convenientの語法が辞書に載ってない?
これは昨年2023年に「黄リー教を楽しむ会」で実践演習マラソンというイベントをやっていたときのことです。
当時このツイートをきっかけに「この辞書にはのってた」「この辞書にはのってない」「いやそもそもconvenientは人を主語にとれるぞ」などなど、それなりにおおくの反響をいただきました。今回は、当時の裏話や余談的なこともふくめて記事にまとめたいとおもいます。
「人 is convenient.とは言えません」
『基本文法から学ぶ 英語リーディング教本 実践演習』の問題23の解説に「人 is convenient.とは言えません」とあります。
conveninetの語法は日本人がまちがえやすいポイントのひとつなのでしょう。いままでにも他の参考書で同様の説明をみたことがあります。いくつか引用してみましょう。
説明の仕方はすこしずつちがいますが、どれも人 is convenient.とはいわないとしていますね。
語法に強いジーニアスに載ってない?
当時、実践演習の問題を解いて進捗をTwitterに投稿する前に念の為、convenientをわたしが愛用しているジーニアスをひいてみました。すると、おどろいたことに「人を主語にとらない」と明記されてなかったのです。
ためしにiOSに内蔵のウィズダムをひいたところ「convenientは人を主語にしない」とのっていました。オーレックス2、アクセスアンカー2、プログレッシブ4にも、同様のことがかいてありました(語義語源辞典にはかいてありませんでしたが、こちらは単語の語源などに特化した編集方針なので仕方がないかもしれません)。
ジーニアスは語法に強いことに定評がある辞書のはずです。それなのに、ほかの辞書にのってることがかいてないなんて……まさか、こんなことがあるとは……。
しかし、ジーニアスにのっている例文をよくよくよんでみると、人が主語の例文がひとつもありませんでした。そこで私は「『そういう使い方をした例文がない』ということは『そういう使い方はしない』ということ」とかんがえて納得することにしたのです。
黄リー教の姉妹本である『徹反』にもこういう記述があります。
ところで、冒頭に引用したツイートに「#辞書を引いてみよう」というハッシュタグをつけていますね。これは実践演習マラソンの参加者のみなさまに「辞書をひくおもしろさを伝えたい」という想いから使用していたハッシュタグです。
ジーニアスにお目当ての語法がのってなかったことは少し残念でしたが、このことを話題にすることで、みなさまがじぶんの辞書をひくきっかけにしてもらおうとおもいました。
ジーニアス第5版にだけ載ってない?
実際「『convenientは人を主語にはとれない』という語法は皆さんの辞書に書いてますか?」という呼びかけに、たくさんの返信をいただきました。
その一部をまとめると以下のとおりです。
著者の薬袋先生からも引用リツイートをしていただきました。さて、いろいろ反応をいただくなかで、いくつか気になる情報もでてきました。
ななな、なんと、ジーニアスにconvenientの語法がのっている? わたしのもっているのは第5版なのですが、ほかの版にはのっているみたいです!
よせられた情報をまとめると、ジーニアスの初版、改訂版、第4版、第6版と、ジーニアス英和大辞典には明記してあるようです(この分だとおそらく第3版にものっていることでしょう)。なぜ第5版だけconvenientの語法が削られたのかは謎は深まるばかりですが、紙面の都合などがあったのかもしれません。
ひとつの辞書だけにたよっているとたまたま載っていなくて困ることもあるでしょう。もちろん掲載されている例文の特徴から読みとることも可能ですし、そういった力を身につけることも大事です。ですが、はじめから明記してあったほうがconvenientな辞書ですよね。
結局、毛色とレベルのちがう辞書を2冊以上用意しておく(あるいは語法やcommon errorsに特化したリファレンスをもっておく)のがベターかもしれません。
本当に「人 is convenient」は不可なのか?
さて、最後になりますが、実際には「人 is convenient」がつかわれることもあるようです。これは英語のできる信頼できる方がおっしゃっていたので本当のことでしょう。
YouGlishで実例をさがしてみたところ、以下のような例がでてきました。
He is as convenient as my old slippers.(使い古しのスリッパくらい彼は便利です)と、プーチン大統領がいっていたそうです。なんとおそろしい例文でしょう……。このように「アイツは都合がいい」という文脈においては、convenientも人を主語にとれるようです。
もちろん「あなたのご都合がよろしければ」といいたいときに"if you are convenient"とするのは誤りです。これはおそらく「あなたが便利屋だったら」みたいな意味になってしまうんじゃないでしょうか。
ちなみに、もし人について「便利、都合がいい」こと肯定的に述べたいのならThank you, you've been very helpful.(ありがとう、本当に助かりました)とか、He was very helpful.(彼のおかげでとても助かった)というふうに、helpfulをつかうのが適切です。
以上のように、convenientは非英語圏の人がまちがってつかいやすい単語のひとつだとおもうので、「人 is convenient.とは言えません」といいきる説明は有効だとおもいます。
実践演習マラソンの開催中は、あまりひとつの話題をながくひっぱっても仕方がないかなとおもい深くは追求しませんでしたが、ひさびさに当時のことをおもいだしてまとめてみました。
すこしでも興味深いとおもっていただければさいわいです。
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