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北欧のコト | Everything is right


“間違いなんてないよ”

アートの先生から習ったことです。

デンマークにいたころ、わたしはアートクラスの生徒でした。
絵が好きでクラスに入ったわけではありません。
受けたい授業が満員で、たまたま空きがあった絵を描く授業をとることになったのです。


真面目に絵に向き合うのは小学生のときの写生大会以来。
幼いころは絵を描くのが好きでした。
なのに、いつしか絵を描くなんて頭にも浮かばないようになっていました。
絵心ないですよと言うほど。
そんな絵を描くことに対して後ろ向きだったわたしが、それから学校で過ごした半年間、何よりも絵を描くことに夢中になりました。

授業は天井が高くて、大きな窓がある教室で行われ、1人1台大きな作業台がありました。
いちばん最初の授業で渡されたのは、鉛筆1枚と紙1枚。
その次の授業で渡されたのは、色鉛筆2本と紙1枚。
3回目の授業で渡されたのは、色鉛筆4本と紙1枚。
この画材を使って、有名な画家の絵を模写しました。
そのあとの授業からはパステルでも水彩絵の具でも油絵の具でも、自由に画材をえらぶことができました。

先生から何かを描きなさいとという課題をいわれることはありません。
使い方だけ教えてくれて、あとはやってごらんというような感じです。
何をしたらいいかわからないという人には、風景やポートレートといったテーマが与えられていましたが、必ずやりなさいというものではありませんでした。

なんなら、もしあなたが絵を描きたくない気分なら描かなくてもいいし、外に散歩に行ってもいいと先生は言いました。

デンマークの教育はその人の意思を尊重してくれます。
先生は生徒にやり方は伝え、生徒は自分でやりたいことを探して自分の中からアイデアを探していくのです。

放任主義なわけではありません。
行き詰まったときには、相談するとアドバイスをくれますし、調子はどう?と頻繁に声をかけてくれます。
プレッシャーがなく自由を感じますが、日本のように受け身だと何もできずに終わってしまいます。
とにかく自分で考えることが大切とされていました。

絵と真剣に向き合ったことがないわたしは、最初は何をしたらいいかわからず、この教え方にむしろ物足りなさも感じていました。
だけどその反面、プレッシャーを感じることがないアートの時間がとても好きでした。

アートの教室で画材や紙と向き合っていると、次第にあ、今これを絵にしたいと思うようになりました。
今感じている感情や、印象に残っている風景を描いてみようと。

教室は24時間空いていて、たくさん画材が置いてありました。
鉛筆、色鉛筆、水彩、パステル、アクリル、油絵の具など使いたい画材を好きなだけ使うことができました。
全部の画材を試してみて、いちばんワクワクして絵を描くことができたのが、油絵の具です。

油絵の具は乾きが遅いので、ゆっくり描くことができます。
それがわたしの性にあっていました。
レイヤーしたり、ひっかいたり、盛ったり、表現方法もさまざま。
空き時間にはアートの教室でひたすら絵を描きました。
朝早起きして、だれもいない教室で絵を描く時間が本当に好きでした。


学期の最後に絵の展示を行ったあと、友人があなたの絵を買いたいと言ってくれました。
ふざけていくらだったら買ってくれるのときくと、あなたはアーティストなんだから自分で決めてと返されました。
わたしは彼女の買い物の仕方や選ぶモノが好きだったので、とても嬉しい気持ちになりました。
彼女の買いものは、最初はそれ買うのと疑問に思うようなものを買います。
だけどだんだんと、彼女の買っているものがキラキラして見えてくるのです。
リサイクルショップでは何色も入った絵の具のボックスを買うようなそんな彼女です。

デンマークで過ごしている間、わたしは彼女に助けられたことが何度もあったので、絵をプレゼントすることにしました。
いつか、その絵が価値のあるものになるようにこれからもっと頑張ろうと思いました。
日本に帰る前、彼女はわたしの絵をお気に入りの場所に飾ると約束して、さよならしました。

絵はわたしにとって居場所です。
英語で言葉を正確に伝えられず、モヤモヤしていたときも、絵は自分をありのままに表現することができました。
だれとも話したくない、考えごとをしたい、嬉しいことがあった、綺麗なものを見た、全部受け止めてくれるような気がします。

絵は何を描いても間違いではありません。
道を描いて、それを他のものに捉えられてもいいのです。

”Everything is right “
いつまでも忘れたくない言葉です。


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