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worth doing……目的語をとる形容詞とは?

 先日「黄リー教を楽しむ会」のDMグループのなかで「busy doingのdoingはなにか?」という話題があがりました。この質問自体には比較的すぐに答えがでました。
 そこから個人的に類例などをしらべていくなかで「目的語をとる形容詞」というものがでてきました。形容詞なのに目的語がとれるとは一体? このF.o.R.の原則からはずれた(しかし、決してめずらしくはない)文法項目についてしらべたことをまとめてみました。




busy doingのdoingは動名詞か現在分詞か?

 まず、最初の話題についてです。busy doing(〜するのに忙しい)というよくある熟語的な表現ですが、このdoingは動名詞でしょうか?それとも現在分詞でしょうか?
 結論から先にいってしまうと、このdoingはbusy in doingから省略された前置詞inの目的語、つまり動名詞にあたります。inの省略されたbusy doingのカタチがつかわれるようになった今は、現在分詞としてもとられることもあります。

 以下、文法書での説明をみてみましょう。

Q&A 82 <busy ~ing>,<go ~ing>は分詞か動名詞か?
 <busy ~ing>はbusy in ~ingのinが省略されたものとされる。そこで,この~ingを動名詞とする見方もあるが,現在では実際にはふつうinがないわけであるから,現在分詞と考えてよい。 (後略)

綿貫陽ほか『ロイヤル英文法 改訂新版』旺文社(2000年)p.535

④分詞を使った慣用表現

(中略)

be busy (in) 〜ing(〜するのに忙しい)
 in 〜ingとする場合,〜ingは動名詞扱い。
・・My sister is busy studying for the exam.
  (妹は試験勉強で忙しい)

have difficulty (in) 〜ing(〜するのに苦労する)
 in 〜ingとする場合,〜ingは動名詞扱い。
・・My brother is friendly and has no difficulty making friends.
  (兄は気さくで,友達作りに苦労しない)

赤野一郎監修『総合英語able』第一学習社(2019年)p.255-256

 ここにあげた2冊以外の文法書でもだいたい似たような説明になっていることでしょう。

 「現在では実際にはふつうinがない」ということなので、ためしにbusy in preparingbusy preparingをGoogleNgramで比較してみてましょう。すると1845年ごろをさかいに、前置詞inの省略されたカタチのほうがよくつかわれるようになっていますね。


 ついでに、この前置詞が省略される類例として、spend O (in) doing(〜するのにOを費やす)という表現も紹介しておきましょう。
 過去に薬袋先生が出題した「…I've spent a lifetime identifying this or that disturbing factor…」という英文について以下のように説明しています。

spent は③で、identifying の前に前置詞inが省路されていて、動名詞identifying (の「前の動き」)は「省略された前置詞inの目的語」です。たいていの英和中辞典はspend a week (in) writing a paper(レポートの作成に1週間を費やす)のように表示しています。ロイヤル英和辞典には「V+O+in+N(-ing)▶特に〈口語〉ではinは省路されることが多い」と書いてあります。

↓引用元はこちら



worth doingはどうだろうか

 さて、前置きがながくなりましたが、ここからが本題です。
 busy doingといっけん似ているworth doing(〜する価値がある)という表現についてかんがえてみましょう。

 辞書でworthをひいてみてください。おそらく前置詞として掲載されているとおもいますが、辞書によっては「形容詞とみなすこともある」とかいてあったり、すこし古めの辞書だとそもそも形容詞に分類されていたりします。
 薬袋先生も過去に黄リー教で扱っていない事項として「目的語を必要とする形容詞worth」をあげていました。

 この目的語を必要とする形容詞とはなんなのでしょう? なぜworthを前置詞としてとらえないのでしょうか?

 以下、文法書での説明をみてみましょう。

[3] 目的語をとる形容詞——前置詞用法
 形容詞のなかには目的語をとって前置詞のように働くものがいくつかある。ふつうの前置詞と違うのは,比較変化をし,veryで修飾できることである。しかし,比較変化はしても,目的語をとっている場合には前置詞とする見方もあり,最近はこの扱いのほうが多くなっている。代表的なものとして like,unlike,worth,nearがある。
 Jane is more like her father than her mother. 〔比較変化〕
 (ジェーンは母親よりも父親に似ている)
 Jane is very (much) like her father. 〔very で修飾〕
 (ジェーンは父親によく似ている)

綿貫陽ほか『ロイヤル英文法 改訂新版』旺文社(2000年)p.277-278

 ……はい! もう結論にたどりついてしまいましたね。知りたいことがそのままズバリかいてありました。

 あまりworthの品詞について言及している本自体が手元にないのですが、ほかの文法書だと以下のような感じです。

【参考】次のような目的語をとる少数の形容詞は,また前置詞と見ることも
できる。
(a) This vase is worth ten dollars. (この花びんは,10ドルの価値がある.)
(b) My house is near the lake. (私の家は,その湖の近くにある.)
(c) Bill's father is like him. (ビルの父親は,彼に似ている.)

安藤貞雄『基礎と完成新英文法 改訂版』数研出版(1987年)p.253

§31. 目的語をとる形容詞
◇形容詞の中には目的語をとるものがあり,語法上重要である。これらは,目的語をとる場合には前置詞とみなされることが多い。
like(似ている) near (近い) opposite(反対の) unlike(似ていない) worth(価値がある)
ボイント ① 上記の語は形容詞としても用いるが,名詞または動名詞を目的語にとる用法もあり,この場合には前置詞扱いにすることが多い。

綿貫陽『英語語法の征服[改訂版]』旺文社(1996年)p.80


 前半でとりあつかったbusy doingのdoingに話をもどしますと、もともと歴史的には動名詞ですが、前置詞を省略することのおおくなった今では現在分詞としてもとらえることができるということでした。
 これらはいずれにしても、結局は副詞句として前の形容詞(spendの場合は動詞)を修飾しているので、ゼッタイ動名詞だ!いや現在分詞だ!とこだわる実益はあまりなさそうにおもえます。

 しかし、worthについてはどうでしょう。前置詞はふつう比較変化をしたり、veryで修飾できたりしません。これらは形容詞としての特徴です。なので、worthをはじめとした一部の形容詞は目的語をとることができるものとして特別扱いしないといけないのですね。

 さて、分類だけでおわっては英語力の向上につながらないので、最後に比較変化をしているworthと、veryで修飾されているworthをつかった実例をみておきましょう。


 ちなみに、薬袋先生の著書だと『学校で教えてくれない英文法』『英語リーディングの探究』(ともに研究社)などにworthへの言及があるようなので、興味のある方はご確認ください。


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