吃音せんせいVol.4:吃音改善の落とし穴
幼少期から吃音に悩んできた私は、吃音を改善するために様々なことを試してきました。私はこれまで高校教員として15年以上教壇に立っていますが、幸運なことに症状はかなり改善されていると思います。それでも、吃音の改善を目指す中で症状が悪化した時期もありました。今回はそのエピソードについて触れたいと思います。
話すことはこんなに簡単なのか
私は小学生の頃から、吃音を改善するために様々なチャレンジをしてきました。それは、高校教員になってからも同じです。現在も「吃音ノート」を持ち歩き、改善のために試したことやその成果、気づきを書き残すようにしています。私は独り言や我が子と会話をしているときには吃音の症状がほとんど出ません。それゆえに、そのような場面では「話すことはこんなにも簡単なのか」と思います。その感覚を知っているからこそ、「どんな場面でも自由に話したい」、「どんな場面でも話せる方法があるはずだ」と吃音改善の意欲が高まるのですが、それが別の場面では一変して吃音の症状を自覚して落ち込むこともあります。
落とし穴
吃音を改善したいという気持ちが高まると、落とし穴にはまることがあります。私も以前その落とし穴にはまり、吃音が悪化したことがありました。吃音を改善したいという気持ちの方向性を誤ると、「吃音を抱える自分自身を否定する」という状態に陥ります。私も「吃音さえ無ければ」「吃音のある自分は無能だ」「自分を変えたい」、そう思うようになってしまいました。その結果、自分自身で吃音の症状を厳しくチェックするようになり、様々な場面で私が言葉を発するたびに、「どもらなかったか」「さっき少しどもってしまった」「こんなことも言えないのか」など、自分を責めて話すことに自分で大きなプレッシャーをかけるようになっていました。あのとき、話すという行為そのものが、凄く怖かったです。
負のスパイラル
私は現在、吃音を通じて自分自身と向き合うことで、自分自身と強く繋がれているとポジティブに捉えています。しかし、吃音改善で自分を追い込んでいた時期は、自分と向き合っているようで、ちゃんと向き合えていなかったと思います。私が向き合っていたのは「吃音を抱えるありのままの自分」ではなく、表面的な「吃音の症状」だったのです。常に自分の状態を「話せるか」「話せないか」で厳しく評価していただけでした。私は地域の吃音のつどいに参加する中で、「吃音を治そう」とか「吃音と付き合っていこう」とか様々な考え方に出会いました。人によって考え方は違うと思いますが、私はそのどちらも大切なことだと思います。以前の私は「吃音を治そう」が強すぎて、吃音を持つ自分を否定することで、自分で自分の自信を奪っていたように思います。自分に自信を持てなくなると、話すことがさらに怖くなります。そのような心理状態では吃音の症状は出やすくなりますし、その結果さらに自信を失うという「負のスパイラル」が起きていました。
ありのままの自分のまま成長する
吃音改善の方向性は、自分を否定し別の自分になることではないと思います。「吃音はあっても価値のある自分」を認識し、ありのままを受け入れることが大切です。〇〇ができるから自分には価値がある、〇〇を持っているから自分には価値があるというものではなく、「自分はこれでいいんだ」と無条件に受け入れることです。「ありのままの自分の延長線上に少し話せる自分がいる」という認識で前に進みたいと私は思います。成長したいと思うことと、ありのままの自分を受け入れることは相反することではないということを、この経験から学ぶことができました。吃音のある自分を受け入れると、不思議と「どもってもいいや」という気持ちなります。そうすると話すことの心理的なハードルが下がり、話しやすくなります。結局のところ、吃音はどこからともなく勝手に発生しているのではなく、自分自身が引き起こしているのだと改めて思います。吃音を改善するためには、話すテクニックだけではなく、精神的な面にもしっかりアプローチする必要があるのではないでしょうか。
ありのままの自分の受け入れ方
私は通勤の車の中で、ぶつぶつ独り言を呟いています。基本的には自分が感じたことを言葉にしているのですが、仕事でプレッシャーのかかる場面で話さないといけないときには、「やばいな~緊張するんだよな~」とか、「言葉が出るかな~」とかぶつぶつ呟いています。同時に、「吃音があってもいいんだ」、「うまく話せなくてもそれが自分なんだから」など、自分を受け入れる言葉も必ず発するようにしています。まずは自分が感じていることに気づくこと、それに捉われない俯瞰的なメッセージを自分自身に送ることで、少しずつですが、ありのままの自分を受け入れた上で一歩を踏み出せている気がしています。そういった習慣が身についたことで「吃音が小さなこと」に思えてきた感覚がありますし、この感覚が私の吃音の症状に良い影響を与えているようです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。