カワイイのはクチでした #10 カルガモのクチ
可愛さ余ってなんとやら。じっと見ているとなぜかしらだんだん腹が立ってくるほど可愛らしいこの生き物は、カルガモのヒナであります。このヒナの愛らしさの源泉は、私に言わせればやはりωすなわちクチバシとその周辺にあるのです。
数年前、カルガモが子育てをしているという噂をキャッチした私は、滋賀県大津市のホテルへ赴きました。すると、いるわいるわ、ホテル中庭の噴水池に、人の拳よりもまだ一回り小さいくらいのヒナが十数羽、目にも留まらぬ猛スピードで走り回っていました。私はいそいそとカメラを取り出して撮影させてもらったのです。
カルガモのヒナは、全身がポワポワした毛玉のようで、それを見ただけでもう血圧が上がります。そしてこの、クチバシからホッペにかけての丸みというか曲線というか、口角のあたりがキュッ上がった、笑顔のような表情がたまりません。柔らかな曲線で構成されたクチバシを見ると、私などはもう、その間にそっと指を差し込んでみたくなるような誘惑にかられます。いや正直に白状いたしますと、カモのクチバシにわざと手をはさまれてみたことが、過去に何度もあるのです。そのクチバシは、堅くも柔らかくもなく、冷たくも熱くもなく、もちろん痛いわけなどなく、ただただ、はさまれると幸福になれるという、ふしぎな物体なのであります。と、ここまで書いて思い出しましたが、はさまれると幸せになれるクチバシがもうひとつありました。掛川花鳥園のクロツラヘラサギです。これは最高のはさまれ心地であったことをここに報告いたします。
このnoteは、2013年に新聞で配信したコラム(全12回)です。