「和文英訳演習室」に挑戦 2025年1月号
はじめに
2025年も演習室をつづけてまいります。今年もよろしくお願いいたします。「そもそも演習室ってなに?」という方は↓の記事をご覧ください。
今回提出した訳文
全体の感想など
今回の課題文は、ゆる言語学ラジオのゲストでもおなじみの今井むつみ先生の新書からの出題です。似たような用語をどう訳しわけるか、何度もくりかえされる部分をどう言い換えるかに悩みました。
また、課題文はふたつの段落から構成されていますが、訳文では3つのパラグラフに再構成しました。パラグラフ1が導入→パラグラフ2が熟達者について→パラグラフ3が達人ついて、という具合です。
第1段落
「熟達」についての導入。
1-1、1-2
この場合の「つづける」とは「学習をつづける」「学びつづける」ことでしょう。なので、do(ing)みたいなふわっとした単語よりlearn(ing)と具体的にしておいたほうがいいかとおもいます。
また、「もし人がなにかを長く学習すると」という条件節にするよりも、「なにかを長期間学習すること(Long-term learning of something)」というふうに名詞句に圧縮して無生物主語構文にしたほうが英文がしまりますね。
「習熟」と「熟達(者)」、それから1-3にでてくる「達人」などなど、それぞれ意味がかぶっているところがありややこしいですね。これらは今井むつみ先生の専門である認知科学(心理学)の術語かもしれません。
いろいろ辞書などをみてまわって熟達者はexpert、達人はmasterにきめました。これらの単語以外に「学ぶ」系の単語もたくさんでてきますが、できるだけ言い回しにバリエーションをもたせるように注意しました。
大きく変わった「行動」の中身は、第2段落で具体的に語られています。
1-3
ここから熟達者のくわしい説明になるので、訳文ではここから第2パラグラフにしました。
ここでの主題はもちろん「熟達者」なので、the word "expert" tends to …というふうにはじめます。
この1-3における「達人」と、2-4以降にでてくる「達人」は別物のようにおもえます。前者は本当にごく限られた人々しかなれない達人ですが、後者は学習を続けてさえいれば現実的に到達できる達人でしょう。
そこで、この1-3の「達人」はmasterではなく、wizard(鬼才、天才、名人)にしました。
「普通の人はしない(できない)」は、「普通」をどう表現するかがむずかしいですね。また「しない(できない)」もやや抽象的ですし否定形なので、言い方を工夫したいとおもいます。
「選ばれしものが従事したり、得意としたり(chosen ones engage or excel in…)」とかんがえるのはどうでしょう。
特別な分野の例として「スポーツ」や「芸術」はわかりますが、「技能」が個人的にわかりにくく感じます。一応、crafts(工芸)としてみましたが、著者の想定しているものとあっているかどうかわかりません。
この部分はながいので、独立した文としてわけることにしました。ただの羅列ではなくグルーピングしてもよかったかもしれません。
1-4、1-5
「しかし」をいつもbutと訳していいのかは慎重にかんがえたいところ(逆にbutを毎回「しかし」と訳していいのかも然り)。1-3で「考えがち」にたいして「それどころか」ということで、On the contraryが適当かなとおもいました。
1-5の訳し方はかなり悩みました。「〜は〜である」を安易にbe動詞をつかってS is Cにしたくなかったので、アレコレかんがえました。
学習すること=大なり小なり熟達していくこと。2-1、2-2で語られるようになにも特別なことではなく、おぼつかないことができるようになればそれが熟達者の証ということなのでしょう。自分の英文でそれがうまく伝わっているのかが自身がありません。
どうせなら、practice makes perfect(練習すれば完璧になる)ということわざでもよかったかなとおもったりもします。
1-4と1-5は特にむすびつきが強い文だとおもうので、セミコロンでつないでみました。
第2段落
「熟達者」とはどういうものか、そしてその先にある「達人」の域について語られる第2段落です。わかりやすく伝えようとしてか、同じ言い回しが繰り返されているところもあるようにおもえます。
2-1、2-2
課題文ではここから別段落ですが、ひきつづき「熟達者」の話なので、1-5につなげて第2パラグラフとして構成しています。
2-1の「判断や行動をする」はperform(こなす)の1語にまとめます。そこに「素早く、的確な」のquickly and accuratelyをたして完成……としたいところですが、これらの副詞は2-4でもつかいます。なので、この2-1では品詞をかえてdeliver a quick and accurate performanceとしました。
つづく2-2でも「スムーズに素早く正確にできたら」と似た表現がでてきます。ここでquickやaccurateをくりかえしても冗長になるので、In this manner(このようなやり方で)とまとめました。
そこにeffortless(無理のない、ごく自然な)をくわえることで「意識的に注意を向けなくても」の部分をまかなえるかなとおもいます。
また、ここで「もし〜できたら、それが熟達者の証になる」というふうに条件節をつかうと文がながったらしくなります。そこでまず「このようなごく自然なやり方で、彼らはかつて馴れなかったことを扱う」とかいて、コロンをはさんでThat defines experts(それが熟達者を定義づける)と締めてみました。
2-3、2-4
話が「熟達者」の先にある「達人」へと展開していくので、ここから第3パラグラフにしてわけることにしました。
2-3の「しかし」は素直にhoweverでもいいかもしれませんが、still(それでも)のほうが文意に即してるかなとおもいました。
「(熟達はそこで)終わりではない」という否定形は「(熟達したあとも)学びつづける」という肯定形におきかえます。ここではcontinue self-improvementとしました。
2-4は、はじめ「Aの先に、Bがある」はAbove A, lies B.というふうにかんがえました。しかし、自分の訳文ではずっとヒトを中心にかいてきたつもりなので、ここでもthey(= experts)を主語にし、2-5とつながるようにしました。
2-5、2-6、2-7
2-5は、はじめ「達人(の域に達した)と誰もが認める人」をpeople widely accepted as a masterとしかんがえました。asなしでそのまま形容詞句としてつかえるようだったので、widely accepted mastersと短くきりつめました。
「学びに終わりはない」も2-3同様に肯定形になおします。ここでは2-3をすこし書き換えたようなimprove themselvesにしてみました。
2-6は「〜にもかかわらず(あるいは、〜であるから)」というのをIn spite of (or perhaps because of)とかいてみました。パンクチュエーションはいつも結構不安なのですが、(or perhaps … )はどこかでそういう英文をみたことがある気がするのでおそらく大丈夫かなとおもっています。
「学びつづける」は2-3や2-5よりもうすこし具体的にkeep developing their skillsというふうにしました。
2-7の「誰にも真似できない」は、2-4の「他の人には真似ができない」とかぶるので、別の表現をつかいたいところです。beyond compare(比類なく、比べものにならないほど)をつかってみました。
これ自体はIDIOMATIC300にはのっていませんでしたが、beyondをふくむ表現はいろいろあって使い勝手がよさそうです。
訳文検討会
※後日追記予定
成績・講評
※後日追記予定