【エッセイ】のんきな母が、行動力を見せる時。
母は、おっとりした人だ。
良いところでもあるのだが「どっちでも良いよ」「あんたに任せるわ」と人の意見を尊重してくれる反面、決断力があまりない。
どちらかというとせっかちな私から見ると、少しヤキモキしてしまう時もある。
そんな母だが、びっくりするくらい行動力の時がある。
私が体調を崩した時。
そんな事が頭に浮かんだのは数年ぶりにインフルエンザになった数日前のこと。
38度の熱が出て一度落ち着くも、再度発熱。検査を受けると“陽性”。
そんな私を何か察知したように、母から電話があった。
インフルエンザだった。と伝える。
タイミングよく週明けの数日も休みを取っていたので同居人にうつしてもいけないしどうしようかなぁ、と取り留めもなく話を続ける。
「じゃあ迎えに行くわ」と電話越しの母は言った。
熱が下がったら自分の車で帰ろうかなぁとぼんやり考えていた私よりも母の提案は迷いがなくきっぱりとした早さだった。
その後、父も加わって話をして両親揃って迎えに来てくれる事となり、だるい体でふぅふぅ言いながら最低限の荷物をかばんに放り込む。
荷造りがひと段落して、父母の車が到着するまでもう一度ベッドに横になる。
天井の木目を仰ぎ見ながら、「そういえば、前にもこんな事あった。」と母の迷いない行動力を思い出したのだった。
5、6年くらい前、親元を離れて湘南でホテルに勤めていた頃、とんでもない忙しさと人間関係の複雑さを体に溜め込み過ぎたのか倒れてしまった事がある。
病名も、救急車に運ばれたのかも今は思い出せないが、病院で点滴に繋がった腕と「しんどくて辛い」と泣きながら母に電話をした事だけは鮮明に思い出す事ができた。
その電話でも母は、迷う事なく実家のある愛知から湘南まで来る事を選んでくれた。
新幹線で来てくれたのか、車だったのかは思い出せないが、どちらにしても普段父の運転で家族で旅行するくらいしか遠出をしない母とっては長旅である事に変わりはない。
連続する目眩にふらふらの状態だったが、娘のことを思っての選択をしてくれた母に尊敬の思いを抱かずにはいられなかった。
インフルエンザもすっかり治り、実家からわたしの住んでいる家に戻る途中で母とご飯を食べようか、という話になる。
近くのおいしいうどん屋さんに行く?母の帰る時間もあるし、何か買って車で食べる?
と母に色々提案をしてみる。
「あんたに任せるわ〜」とのんきな返事が返ってきた。
相変わらず母は母のままだが、たまに見せるその迷いない行動力を思い出すと、
あたたかい気持ちにならずにはいられない。