスゴイ!なんて…報道され、日の目を見ることも、多分ないんでしょう。労働環境だってきっと変わらない。
でも佐野さんのどこか一矢報いて誇らしげなあの表情には、翳りはなかった。
404は最悪の事態になる前に止められる、本当のマジックワード。ここに気がついた方がいらっしゃって、本当にその通りだなと。この言葉になら、ぜひ使われたいな。
2人はがらくた
エンドロールで流れる「がらくた」は色んな思いを連れているようで。
許せなかった何もかも全てを ずっとあなたを否定してきた、その全てを。それでも、壊れていてもかまわないから、僕のそばにいてほしい。なくしたものがどこにもなくても、どこにもなかったと、また笑ってほしい。上手くできないまま、歌う二人はがらくた。
がらくたの中の二人は、やっぱり、止めることができなかった山崎佑と罪を犯してしまった筧まりかなんじゃないかな。
託された未来
エレナは解雇されることになった。出荷ラインを止めたことによる損害は大きかったらしい。本社に送られてきた脅迫メールを見たサラが、半ば捨て駒として送り込んだのがエレナだったらしい。
エレナが松本家のマンションに爆弾が入ってない 安眠枕を届けに来て、無事ママの手に渡ることになった。この時すでに自分が辞めさせられることもわかっていただろうし、そのつもりで止めちゃったわけで。
警察車両の後部座席に横たわるエレナ。何だこいつ!って毛利達?は呆れてたけど、ようやく、ようやく眠ることができたんだよね。それとその構図が飛び降りた佑と同じようで。パンフにもあったけど、この物語はある種横たわる物語なんだと。エレナが佑に、あなたももう安心して眠っていいんだからねって言ってるような気がした。
残された五十嵐。
エレナの言う「爆弾のプレゼント」はきっとロッカーのあの文字。五十嵐が必死こいて探すもロッカーの鍵はない。飛び降りたことを唯一知っている五十嵐が同じ場所に立ち、ベルトコンベアを眺めるシーンはとても印象深かった。生きてさえいれば、何だってできるんだから。
残された梨本孔。
エレナの「あなたは何が欲しいの?」という問いに「何もない」と答えていた孔。これまで何も見てこなかったのだろう。そんな彼にエレナはその後を託すことになる。この先、鍵を手にデリファスを訴えるのか何もしないのか、その未来を知る術はない。
ラストシーンの孔の何とも言えぬ表情の続きを描くことが、視聴者側に出された宿題だ。
#わたしがほしいものは
渋谷の街が映されて本編が終わるが、ふわっとした印象を受けるかもしれない。でも敢えてスッキリしないエンドになっている。何を隠そう、ラストマイル=最後の区間を任されているのは鑑賞者。
善良だけど何の危機感も、問題意識も感じてこなかった見て見ぬフリをしてきた私を含めた人達に、きっかけとなる荷物を届ける物語。
この荷物を大切にしまっておいたら、きっと意味がないはず。孔の存在は、私たち。
ここまで、受け取った荷物を開封してきた。一度見ただけじゃ全てを取り出すことはできていないから、人生の中で何度も整理をし直すんだと思う。
#わたしがほしいものは
その問いかけに私なら
感想をまとめて
って、まだ答えられないよね。この空白に当てはまる言葉をこの先見つけられるかどうか試されている気がする。
記憶とパンフレットとメモを使いながらこの期間ずっと浸ってきました。そりゃ連続爆破事件なんて聞いたらドラマオタクな自分ウッキウキでしたけど、大好きなアンナチュラル、MIU404と世界が繋がって豪華メンバーが勢揃いのアベンジャーズ映画っていう点だけでも大盛り上がりで!でもそんな浮ついた気持ちはどんどん沈んでいってしまったし、どうせ食わないだろうとポップコーンは持っていかなかったけど、飲み物は結局二口しか飲まなくて。
いつか、どうか、ポップコーンと酒を片手に見られる日がくるといいなぁと思うばかりです。
※8/30 2マイル目の鑑賞で台詞等の記憶違いが判明したところは修正しました。2.7km/sって早すぎだろ。失礼致しました!